第89話 何が怖いの?

「追い出されたぁぁぁぁ」

「それでわたしのとこに連れてこられたのか」

「う゛ん…………」


 話のあと、ブレイドがルニアの部屋に行ってほしいと言ってきた。

 ブレイドにも聞きたい事はいっぱいあったのに。

 皆が私に食べていいよって言ってくれたお菓子の袋を握りしめつつ、私はルニアの部屋で食べる、食べない、今日、明日、明日からと葛藤しながら一個一個と食べていく。


「なんで、急に追い出されるの?」

「あー、それも言ってくれてないのか」

「うん……。って、ほぁ!?」


 ルニアに抱えられる。まるで、仔猫のように持ち運ばれる。

 何、何がおきてるの。こっちは、ブレイドの部屋だ。


「おーい、ブレイド。忘れもんだ」


 ノックに反応して出てきたブレイドにぽいっとパスされる。

 私の扱いちょっと酷くない?

 ブレイド、すごく驚いた顔をしていたけれど、慌てながらもしっかり受け止めてくれてよかった。


「話せる時にちゃんと話しとけ。あとで話せなくなった時につらいぞ」


 じゃあ、とルニアは走って帰っていった。

 残された私はブレイドの顔をうかがう。なんだか苦しそう。


「あの、大丈夫?」

「あ、あぁ大丈夫。ボクもいきなりだった。ごめん」


 謝りながらゆっくりとおろしてくれた。

 私は地面に降り立つと同時にブレイドに聞いた。


「どうして、追い出すの。居てもいいって言ったのはブレイドなのにぃぃ」

「うん、ごめん。ボクが怖かったんだ」

「……怖かった?」

「うん。エマはボクが怖くないのかい?」

「怖い? 何が怖いの?」


 ブレイドは小さく笑いながら続けた。


「だって、食べられるかもしれないんだよ?」

「ん? それがなんでブレイドが怖いって事になるの?」

「ボクが過去のエマを食べたってスピアーは言っていたじゃないか」

「そうだね。でもさ、私はいまエマだし、ブレイドも食べたって言う竜じゃないんだよね」


 たじろぎながら彼は頷く。


「なら、怖がる必要ってあるのかな? だって、ブレイドは最初会った時から竜だったし、私に臭くて食べれないって言って、その次はどんな姿でも食べてやるって言って、――私食べられるのかわらなくない? 今さら、過去の私? が食べられましたって言われても、今だって食べてやるって宣言されてるんだから、何も変わらないよ」


 私はそう考えて、なんだかおかしくて笑ってしまった。

 そう、別に変わらない。過去に私だったらしい人がお願いして食べられた。だけど、それは私じゃないもの。


「ブレイドが好き。だから、何も怖くない」


 瘴気で終わりがくるなら、私も彼にお願いするのかな。

 でも、悲しませるのは嫌だな。


「ボクは怖い。エマがいなくなったら。エマを傷つけたら。エマを食べる事になったら……」


 私はブレイドに近付く。背の高い彼に届くように精いっぱい背のびした。

 もうちょっと痩せてから言うつもりだったのに好きって言ってしまった。もう、こうなれば言ってしまえ。


「ブレイド、大好きだよ。食べてくれるって言うあなたに戻ってください」


 少し久しぶりに私から口付けをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る