第32話 まかせた。明日の私……

「あぁ、お腹いっぱい」


 そのまま眠りにつきたいと思っているのに引っ張ってこられたのは何か話をする為に作られた部屋なのかな。しっかりした扉がついてて大きな机が真ん中に置いてある。

 ブレイド、ルニア、シルが机を囲んで座ってる。ここに突っ伏して寝たらさすがに怒られてしまうかしら。


「あとでどうなってもしらないからな」


 ルニアは笑いながらため息をつく。大丈夫だよ。だって、もう呪いはなくなったみたいだし。見てよこの細い体。ここから急激に太るなんて、それこそ何年か暴食しないとでしょう?

 私をのぞく三人は全然眠そうじゃなくて、話を始めだした。


「エマからの提案なんだけど、今日のアレは特別だと思ってもらいたい。今後は出来て一人だ」

「ありがとう。ボク達はやって貰う側だから強要するつもりはない。本当に感謝してる」

「あの、順番はどうするんですか? 誰からか決めておかないと、……ないとは思いますがエマ様に危害を加えられたり――」


 あ、私の話をしてるのかぁ。

 こくり、こくりと頷いているように頭を動かす。


「エマそれでいいか?」


 はーい、ルニア。大丈夫、聞いてますよー。


「それじゃあ、明日から――」


 まだまだ話は続いているみたいだけれど、私のまぶたは限界をこえてしまった。おやすみなさい……。


「お、おい、エマ…………」


 えへへ、ブレイドに名前を呼ばれながら眠れるのって何だか嬉しいな。


 …………。


 竜にきゅっと鷲掴みにされる。苦しい。あぁ、まただ。これは夢だと思いたい。大きな口に持っていかれる間もぎゅぅっと締め付けられる。ぎゅうう。ぎゅうう。


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 あまりの苦しさに叫ぶと同時に目が覚めた。

 やっぱり夢だった事に安堵するが、目が覚めた後もぎゅぅっとされている。いったい何が起こっているの?

 服がパツパツ。ぷにっとお肉に食い込んでいる。わー、もちもちお肉、美味しそう。


「って、何でよっ!?」


 どう見ても私の腕と足と腹。間違いなんてしない。ごく最近まで一緒だった脂肪さん。まって、あなたいなくなったはずでは?

 まさか、あのお腹に入る量限界突破後の最後の一口が余計だった? 嘘でしょ? たった一日の過ちで……。


「どうした! エマ!!」

「大丈夫か!?」


 ブレイドとルニアが同時に扉をあけて入ってきた。今、入ってこられると……。


「あ、あーエマ? だからわたし言っただろ? あとでどうなってもしらないからなって」

「だって、だってもう呪いはとけたってぇぇぇぇ――」


 一日めいいっぱい食べただけでこんなことになるなんて思ってなかった。またダイエット? 自己責任って、たった一日で? そうか、青竜スピアーは元に戻りたいからって一時だけの魔法を使ったのね! だけど用無しだからって呪いを元に戻して……。出てきなさいよ! スピアーぁぁぁぁぁ!!


「うるさいなぁ。なんやの? こんな夜中に」


 私の布団が喋った。しかも、動いた!!


「せっかくいい気分で寝とったのに」


 もぞりと中から出てきたのは、出てきなさいと思っていたスピアーだった。いやいや、なんでそこから出てくるのよ!! いったい何して……。


「スピアー!! これはどういうこと? 説明してくれる?」

「ん? あー」


 ひっぱりあげたスピアーがあくびをしながらこちらを見る。


「ほらっ」


 スピアーがそう言うと、服に締め付けられていた感じがすぐになくなった。ホッと胸をなでおろす。それからもう一度スピアーに問いただした。


「ほら、じゃなくて、ね? これはいったいどういうこと?」


 聞いている途中なのに、ブレイドに青竜を取り上げられる。待って、説明を――。


「あのなぁ。オレは緩和するいうたやん? まだ残っとるいうたやん? オレがずーっと呪いを食べ続けてるんや。お腹いっぱいやったり、疲れとる時はちぃーっとだけそうなるから覚えといてな」


 そうだった。嬉しくてなくなったって思い込んでた。このスタイルはスピアー次第で――。

 捕まったスピアーはそのままブレイドに連れて行かれた。

 その場に残ったのはルニアだけ。そのルニアと目が合う。そして、ぽんっと肩を叩かれた。


「ダイエット続けような、エマ」


 私は頷く。そうね。あの青竜に頼らなくてもこの体を維持出来るように頑張るわ……!!


「寝衣ゆるいヤツ用意してもらうよ。あと服も留め具外せば広がるようなの」

「……お願いします」


 おやすみと言いあいもう一度眠りにつく。そういえば誰が着替えをしてくれたんだろう。ルニアであることを願いながらそっと留め具とリボンを緩めた。

 ダイエット頑張って、明日の私……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る