第14話 美醜
昔々とあるところにとても美しい部族がいた。
その部族は一目見たものを惚れさせた。
その部族を見て狂ったあるものは言った。
「あれは人間ではない。そうだあれは九尾だ。。神が遣わした魅惑の狐だ!」
たまたまその人間が元々教養があり位が高かったものだから人々はその言葉を信じた。
人でないならばと今まで畏怖さえ抱いていたその容姿を恐れなくなり同族ではないのだからと捕まえた。
捕まったものは売りに出された。花街に曲芸団に見世物として位が高い人間の人形として。
そんな生活が数十年続き耐えきれなくなった部族は山奥へ姿を隠した。
人の目を避けるように小さな村を作った。
やがて数百年を経てその美しき部族の存在は時代の混乱と共に霞のように人々の記憶から薄れていった。
暫くは平穏だった村だがとうとう村の外の人間に見つかってしまった。
年寄りたちは恐怖した、またあの地獄がやってくるのかと仲間が連れ去られ弄ばれた地獄が。
あまりにも年寄り共がおびえるので村の若い者たちもおびえ始めた。村で伝わる地獄がやってきたのかと。
村人たちは抵抗しようと思った。村で一番年を食っていた僧に相談し醜い仮面をかぶることにした。
容姿のせいでアレが起こったのなら隠せばいい…そう考えたわけだ。
あるものは夜叉をあるものは男の霊、悲しみに死んでいった女の霊を模した仮面をつけたボロボロになった木の枝や布で桂を作り祭りを行った。
その祭りは村に代々伝わるもので奇声を発しながら踊りこの村に立ち入ると仮面のようになるという呪いを込めた太鼓を全身全霊でたたくというものだった。
皆死に物狂いで太鼓をたたいた撥から木くずが飛び手元がくるって太鼓の胴をたたいた。太鼓がはちきれるのではないかと思うほどにたたいた。
女子供もたたいた。
木の幹や地面を棒でたたいた。
すべてはもうあの悲劇を起こしたくないという思いからだった。
祭りは三日三晩続いた。皆精魂尽き果てていた。
そして祭りも終わりに差し掛かろうとしたときに一発の銃声が響いた。
打たれたのは太鼓をたたいていた夜叉だった。
続いてもう二発なった。打たれたのは夜叉の近くにいて待っていた男の霊と女の霊を模した仮面をつけた者たちだった。
村は騒然とした。長らく外との関係を断っていたから文明の利器を知らなかったのだ。
そして何度も何度も銃声がなる。銃弾の雨が降り注ぎ女子供老若関係なしに等しく命を奪っていった。
祭りと同じく三日三晩、銃の雨は続いた。
銃の雨を降らしたのは政府だった。政府の軍隊だった。
祭りを見て狂人だ。食われると判断した愚かな政府に行って世界で一番きれいだった部族は消え去ったのだ。
あとに残されたのは老いた僧だけだった。
血だまりの中に立ち焦点の合わない仮面をつけていた。
そして政府の軍隊が見守る中僧はゆっくりと自身の仮面を外した。
見たものは凡て息を飲んだ。
其処にいたのは人間とは思えないほどの美貌を持つ青年だった。
齢100の人間とは思えないほどに若々しく洗練された所作でほほ笑んだ。
他の人間は息をするのも忘れただ見惚れていた。
そしてほほ笑んだかと思うといつも間にか紅い花が咲いて倒れていた。
息を吹き返した軍のものが見てみると僧はのど元に短剣を突き刺していた。
「惜しいことをした」
その場にいた誰もが思った。
そして常世で一番美しい種族は全て彼岸へ帰ってしまった。
余談だが軍の者で銃を持った者はひどくわがままになったそうな。
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