第2話 女王蜂様 ホームルームに乗り込む

「校長センセ。一つお願いがあるんですが……」


「なんだね。めきみちゃんじゃなかった、蜂野先生」


「副担任って、始業式が終わったら、職員室で待機しなきゃでしょ。でも、せっかく生徒たちみんながあたしのこと慕ってくれてるんだし、あたしもクラスのホームルーム行きたいな」


「めきみちゃんのお願いならなんでも聞くじゃなかった、その生徒に対する情熱! あっぱれあっぱれ。もちろんOK!」


「わ~、ありがとー、校長センセー」


 もちろん、以上の会話、始業式の壇上でのライブ中継。全生徒及び全職員に筒抜けであった。


「くそー。いいなー八組のやつ」

「俺も八組に行くぞっ!」

 たちまち巻き起こる男子生徒たち野郎どもの声。


(だ、大丈夫なのか? うちのガッコ。確かに前から緩いとこあったけど)

 

 僕の懸念をよそに、嵐のホームルームは始まらんとしていた。



 ◇◇◇



 一年八組のクラス内は物凄い熱気に溢れていた。


 蜂野先生の入室に熱い期待を寄せる男子生徒、自分の彼氏又は標的の気持ちが蜂野先生に向かないか気が気でない女子生徒。


 更に凄いのは、教室の廊下側の窓を全て外し、一年八組を見て来ている男衆。


 男衆と言ったのは、見に来ているのが男子生徒ばかりでないからだ。


 廊下の窓から教室内に乗り出さんばかりに最前列にいるのは、ジャージ姿の髭の体育教師にして一年三組の担任「鬼熊」こと熊谷直実くまがやなおざね先生三十二歳である。


(本当に大丈夫なのか? うちのガッコ。何だか泣けて来た)



 ◇◇◇



 だが、僕はガッコの心配ばかりもしてられないのだった。


 僕の席は一番前の真ん中。普通はみんな嫌がる席だが、強度の近視に乱視を併せ持つ僕は、自ら希望してここの席にしてもらっている。


 そう。ここの席に僕がいる理由は、「強度の近視に乱視」なのだ。決して蜂野先生目当てではない。


 大体、僕はあんなアメコミのヒロインみたいな「ザ・ナイスバディ」は苦手なのだ。僕はどちらかというと紗季未さきみみたいなタイプが、いやいやいや。


 だから、お願い。「てめぇ、愛しの蜂野先生に一番近い席に座りやがって」という強烈な嫉妬ジェラシーの視線を浴びせないで、本当に落ち着かないんだから~。


 あ、そう言えば、紗季未さきみはと、振り向けば、一番、後ろの席で落ち着かない様子で座っている。


 やっぱ、こういう雰囲気苦手なんだろうなぁと思っていると、いよいよ一年八組担任粕川衆作先生とその後についてきた蜂野先生が姿を現した。


「うおぉぉぉぉーっ」

 歓声が上がる。


 一番声が大きいのは、やっぱ鬼熊先生だった。




  

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