第30話 卒業できた?

「まったく、何やってるんだよ!」

「言わないで。何言ってるんだろうって落ち込んでるところ」


 ルニアにチクチク言われている。何をって浄化をお肉との交換条件にしてしまった事だ。


「もっと、言う事あるだろう。私を好きになってとか好きだから私と結婚してとか!」


 なんて小声で怒られてしまった。

 でも、それはなんというか私が許せない。だって、元婚約者に愛してるって言われて頑張って瘴気を浄化していた。なのに、あんなに簡単に捨てられてしまったんだよ? だから、交換条件に愛して欲しいなんて言えるわけがない。

 一方通行の思いはもう嫌だ。ブレイドとは本当に好きになって愛し合いたい。そう思っている。――あと、食べないで欲しいとも。


「きれいになったんだからさぁ。もっとこう自信持って迫っていこうぜ」


 ルニアは好きな人にそうしてきたんだろうか。彼女の好きな人の話、そういえば聞いた事なかった。ルニアの事も知らない事が多い。私もっと色々知りたい。せっかく自由になったのだから。閉じ込められて瘴気と戦わなくてよくなったのだから。

 ルニア、今日のスパルタだって私にできない事は無理するなって教えてくれたんだよね。怖がらせておけばもうあそこに取りに行きたいなんて言わないと思ってるでしょ?

 えぇ、その通り。私もうあそこに行くつもりはない。

 今出来ることをするわ。私に出来ることは浄化と魔物化した人を元に戻す事。それから、今から覚えて出来ることを増やしていくのと元気に生きる事。あと体重を増やさないこと!!


「出来ましたよー!!」


 シルが料理を運んできた。あと、魔物化した知らない人たちが器用にお皿を持っている。

 ざっと見て、ここにいるのは三十人くらい。この前お肉に並んでた人はもっといた。

 一日に一人戻すなら一月、二月ひとつき、ふたつきくらいは食べられなくてすむかな。


「おぉ、美味しそうだな」

「いい匂いや、これならオレも食べようかな」


 人の姿に戻ったスピアーが皿をのぞき込む。小さいままの方が料理をとられる量が少なくなるのにな……。


「スピアー、格好がつかないって言っていたのにさっきは竜の姿になっていたのはどうして? 実はあっちの姿の方が気に入ってるのではないの?」


 だから、ほら小さくなってもいいのよ。その姿だと三倍、いや十倍量くらいは必要そうだもの。期待して言ってみたけれど答えは違うものが返ってきた。


「あっちは確かにかっこうつかん。けど、人間の料理を食べるならこっちのほうが美味しく感じるからな。疲れるから食べ終わったらまた竜に戻るけど」


 美味しくなるならしょうがない。けれど、とられる量が増え……って違う!?


「今の姿って疲れるんだ?」


 竜の生態って全然知られていない。竜の姿をあまり見ることがないのは普段人に化けているからなのかな。そんな考えがふっと浮かぶ。だから気になった。ブレイドは人の姿でよくいる。もしかして人の姿でいる方が疲れたりするのかな。


「竜の姿の方が楽やで。瘴気の消化もはやいしな。人の姿だと肩がこってしゃーない。ま、人の姿になるんはエマちゃんとこうして触れ合えるからこれから多くなるだろうけど」


 顔の横の髪を持ち上げられスピアーの唇が落とされる。一連の動きがあまりにはやすぎて私は反応出来なかった。


「小さい方が食べる量少なくてすむと思ったのにっ」


 赤くなりながら叫び、持ち上げられた髪を取り戻す。私の反応がそんなに面白いんだろうか。キスを迫ったりオレと行こうって言ったり、スピアーのこと、本当にわからない。


「オレ、竜の時の方がいっぱい食べるのに」


 スピアーは笑いながら料理の方に向き直る。その顔が少しだけ、本当に少しだけ悲しそうに見えたのはたぶん気のせいだ。


「さぁ、食べよう。エマ、ダイエット卒業おめでとー!」


 ルニアが声を上げるといっせいに皆が食べ出す。こうしてはいられないわ。ちょっと、それは私のよ!!

 ダイエット卒業。いい響き。今日くらいいっぱい食べたって大丈夫だよね。

 私はいっぱい並ぶ美味しそうな料理の全種制覇へと走った。

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