第125話 消えたリア

「何の音?」


 突然の大きな音。それだけでも驚いていたのに、下から何か嫌なものが湧き上がる気配がする。そう、この気配は……。


「どういうことや? 瘴気が突然噴き出したで!?」


 スピアーが驚いて声を上げた。

 同時にラヴェルの姿の光の像が乱れて、スッと消えた。

 弾は飛んでこない。代わりに悲鳴が、怒号が足下で飛び交っていた。


「ブレイド、どうしよう」

「……ボク達を狙ってきたヤツらだ……。それに、アイツラヴェルも――」

「……そう……だけど」


 確かに気持ちは複雑だけど、目の前で瘴気に飲まれていく人たちを見殺しになんてしたくない。例えそれが、元婚約者でも。


「むずかしい……」

「リア?」


 下をじっと見詰めるリアは、突然スピアーの腕からすり抜けた。まるで液体のようにするんと……。


「って、え、え? えぇぇぇぇぇっ!?」


 落ちていく彼女を追って、スピアーが飛んでいく。だけど、吸い込まれていくスピードがあまりにはやくて……。

 私は急いで風の魔法を使った。どうか、彼女に届いていますように!!


「ブレイド、助けに行かなきゃ」

「あ、あぁ!」


 あの子は赤い瞳だけれど、聖女の力があるかどうかなんて確かめてない。だから、いまあそこに落ちて、力がないとしたら……。いやいや、それ以前に落ちたら――っ!!


「リアーーーー!!」


 スピアーが間に合ってますようにと祈りながら、ブレイドにしがみつく。

 森に入ると、そこはもう瘴気の中だった。


「スピアー!!」


 青い髪はすぐに見えた。呼びかけると走ってこちらにくる。だけど、彼の腕の中にリアはいなかった。


「すまん、見失った」

「そんな……」

「でも、落ちる前に風で浮き上がったのは見えたから直撃はしていないはずや」

「……はやく、探そうっ」


 風の魔法が間に合ったみたいだ。でも、浮かび上がったあとどうしてまた落ち続けたのだろう。私の魔法が不完全で、飛ばし続けることが出来なかったのか。

 深く考えてる時間なんてない。


「リアー!! リアーっ!!」

「エマちゃん、あかん!!」


 スピアーが止めるのも聞かず、足を進めると人であったモノがごろりとそこかしこに転がっていた。


「ひっ!?」

「魔物化してるのもおるかもしれん。ブレイド、エマちゃんしっかり守っとけ! リアはオレが」


 スピアーはそう言って走り出した。


「ブレイド、このあたりだけでも浄化しよう。もしかしたら、瘴気が消えてリアが見えるようになるかも」

「……わかった」


 ブレイドがまわりの瘴気を食べ始める。だけど、全然足りない。噴き出す瘴気のほうがずっとずっと多いみたいだ。


「ブレイド、ごめんね」


 背を向けている彼に小さく謝ってゆっくり三歩下がった。

 ぎゅっと手を握りしめ私は祈った。

 お願い、リアのいる場所まで瘴気よ消えてと――。

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