第8話 学園生活再び(2)
名目上はマリアの侍女という形で、学園に戻ってきました!
卒業までに残り後一ヶ月、公爵家で学んだ方がこの先色々良い気もするが、三バカトリオを何とかしないと私の立場が危うい。
登校早々に三バカもといアーサー皇子・リカルド・ジェームズとに絡まれた。
「リリー、会いたかった!」
公衆の面前で両手を広げてくるアーサー皇子に対し、私の眉間に皺が刻まれる。
私の人生を潰しかねない地雷男の胸に飛び込むなんて愚行を犯す気はない。
口を開こうとした瞬間、リカルドに遮られた。
「君が、学園からパッタリと姿を見せなくなって心配したんだ。マリア嬢の侍女をしていると噂になっていたが、何故そんな危険な女のところで侍女をしているんだい? 何か弱みでも握られたのかい?」
「え? 違いますけど」
頓珍漢な問いかけに、条件反射で否定した。
「そんな青白い顔に目の下のクマを作らせるような環境に居た証拠だろう! 本性を現したな悪女め!
無理矢理復学させた皺寄せで、検索君3号と3.5号君の試作品を作るために細切れ睡眠で乗り切った私に対する失礼な暴言にいい加減キレて良いかな~とマリアを見ると、お好きにしなさいとばかりに小さく頷かれた。
「先ほどからマリア様に凄く失礼なことを言ってますけど、前提条件が間違ってます。卒業したら最低5年の宮勤めで、下から数えた方が早い成績とマナーも躾もなってない野猿をちょっとおバカな人間にまで教育して下さった大恩人に無礼千万なんですけど! それに卒業する単位は取り終えていたので、卒業式まで登校する必要はなかったのに何で邪魔するんですか? 後、顔色は趣味に没頭していて寝不足なだけですのでお気遣いなく」
私の思わぬ反撃に、三人は口をパクパク開けている。鯉が餌を食べる姿を想像すると、ちょっとだけ溜飲が下がった。
「学園で恋愛するのは自由だと思いますけど、私を巻き込まないで貰えませんか? リカルド様は、婚約者がいらっしゃいますでしょう。アーサー皇子は、筆頭婚約者候補のマリア様がいるのに恋人でもない人間に現を抜かすって有り得ないんですけど。ジェームズ様は、結婚を約束した恋人がいると聞きましたけど? 私も思わせぶりな態度を取って悪かったと思いますが、それにホイホイ乗っかる貴方がたも大概だと思います。アリア様、浮気癖のある男は止めませんか? 皇子までとはいきませんが、宮勤めしている間にもっとマリア様に見合う良い男を見繕ってきます」
ふんすっと鼻息荒く断言すると、パシリと閉じられた扇で額を叩かれた。あうち。
「その必要は御座いません。お父様が、必ず良縁を結んで下さると信じておりますもの。でも、貴方は宜しいの? 一応、愛を語り合った中なのでしょう?」
と三バカを扇で示され、私は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「愛なんて語り合ってませんけど?」
確かに思わせぶりな態度を取って、貢がせていたのは事実。
リカルドの婚約者には、マリアを通じて精神抵当で謝罪した。慰謝料代わりに、この先役立つだろう録音機能を付けたイヤリングを渡して手打ちにして貰った。
勿論、公爵様に報告はしてあるよ! 怠った後が怖いので、ちゃんと確認は取りましたとも。
あくまで自分の魔力で音を録音・再生するだけの機能しかないが、有用な使い道を教えれば一にもなく許して貰った。
貧乏な私から慰謝料を取るより、リカルドに高額な慰謝料を吹っ掛けれる貴重なアイテムだ。
録音君0号を提出して、魔術具として特許を取って貰っている。
元々そういう魔術具はあったようだが、とにかく大きくて重い。
それをイヤリング型まで小さくしてみせた。特許を取得したことで、技術は公開されるが特許料が私7:クロウ家3の割合で支払われる。
今後私が開発した魔術具の特許料は、マリアへの慰謝料という形で納めることで永続的にクロウ家へ分配される。
お金のなる木になりそうな私に対し、公爵の態度は少しではあるが軟化した。
お金は大事だもんね。
「……リリーが、そんなことを言うはずがない! マリア、リリーを洗脳したんだろう? そうに決まっている」
「殿下の仰る通りです。私のリリーが、短期間で人が変わったような態度を取るなんておかしい」
「クロウ家に閉じ込めて、リリーに何を吹き込んだんだ!?」
私の態度に納得したくないのか、それともしたくないのか分かりかねるが、元凶はマリアにあるとして三バカが勝手に盛り上がっている。
登校してきた生徒が、続々と集まり行く末を見守っている。
これでは、見世物パンダになった気分である。
どうやって収集をつければ良いんだろう?
興味のないことに労力を割きたくないが、自分で蒔いた種は自分で刈り取らなければならない。
前世の記憶が生える前の私、一生恨んでやるからな!
「あー、もう面倒くせーなぁ! だーかーらー、さっきから言ってるでしょう!! 変わったのは自分の意志だし、私は貴方がたに言い寄った覚えはないんですけどぉ。爵位の低い貧乏貴族の娘が、高位貴族それも皇族に逆らえるわけないじゃないですか。こちとら貴方がたに合わせるの迷惑してたんですよ」
論点のすり替えではないが、爵位が低い娘だということが幸いして「高位貴族の意向に逆らえなかった」という事実だけを突き付けた。
私が思わせぶりな態度を取っていたのも、プレゼントと称して色々なものを受け取っていたのも、全部相手の押し付けであると公衆の面前で公言してみせた。
高位貴族それも皇族に逆らったら、貴族社会で生きていけなくなる。
それは、どの貴族にも共通の認識だろう。
今回はアーサー皇子を筆頭に高位貴族が私に熱を上げていたことが、良い感じに裏付けされたことになる。
思わせぶりな態度を取っていたのも、プレゼントを断らずに受け取っていたのも彼らに睨まれない私の処世術のためと周囲が勘違いしてくれれば万々歳である。
私の言い分に、成り行きを見守っていた人から「確かに」「一理あるかも」と同調する意見が出始めた。
うん、良い流れが出来つつある。
「俺のプレゼントを嬉しそうに受け取ていたではないか! それは、俺が将来を誓うと贈った指輪だ。指にはめてくれているのは、私の思いに答えてくれているからだろう」
「将来を誓い合うという言葉、初めて知りました。知ってたら、質に売ってましたけど」
と素気無く返す。
「殿下ではなく、リリーは私の思いに答えて下さったんですね! 私の誕生石であしらったネックレスが証拠です」
「魔術具の素材としては、とても良い石だったので愛用してます。ただ、贈られたネックレスの意味は理解してませんでしたけど。知ってたら受け取り拒否しましたよ?」
返すつもりはないが、一応聞いてみたらリカルドは勝手にショックを受けて呆然自失になっている。
チラッとジェームズを見ると、顔色が悪い。
「リリー、そのブローチの意味を理解していなかったのか?」
「全く、これっぽっちも。何か意味なんてあるんですか? 魔術具に加工させて貰ってるので、今更返せなんて言いませんよね。そんなみみっちいこと言われると困ります」
「代々嫁いでくる娘に贈るブローチだったのに……」
ジェームズの発言に、うわぁとドン引きしてしまった。
ある意味、一番貰いたくないプレゼントだ。古臭いデザインだとは思っていたけど、家宝扱いされているものなら仕方がない。
でも、貰った以上は返す気ないんだよねー。
ジェームズが勝手に持ち出して、意味を理解していない相手に気持ちを押し付けて贈った迷惑品という扱いになる。
本来贈られるはずだった恋人や、ご家族に何て説明するつもりだろう。
この三点セットは、魔術具として完成してしまっているので諦めてくれると良いな。
三バカの戦意も挫けたようだし、そろそろ止めを刺しておこうかな。
「私、宮勤めする前に色々教わる必要があるので学園にくだらない理由をつけて呼び出すの止めて下さい。本当に迷惑です。宮勤めするまでに最低限のマナーと学問を納めないと、私の人生詰んでしまうので
必要なことなので二回言った。
「そうそう、お三方は自分の身の振り方を真剣に考えた方が良いですよ。卒業式を利用して公衆の面前でマリア様を捏造した証拠を下に糾弾するみたいでしたけど各方面に報告しておきました。今回の一件をで、クロウ家は皇子の後見を外れるそうですよ。新しい後ろ盾探すの頑張って下さい。リカルド様は、次期当主候補から外れることが決まったみたいですね。憧れの自由が手に入っておめでとう御座います。ジェームズ様、ブローチの件をご家族に報告なさって下さいね。勘当だけで済むと良いですね!」
満面の笑みを浮かべて告げれば、三人とも魂の抜けた状態になっている。
やり過ぎたかしら?
マリアの顔色を窺うようにチラ見すると、扇子で口元を隠しているがニヤついているのが何となくわかる。
私の対応は正解だったぽい。
これで、三バカは封じ込めたかしら。卒業までの学園通学が無しにならないかなぁと考えながら、放心している三バカを放置して、マリアの後ろを静々と付き添い教室に向かった。
今朝の一件は、瞬く間に校内を駆け巡り「男に媚を売るビッチ」から「無理矢理言い寄られた不憫な令嬢」へと認識が書き換わってくれて満足のいく結果となった。
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