第297話 温泉、渓谷、紅葉

 夕闇が迫る頃。


 家族とギルバートと一緒に晩餐の時間。

 ちなみにリリアーナ王女ことユリナは私の従者って事になってるので、ラナン、リーゼ、お母様の侍女さんと一緒に別室で食事をしている。


 本日のメニューはマグロのステーキ。


「ティア、戦勝記念パーティーはどうだった?」


 辺境伯家では私が代表者として出たので両親は留守番組だった。


「ポヨ……ポヨポヨ……プルンでした」

「ん? 美味しいプリンかゼリーでも出たのか?」


「ヴィジナードでは胸元を大きく開けたドレスが流行っているのか、柔らかそうなお胸の景色が圧巻で眼福でした。と言う意味です」


「「ゴホッ! ゴホッ!!」」


 お父様とギルバートが、同タイミングで飲んでた水をむせてしまった。


「ティア……」

「貴族らしく婉曲表現を使ってみましたが、伝わらなかったようなので」

「今のはどう考えてもおかしいでしょう」

「うふふ」


 お母様にクールな視線で睨まれてしまった。

 素直な感想だったのに。


「コホン。

パートナーを失ったヴィジナードの貴族女性はなりふり構っておれない状態だったと見える」


 ギルバートが補足説明をした。


「でもあのドレスは素敵でしたよ」

「ああ、つまりはそういうことか、ウィルバート宛にも沢山手紙などが届いてる」

「え? まだ幼いウィルバートにですか?」


「そうなんだ、婚約希望の家門から多くの釣書きが届いてるし、まだ社交会デビューも遠いのにお茶会だの幼い娘の誕生日会に来て欲しいなどの申し込みが殺到している」


「なるほど、ヴィジナードの女性の婚活は私から見ても激しかったので、国内の有力貴族の子息が奪われる前に囲い込みたいのでしょうね」


 やはり貴族って青田買いの世界よね。


「とりあえず家格を考えるなら伯爵以上の家門の令嬢からですわ」

 お母様のお言葉は現実的だ。


 この食事の場にはウィルバート本人もいるけど、よく分かってなくてきょとんとしている。


「姉さま、今日のデザートは何ですか?」

「プリンです」


 ビクリと肩を揺らしたギルバート。

 ただのプリン発言ですよ、落ち着いて。


「やった──っ!! プリン!!」


 デザートのプリンに無邪気に喜ぶ弟が可愛い。


 ちょうどタイミング良くデザートのプリンが運ばれて来て、私は話題を変えた。



「明日の私の予定ですが、浄化ツアーの疲れを癒す為に温泉地、ギルバート様の別荘で二、三日ゆっくりします。リリアーナも連れて行きます」


「そうか、ゆっくりして来るといい、今回は色々あったし、領主主催の収穫祭も無いから、地元の農村でやりたい所だけ小規模でやる事になっているし」

「ギルバート様、ティアをよろしくお願いしますわ」


「ああ、別荘でゆっくりさせておく」


 両親に私のお目付け役を頼まれたギルバートが力強く頷いた。



 * * *


 私とユリナと護衛騎士達は朝食後に別荘へ転移陣を使って移動した。

 まったりと温泉に入る。


「ユリナ、まず水着を選んでね」

「ここの温泉は水着なんですね」

「知らない人に裸を晒すのが苦手な人が多いでしょうから」


「なるほど、確かに助かります。ティア様の水着はどのような?」

「この花柄ですよ」


 インベントリから出して見せた。


「わあ、可愛い〜〜」

「私は……えっと、この黒で良いです」


「ユリナの好みは黒水着ですか、セクシーで良いですね」

「え、セクシーですか!? じゃ、じゃあ青にします」

「何故……」


「く、黒なら地味かと思ったんです」

「何を言っているんですか、黒の水着と下着はセクシー系ですよ」

「あああっ」


 私は赤くなったユリナの天然ぶりにクスクスと笑ってしまった。

 ユリナは結局青い水着を選んで着た。


 * *


「わあ〜〜温泉に入れるなんて嬉しいです」


 ユリナは温かい温泉に浸かってほんわかしてしている。

 いきなりこっちの世界でハードモードな体験ばかりだったので、彼女にとっても癒しになってくれて良かった。


「ふふ、良かったわ、リラックスしてね」



 お昼にはついに溶岩プレートのデビュー。

 ジュワーと、肉が焼ける音を聞きながらのBBQ。


「目の前でステーキ肉が焼ける音が! この臨場感が最高ですね!」

「お分かりいただけたかしら、さすがね、ユリナ」


 本日はギルバートの別荘の庭にて護衛騎士達も一緒にBBQランチ。


「昼食の後で川、渓谷の紅葉スポットも有るから、船で行きましょう」


「わあ! 紅葉を船から見るなんて素敵ですね」

「あ、良い感じに焼けたようです」

「はい」


 リーゼが肉の焼け具合を真剣に見ていて報告してくれる。


 湯気の立つ美味しそうなステーキ肉が眼前にある。

 ワクワク。


 刃物なら任せろとばかりにイケメン騎士達がナイフで肉を切り分けてくれる。


「これはまず、シンプルに塩で、その後、このステーキソースでどうぞ。

プレートは熱いから火傷しない様に気をつけて」


「「はい!!」」


 いや、味付けは好きにして良いんだけど、一応説明した。


「……美味しいです!」

「本当に!」


 ユリナとリーゼも溶岩プレートで焼いたステーキにはしゃいでいる。可愛い。


「さもありなん……」


 私も美味しいお肉を味わいつつ、満足してる。


「シンプルに美味い……」

「ステーキ肉最高だな」

「肉汁が……ジューシーだ」


 ギルバートや騎士達も美味しそうにステーキを食べている。


「ライリーには溶岩プレートでステーキを食べる文化まで有るんですね」


 ユリナが素直に感心している。


「実はギルバート様やお父様や騎士達が溶岩を取って来てくれて、溶岩プレートで食べたのは今日が初なのよ」

「ええ!? そうだったんですね」


「本当は結婚祝い品は何が良いか聞かれて、色々リストに書いて、その中の一つに溶岩プレートを入れたのだけど、結婚前にお試しで作った分を今日使ってしまったの。待てずに」


「あら、でも成功ですね」

「そうなの、良かったわ」


 ほっくほくである。文字通り。



 * *


 BBQの後に紅葉の渓谷を眺めながら船で優雅に川を渡る。

 透明な川の水にも赤と黄色の美しい紅葉が映り込む。


 私はクリスタルを構えて景色を記録する。


 うん、温泉とバーベキューと紅葉ツアーで、かなりリフレッシュ出来たと思う。

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