第51話 あれ、この部屋?
「あったかい。もう少しここにいて」
すぐそばに温かさを感じた。それが離れて行きそうで手を伸ばし捕まえる。だけど捕まえた手を外されてしまう。頭を撫でられ、いってくるからと言われた。
どこに行くのかな? 私、もう少しこのあったかい場所にいたいのだけど……。
朝だ。窓から光がさしている。だいぶ寝過ごしているような。今日はルニアが起こしにこなかった? ダイエットは休憩日?
もぞりと顔を出す。そんなに寒く感じない。……というか、ここはどこですか?
昨日の事を思い出す。たしか、ブレイドの部屋で話してて。あれ、ブレイドは?
起き上がると見覚えがある暖炉にテーブル、二人で座ったソファー。
「あれ、ここって」
まさかの事態に私の頭は急発進した。ブレーキなんてどこにも見当たらない。すごいスピードで走り抜ける。
私、私、ブレイドの寝る場所をとってしまった!? もしかして、ブレイドは外でしくしく泣きながら寝転がっていたりする!?
急いで彼の姿を探すけれど見当たらない。
あのあと何をしたのか聞きたいのに、当の本人がいなくて私の想像だけが走り続ける。
「あの後何をしてたの、私!?」
もちろん答えてくれる私はいなくて……。
たしか、用意してくれたと思われる赤い果物を
あわあわしながら立ち上がるとちょうど扉が開いた。顔をのぞかせたのはブレイドだった。
「あぁ、起きた? エマ。大丈夫? 体は平気?」
「ブレイド! 私ったらもしかしてここで眠ってしまって? 本当にごめんなさい」
頭を地面にこすりつける勢いで謝ろうとするとブレイドにそれを止められた。
「落ち着いて、体は大丈夫?」
顔に手を添えられる。体の調子を聞かれ、私は確かめた。
体重、変化たぶんなし。頭、少し痛い。体の調子、すこぶる良好。というか、なんだかいつも以上に体が軽い?
「体の調子は特に問題なんてないけれど。むしろ元気すぎるくらい?」
「そう、なら良かった」
笑顔を浮かべるブレイドとぱちりと目があった。その瞬間彼の顔が真っ赤になった。
「えっ!? どうしたのブレイド。顔が赤いよ?」
何かあったのだろうか。まさか私がベッドを占領したせいで風邪でも引いてしまったのだろうか。
私が聞くと、ブレイドは腕で自分の顔を隠してしまった。
「何でもない。大丈夫。……エマ昨日の事、覚えてる?」
…………。なんて答えよう。この感じだとまさか私何かしでかしてしまった? うぅ、でも何も記憶にないよぉ。
私は覚悟を決めて本当の事を言う。
「ごめんなさい。えっと、あの赤い実をくれたところまでは覚えてるんだけど」
「え……? 赤い実?」
「え? くれたよね?」
「んん? ボクの部屋にはなかったけど」
会話が噛み合わない。ということはあの時点で私は夢の中!? その前を必死に思い出す。
「あ、えっと話が一段落して甘い飲み物を飲んだ。……はず。そこまでは……」
だんだん自分の記憶に自信が持てなくなっていく。どこまで私起きていたんだろう。
ブレイドは赤くなった顔が落ち着いてきたのか腕をおろしていた。
「その後すぐ、眠ってしまったんだ。最初さ、エマ暖炉がなくて寒いって言ってただろ。だから眠ったあとボクの部屋に寝かせてただけだよ」
良かった。あそこまでは起きてたのね。確信が持ててほっとしたけれど、結局ブレイドの寝る場所をとってしまった事実もまた決定的になってしまった。
「あのブレイド、昨日はどこで寝たの? 私がここにいたせいで追い出してしまったんじゃ……」
おずおずと聞くとまたブレイドの顔が赤くなった。
「あ、えっと夜中に瘴気が出たから外に行ってた。だから、その……。ボクはそんなに寝なくても大丈夫だから、気にしなくていいよ。それより、頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「頼みたいこと?」
なんだろう? 私が出来ることは限られてるし、私だけができる事は一つだけ。
「もうすぐルニア達が戻ってくる。それから説明するよ」
「わかった」
頷いて、思い出す。私、まだ夜の格好のままだった。
「すぐに着替えてきます!!」
そう言って、自分の部屋へと走り出す。
「エマ!!」
ブレイドが呼び止める。私はふり返り、用事を聞いた。
「なに?」
「昨日の話の続き、後でまたしよう」
「はい、またあとで!」
まだ続きがあったのに眠ってしまって申し訳なかったな。
パタパタと走りながら、部屋へと急いだ。
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