第110話 懐かしい味のご飯
小さな宝石がついた首輪は切れ目や継ぎ目がどこにも見当たらない。
「これって、何?」
手を伸ばし触れようとすると、お父さんは顔を振り私の手をそっと押し戻した。
「これはね、ここから逃げようとした場合すぐ知らせが行くようになってるんだ。そして同時に電気が走り、麻痺して動けなくなる」
「――どうして、そんなものを?」
「それはね――、僕がある計画に関わってるから……」
お父さんはハッとして、その後私の肩を掴んだ。
「エマ。その姿はまさか何かされたのか?」
「え、あーえっと、変身出来る薬を飲んでこうなってるんだけど」
「その薬はいったい誰が作ったものだ? ここにいる人物か?」
「あ、ううん。フレイルっていうここまで連れてきてくれた人なんだけど」
「……そうか。仲間が一緒なんだな」
言ったあと、ここの人でもあるのかなと思い直した。けれど、最近はここに来てなかったから、どう言えばいいのかな。
「いますぐ連れて帰ってもらうんだ。僕達は動けないけれどちゃんと生きてる。姿は違うかもしれないがエマにもう一度会えた。それで十分だ」
「一緒に行けないの?」
「すまない。さぁ、薬が効いているうちにはやく出るんだ」
そう言われたけれど、私は諦めきれなかった。
「外せないの?」
「あぁ、これは鍵がいるんだ……。エマ、外の仲間とはどうやって連絡をとるんだ? 何かあるのか?」
「えっと……」
もしかしたらフレイルが鍵を外せるかもしれない。私は扉に向かって呼びかけた。
「フレイル、フレイル!」
トントンと扉を叩いたりしてみた。反応はなかった。向こう側にいないのかな。不安がよぎり、心臓がドキドキとする。
「もしかして、何も連絡手段を持たないまま入ってきたのか」
「うん」
「……そうか。そこは防音だ。外からの音は聞こえるが中からの声は届かない。その人が呼びかけてくるか入ってくるまで待つしかないのか」
「……ごめんなさい」
大きな手で頭を撫でられた。お父さんは顔を横に振りながら、優しく言った。
「謝らなくていいよ。とりあえず、何か食べないか?」
「え?」
「エリヤのご飯があるよ」
「お母さんの……!」
聞いた途端お腹がなった。ずっとずっと夢見てた。あったかいお母さんのご飯の味。
「今用意しますね!!」
お母さんはそう言って、パタパタと用意を始めた。
ご飯を作ったり出来る生活が送れるなら、ひどい目にはあっていないのかな。私は少しホッとして、お父さんが座るように促したテーブルについた。
久しぶりのお母さんのご飯は、いい匂いのする魚の蒸し料理だった。
「でもこの魚って確か冬にはいないはずじゃあ」
「この国は……、ここだけだとは思うけれど竜魔石の魔法で四季を操っているんだ。だから、冬以外のものも手に入る」
「すごいね……」
そんなものがあるんだ。もしかしてそれもフレイルが作ったのかな。彼は今どこにいるんだろう。何時まで待てばここにきてくれるのかな。長くお父さんお母さんと一緒にいたい反面、ブレイドの事も気になってしまい私はずっとソワソワしていた。
なんとか彼に連絡が取れないだろうか。通信手段の竜魔道具を作れるようにしておけばよかった……。
そうだ、お父さんにハヘラータの竜魔道具の事も聞かなきゃ……。
ぐるぐると考えていると心配そうにお母さんが問いかけてきた。
「美味しくなかった?」
「!! ううん、違うの。すごく美味しい……。ただ……」
外に目をやる。ここは窓はない。けれど、外を見ることが出来た。壁が透明になって、光を中に入れることが出来るのだ。そして、壁の向こう側に空を飛ぶ竜の姿が目に入った。
「クロウ……」
銀白の竜がこちらに近づいてくる。その背にはきっとミリアが……。
よく見ると、連なって飛んでくるもう一匹の竜がいた。私がよく知ってる彼の髪色と同じ赤い色の翼を広げている。
「……ブレイド?」
どうして彼がクロウと一緒に空を飛んでここにきたのか。理解が出来なくて頭がぐしゃぐしゃになった。
まさか、ミリアのところにきたの?
彼は私の居場所を知らない。だから、ここに私がいるなんてわからない。だけど、彼はミリア達と一緒に飛んできた。
「どうして……?」
「どうした? エマ」
「エマちゃん?」
お母さんがぎゅっと抱きしめてくれたけれど、わけがわからなくて私は考え続けていた。
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