第19話 ダイエット始めました?

「おーい、朝だぞ!! 起きろ」

「あ、あと五分……」

「おいっ、昨日自分でアレをとるって言っただろ! いいから起きろーっ!!」


 鬼教官もとい、ルニアに起こされる。外はまだ真っ暗。あと寒い。昨日より絶対寒い!!

 布団を頭まで引っ張り小さな抵抗を試みる。


「はやく起きないと……、あの事言ってもいいのか?」


 その一言で完全に私の目は覚めた。


「起きますっ!! いま起きます!!」

「よし、では行くぞ! この服を着ろ」

「え?」


 渡されたのは通常よりスカート丈が短めで動きやすくなっているメイド服。世話役さんも着ていたものだけれど、こちらの方がフリルが多くて可愛いデザインだ。


「あの、これは……」

「着替えなんて持ってきてないだろ? シルから借りた」

「その通りなんだけど」

「いいから、着るんだよ!!」


 情け容赦なんかない。ルニアに一瞬で服を剥ぎ取られかぶせられる。


「あ、あれ?」


 心配していたサイズ問題。問題なく入った。


「すごいだろ! シルがサイズ直ししてくれたんだぜ」

「わざわざ!?」


 とてもぴったりだった。あとでお礼を言っておかないと。でも何故メイド服っ!?


「今着てるのよりは動きやすいからな」

「そうだけど……」


 この服を着てブレイドに会ったら……、休憩時間に本で読んだ【主とメイド禁断の恋】みたいで、きゃー。


「ほら、行くぞ。何赤くなりながら顔をふってるんだよ」

「な、何でもないわっ」


 ルニアを追いかけ外に出る。そこに大きな人影があった。

 立派な角。赤黒い大きな体。口から覗く牙。


「ほんとの鬼ぃぃぃっ!?」


 その大きな鬼は私の驚き様にひどく悲しそうにしていた。


「あの、ごめんなさい。もしかしてあなたも」


 そうだ、ここにいるのは元々人間だった人だよね。

 鬼は恐ろしい顔に苦笑いを浮かべ頭を下げてきた。

 どうしよう。傷つけてしまったかな。


「お、そっちにいたのか! エマ、今日はコイツも一緒に行くぞ! 名前はえっとオーニーだっけ?」


 ぶんぶんと鬼は顔をふっている。そりゃ、そうよ。そんな単純な名前なわけ、


「あぁ、オゥニィーだったか」


 いやいや、待ってください。だからそんな――。

 そんな名前だったらしい。鬼は縦に首をふっていた。


「誰から聞いたの?」

「そりゃ、シルからに決まってるだろ。コイツ、王族護衛騎士団目指してた騎士見習いらしいんだ。まあ、おいてかれた一人だけどな。昨日は見回り担当だったらしくここにいなかったんだと。どうだ、この筋肉。鍛えがいがありそうだろ。というわけで、エマのついでに鍛えてやることにしたんだ。ちょうどわたしの相手にもなってくれそうだし」


 ルニアはそう言うとニヤァと特大の笑みを浮かべた。オゥニィーが赤い顔をよりいっそう赤くしていたのは今度こそ気のせいではないだろう。女のカンが告げているわ。

 惚れている!!

 それはそうだろう。騎士団団長を務めるくらい強くてかっこいい女の人、私だって男なら惚れてしまう。

 それにしても、ルニアのコミュニケーション能力はいったいどこまですごいのかしら。私なんてたまに来てくれるルニアと、世話役以外はなかなか話す機会がなくて、空いてる時間といえば本と向き合う日々だった。だから他人と喋るのだってドキドキするのに。

 彼女がいなかったらこうやってここの人たちと知り合う事もなかったかもしれない。一緒にきてくれてほんとに良かった。


「さぁ、行くぞ。山越え谷越え実のなる場所へ」


 ん、ん、ん? この人今なんて言いました?

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