第4話 女王蜂様 オタク趣味を熱く語る

 一気にざわめきがひろがる。


「異世界?」

「女王蜂様?」

「志村けん? 変なおじさんの真似?」


 そんな中で、毅然として席を立ったのは、生物化学部の眼鏡っ娘理系才女三俣真理みつまたまりだ。

「その『異世界の女王蜂様』がこの世界に何の御用ですか?」


「それは『ぶんぽう』よ。『ぶんぽう』。『ぶんぽう』ってなんだか分かる?そこの君」


 うわっ、僕が指された。一番前の真ん中の席はやはりやばい。


「えーとえーと。O田胃散……」


「それは『分包』」


「英語のグラマー」


「それは『文法』」


「戦国大名が自国領内に適用した法規」


「それは『分国法』。だいぶ、苦しくなって来たね~。まあいいわ。さっきの眼鏡っ娘ちゃん。貴方は知ってるでしょ?」


「『分封』。蜂の巣に新しい女王蜂が出来た時、前の女王蜂が新しい巣作りのため、巣立つこと」


「せいか~い。頭いいね。うん、いい戦力になりそうだ」


「先生。質問です」


「なーに? 眼鏡っ娘ちゃん」


「眼鏡っ娘ちゃんじゃなくて、三俣真理みつまたまりです。『分封』は元の巣から働き蜂の半分を連れて来るはずですが、働き蜂たちはどこにいるんですか?」


 ずううううーーーん。

 その言葉を聞くやいなや、蜂野先生は教卓に両手をつき、見るからに落ち込んで見せた。


「やっぱ、それ聞くよね。やっぱ……」


「先生?」


「……ったのよ」


「はい?」


「誰もあたしについてこなかったのよ。働き蜂あの娘たちはっ! こっちの世界そんな過激なところ、怖くて行けないって……」


「過激? こっちの世界がですかぁ? そんなぁ」


 思わず先生は三俣真理みつまたまりのところに駆け寄ると、その両手を握る。

「そうよねっ。そうよねっ。こんなアニメもマンガもゲームもラノベもアイドルも楽しいところないよね。過激だとか怖いとか、何を言ってるのかしらねっ。働き蜂あの娘たちはっ!」


 アニメにもマンガにもゲームにもラノベにもアイドルにも、全く造詣が深くないらしい三俣真理みつまたまりは硬直してしまった。


 代わって、うっかり僕から声が出た。

「過激と言えば、過激な面もあるけど、そんなに怖いかなぁ」


 先生は地獄耳だった。


 今度は僕のところに駆け寄り。両手を握った。

「そうよねっ。そうよねっ。これくらいどうってことないよね。大体、もといた世界がアニメもマンガもゲームもラノベもアイドルも、つまらなすぎるのよ」


「え?先生のいた世界にもあったんですか? アニメもマンガもゲームもラノベもアイドルも」


 先生は握っていた手を離すと、右手で勢いよく僕の左肩を叩いた。

「そうなの。もう、聞いて聞いて。元いた世界ときた日にゃ、アニメは『桃太郎海の神兵』だし、ゲームは『双六』だし、アイドルは『白拍子』だし、マンガは『鳥獣戯画』だし、ラノベに至っては、こないだ出た『竹取物語』が大人気なのよ。大体、働き蜂あの娘たちはその前は『万葉集』の恋歌読んで、キュンキュンするって言ってたんだから」


「どういう世界なんですか? 先生のもといた世界は?」

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