第122話 竜王子と弟王子
「ここは、あとは僕に任せて下さい。ブレイド兄さんはミリア様の元に行き頑張って下さい」
私達がいつも会議で使ってた部屋とは離れた場所にある部屋で話が進む。部屋にいるのはブレイドと私達二人、ミリアとクロウ、ブレイドの弟ライナモとその従者が一人。ライナモの従者は腕が立ちそうな騎士風の大男。
私はシルと一緒に全身をほぼ隠す衣装を着て、後ろに立って話を聞いていた。お世話係の人が着ていた服に少し似てるなぁ。この衣装だとシルも私も性別は変わらないように見える。頭にヴェールを被るので下半分くらいしか顔は出ない。まあ、おかげで視界も足元に制限されてしまう。
ちらりと確認したブレイドの弟の顔は彼とはまったく違うつくりだった。一見して兄弟と判別は出来ないくらいだ。
茶色の髪、緑の目、美しい甲冑を纏い、そこから出る手や顔はきれいに日焼けした肌色。
「エマ様――」
ドキリとする。ミリアの口からいきなり私の名前が出たから。
「――に関して、こちらで内情を知る者がおりました。聞けば、婚約者にないがしろにされ捨てられたとか」
誰。私の事を知っている。……て、そうか。彼女、元婚約者の隣りにいたあの人もまた赤い瞳の聖女だった。
「おつらい目にあったんですね」
急に口を手で押さえ泣くような素振りをミリアはした。
「でも、もう大丈夫です。我が国では赤い瞳の聖女はとても大切にされます。不安のない毎日、季節に囚われない美味しいご飯、おやつもたくさん」
くっ、耐えるんだ。私のお腹の音。今鳴ってしまうとっ!! すごく、面倒くさいことになるのが目に見えるのよ。
「さぁ、ブレイド様、エマ様を連れてわたくし達の国へ参りましょう。もうこの国にはブレイド様は必要ないのですから、必要としているわたくし達の国へ」
ブレイドが王に命令されていたのは国を守れ。元に戻せだ。瘴気がなくなれば王達は戻ってくると言われていた。
そして、それが現実になっている。
ブレイドは継承権を剥奪されてしまった王子だ。この国を継ぐ正統な後継者が現れれば、――でも。
「捨て行かれた民達はどうするつもりですか」
「は? 魔物化した者達など民ではないです。瘴気の、不安の象徴でしかない。国から追い出すに決まっています。あぁ、森か国の端っこくらいにならおいてやってもいいですが、人々から殺されても文句は言えませんよ。なにせ、人ではなくなって――」
ブレイドがダンッと机を叩く。怒っていた。
「なら、ライナモお前に任せるつもりなんてないっ。彼らは生きてる。ボクとともに暮らし続けてきた大切な仲間だ」
「はっ、化け物同士だから気があっただけでしょう。まったく王家の血を受け継ぐ癖に、魔物化した者達が仲間と? どうすればそんな考えになれるのですか。まあ、どうでもいいですけれど。どうせ、そこの布を被ってるヤツらも化け物なのだろう」
立ち上がりこちらに向かってこようとする弟王子ライナモの腕をブレイドは掴み捻り上げた。
「いった。はは、ほらやっぱり化け物じゃないか」
ブレイドの手と首、顔が鱗に覆われ逆立っていた。
「ボクは……そうかもしれない。だけど、皆は……絶対に違う!」
ライナモの腕を勢いをつけて離す。二、三歩よろめきながらも立て直しライナモは椅子に戻った。
ブレイドがそれを一瞥した後、ふっと鱗が消えた。
「お前がなんと言おうと僕が国を継ぐことは決まっているんだ。さっさとミリア様のところに行け!!」
「ボクは行けない。そんな考えの人間にこの国の人達を任せてなんて! もちろんエマだって、連れて行かせない。ボクは彼女とここで――」
ドンッと一際大きな音がした。まるで近くに雷でも落ちたかのような。
「何だ!?」
ライナモが叫ぶ。同時に全員が立ち上がり音がした方の外が見える場所へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます