第49話 暗躍者は動いていて
初年度Fクラス学院生錬金術科ドリス=マードック。
流行病…。
補講があり、帰省が遅れた私を家で待っていたのは、家宰以下の使用人達と貴族院管理官バルゼイ侯爵の秘書と言う人。
レストレード家が魔族の手先として騎士団内で動いていたと。
その為に騎士団で事務方をしていた父チャーリー=レストレード男爵は処刑され、母と幼い弟は教会預かりとなった。弟チャックの成人を待って男爵家は再興すると。
「クローディア嬢はティオーリア学院長預かりとして引き続き学院生として精進してください」
引き続き…学院で精進して?
Fクラス騎士科の…、もう後もない私に何を目的として頑張れと?
後の無い同クラスの者として、話がしたかった。
この時間は、確か実習?
錬金術科のドリスは実験実習室かな?
赴いた私が見たもの。
ドリスは楽しげに、同じ錬金術科の少女とポーションを製薬錬成していた。
「ここの陣の配列を…、よくもまぁこんな一手間入れる事考えつくわね」
「でも、これで効力UPするんだよー。そんなに大した手間じゃないしー」
「10以上錬成生成陣を起動出来る
ミルキィ?
あの子が初年度首席学院生、錬金術科のミルキィ?
…あの子の作った『自白剤』で我が家は廃絶寸前となってしまった?
あの時、私の前に現れた謎の人が教えてくれた。
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「騎士科学院生のクローディア嬢ですね。レストレード男爵家の」
「何でしょうか。男爵家はもう」
「そうなったのは、同じ学院生、錬金術師のミルキィのせいだとはご存知ですか」
何?何を言い出すの?
「どういうことですか?」
「彼女が錬成した画期的な『自白剤』です。なんと無味無臭、無色透明。効能も今迄の物とは段違いで混ぜられても気付かず、全てをペラペラ話してしまう優れ物。それを飲んだ貴女の父君は魔族との取引を暴露してしまったのですよ」
自白剤?
「それをどうして知っているのですか?」
「運良く、それを免れた者です。尤も職を離れざるを得なかったので良し悪しですがね」
自嘲気味に話す男は、元宰相府官僚事務方クラウド=ハンクスと名乗った。
「魔族との取引って?」
「私もそうですが、彼は王国の内情、特に騎士団含む軍務関連を魔族に報告していた。そして魔族が地上界を席巻した暁には相応の地位につける事を確約させていた」
「魔族が地上界を?そんな事になったら」
「魔族は別に人族を滅ぼすつもりは有りませんよ。ただ恵みの日輪が欲しいだけです。魔界にはあの太陽の光が有りませんからね」
「そんな事…」
「レストレード家は男爵位らしからぬ裕福さを持っていた。その理由、今ならお分かりいただけるかと」
「…その話をして、貴方は私に何を望むのですか?」
「学院生の手を借りたいのです。例の錬金術師の事や動きが知りたくてね。学院内は宰相府の者でも簡単に立ち入れる場所ではないもので。実はマードック家の御息女にも同じ話をしたのですが、彼女は同じ錬金術科で、当の錬金術師と多少の交流もあるようです。『友を売る気はないわ』等とほざきましてね」
「…」
「さらに身を隠す事態になったものでね。別に彼女をどうこうしろとは言いません。只彼女の動きが知りたいだけです」
「どうやって貴方とコンタクトをとれば」
「感謝します、クローディア嬢。それでは…」
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友を売る気はない、か。
確かに恨みが無いとは言いきれないけど、でも刺客になったり罠に嵌めたりしろと言われたら私だって拒む。
そうよ。
ただ、彼女のスケジュールを連絡するだけ。
実験実習室のドアは閉まっているけど、換気が必要だったのか、廊下にある窓は少し開いていた。だから中の様子と声が聞き取れた。
「明日はエリーやライザと課題進捗の擦り合わせするけど。エリーの王都本宅に誘われてる」
「それはぜひご一緒したいわ。此処迄きて仲間外れはゴメンよ」
「しないしない。私、誘ってるよー?」
「うん、感謝してんのよ、ミルキィ」
「で、何かあるかな?」
「おっと、しょうがないなぁ。学院カフェのパンケーキで妥協してくれない」
「コーヒー付きよね?」
「モチ」
「妥協しよー!」
クスクス、アハハハハ。
どうして、彼女と笑い合えるの?
でも、明日、エリーの…?
エリー?
確か錬金術科初年度Dクラスね。
エリー=オズボーン、そう、騎士オズボーン家の娘…、なら王都の外れ、騎士住宅街ね。
私は、その場を離れ、例のハンクスとコンタクトをとる。
「実に貴重な情報です。感謝しますよ、レストレード令嬢」
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ハンクス家は断絶。全員処刑されたのですよ、レストレード令嬢。
本当に貴重な情報、ありがとうございます。
クックックッ、フハハハハハ。
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