第3話 ミルキィ

 勇者が国を興して数百年。


 レクサンダル王国辺境の小さな村。そこに住む魔人族の父と人族の母の間に生まれた娘として私は転生した。


 希望は人族への転生だった。

 でも大魔王の子のステータスは、角を折った位では高位魔族程にも落ちる事はなく、ギリギリまで人族へ近付けた結果がコレだと女神は言っていた。


 まあ、しょうがない。


 レクサンダル王国だから、私は辺境の村とは言え差別偏見の目も無く育てられた。

 母は魔人族の子の妊娠に母体が耐え切れず、私を産み落とすと力尽きて亡くなったらしい。

 父は私が生まれる前に村を護って魔物と戦い相討ちとなったって聞いてる。


 村長が親代わりになり、村長の奥さんも我が子の様に私を可愛がってくれた。村の英雄でもあった父の代わりとして村長は学院受験の便宜も図ってくれた。


 結果、私は首席入学したのだから村長に充分恩返し出来たと思う。


 タラちゃんとの出会いは森の中。

 10頭もいたヒュージスパイダーと戦っていた。

 デスタラテクトとヒュージスパイダーとでは魔物ランクに雲泥の差がある。とは言え多勢に無勢。デスタラテクトは何とかヒュージスパイダーを倒したもののかなり傷付いてた。


 そんなトコへ素材集めをしていた私が迷い込んだ。8歳の子供だったけど、私もヒュージスパイダー如きにどうにかなる様な存在ではなかった。

 でもデスタラテクトには太刀打ち出来ない。

 流石に死を覚悟した私の前で、傷ついたデスタラテクトが弱っていくように見えた。


「ケガしたの?待って、私、回復薬ポーション持ってる」


 自作のポーションは、既に効能1.2倍を誇るモノになっていた。

 元気になったら、デスタラテクトは私を襲うかもしれない。後から思えば怖い話。でも、その時の私は全く考えもせず、デスタラテクトにポーションをかけた。


 シュ…シュシュ?


 カチン!


 そう、まるで絆が結ばれたような感覚。

「オイラを助けたの?」

 デスタラテクトがそう言った気がして私も応えてた。

「うん、そのつもり」

 意思疎通出来てる?は?

 どうも、そのデスタラテクトを私が従魔契約テイムした事になったみたい。

 で、契約とポーションの回復で、デスタラテクトは進化?したのか、急に輝き出すと大きな内翅を拡げた。

「え?ひょっとしてウイング種?」

 テイム出来て良かった。

 空飛べる猛毒蜘蛛相手に逃げる事なんて無理。私はエサにしかならないから。

「うーん、よし!あなたの名は『タラ』ちゃん」


 シュシュシュシュー‼︎


 気に入らないみたい。でも決めた!


 以来、タラちゃんは私の相棒。そして夢の翼。

 魔物退治に素材集め。私達は下手な冒険者よりも上手くこなしてきて現在に至る。



 完成したポーションを購買部へ納品した。

「ありがとうね、ミルキィちゃん。貴女の作るポーションは効能高いから生徒は勿論教授達も素材集めとかに重宝するって言ってるわ」

 購買部のおばちゃんは学院の商業科卒。

 スーラさんって言う猫種獣人。

 依頼料も明朗会計。引き出しから銀貨5枚出して私に支払った。

「でね、そろそろ魔力回復薬マナ・ポーションの在庫も少なくなってきてね」

「うん、わかった。毒消ポイズンヒールは?」

「そっちはまだ大丈夫よ」

 おばちゃんは全ての在庫を把握してる。

「素材集めてからだから1週間欲しいけど、在庫保つ?」

「ギリピンチってトコね」

「わかった。急ぐ」

 次の休日か…、いや、明日の実習で採取出来るかも。おばちゃんと確認して私は次の依頼を受けた。


 さて、テラスに行ってお茶だ!


 テラスの一角。

 お茶飲んでる私の前。ポリポリと魔物の餌ペレット齧ってるデスタラテクト。

 魔物の蜘蛛って結構デカい。

 ヒュージスパイダーも身体だけは牛位の大きさだし脚までいれると…。アラクネなんてそんな蜘蛛に上半身人型がある。でも蜘蛛型最強種とも言えるデスタラテクトは、人の肩に乗れそうな程の大きさ。両手掌で持てそう。

 その分スピードは早いし毒は即死する程の猛毒。小ちゃくて可愛い見かけに騙されそうだけど、最強種は伊達じゃない。

 しかもコイツは希少種ウイング種。

 腹部上に頑丈な外翅と透明感溢れる大きな内翅を持つ。


 その辺見りゃわかる。

 だからか、私達のテーブルを皆が遠巻きに見てる。


「お待たせ、ミルキィ」

 クラリスが用事を済ませたのだろう。真向かいに座る。と、お盆にお茶と菓子を乗せてジオもやって来た。


 益々注目浴びてる。


 まぁ、しょうがないか。

 辺境伯令嬢クラリスの才は聖女。それも『北の聖母』と呼ばれた聖女マリーディア=ケインの曾孫で、神聖魔法は曾祖母に勝るとも劣らない才って聞く。

 美しい金髪に白磁の様な肌。ライトグリーンの瞳も神秘的。女として比べる気にもなれない容姿は羨望の的でしかない。


「でね、ミルキィ。次の実習課題なのですけど」


 あ、これ、厄介事だ。

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