第27話 Clock-22
ザパァ・・・
川は結構深かった。
まぁ深くなかったら、橋から落ちた時に怪我をしていただろうけど。
繁華街から離れた下流の橋の下。
英治は川岸に這い上がって来た。
正直危なかった。
ジャンパーが体に張り付いた上に、いろんなものを装着していたので泳ぎにくい。
危なく、溺れるところだった。
川から上がり、よろよろと這って橋の下の遊歩道に移動し座り込む。
水温は低く寒い。
ガタガタと震える。
だが、この震えは寒いだけではない。
ジャンパーのジッパーを開き、体にガムテープで巻きつけたものを外していく。
お腹に金属製のトレイ・・・そして分厚い雑誌を何冊も。
銃弾はトレイに当たった痕があった。へこんでいる。
英治はポケットから取り出した缶コーヒー。
上部の角の部分がひしゃげている。最初にここに当たったらしい。
おそらく、上部の接合部の硬いところに偶然、銃弾が当たり軌道をそらしたらしい。
コーヒーのシミがジャンパーに黒く広がっている。
ベルトを外し雑誌を取り出す。
濡れた雑誌のページをめくる。雑誌を斜めにだんどうが横切ったらしい。
そこから転がり落ちてくる銃弾。
缶コーヒーと金属製のトレイを貫通。しかも雑誌を斜めに進んだために貫通しなかったようだ。
”本当に、死ぬところだったんだな・・・”
今になって、恐怖が襲ってきた。震えが止まらない。
怖かった・・・本当は怖かったのだ。
銃で撃たれたとき。男はためらいもなく撃ってきた。
いままで、いろいろな事件に立ち向かったが英治に明確な殺意を向けられたことはなかった。
それが・・・男は明らかに、殺すつもり。
その殺意・・・
今さらになって恐怖となったのだ。
今回は、何とか生き延びることができた。でも次は?
「・・・・見つけました!」
突然声を掛けられた。
遊歩道を走ってきて、ゼイゼイと息を切らす楓だった。
----
楓が、英治を探して橋まで来た時。橋から人が落ちて行くところ。
あの落ちて行く人影・・・ジャンパーに見覚えがあった。
思わず大きな叫び声をあげた。
慌てて橋の上から下を見る。
水面には誰も見えない。
周りを見回しても、座り込んで真っ青な顔でガタガタ震える初老のタクシーの運転手しかいない。
楓は川の土手沿いに下流に向けて走り出した。
あの少年は下流に流されているはず。
下流に向かって、遊歩道を走っていく。
運動不足なので、すぐに息が切れる。
でも、そんなこと気にしていられない。
ただ、走っては水面を見る・・・走っては水面を見る・・・の繰り返しだった。
やがて、次の橋が見えてきた。
遊歩道は橋の下をくぐる。
その橋の陰に、人影があった。
走っていくと・・・あの少年だった。
ずぶ濡れで・・・真っ青な顔で四つん這いで震えている。
「見つけました!」
思わず、抱きついた。
ずぶ濡れの少年。楓も濡れる。
だけど、かまわなかった。
生きてる・・・よかった・・・
「どうして・・・どうして、こんな危険なことをするんですか?私の時もそうだけど。今回も誰かを助けるために危険な目にあったんでしょ?」
強く抱きしめる。
少年は・・・震えていた。ガタガタと・・・青い顔をして。
「こんなに震えて・・・」
楓は泣いていた。ボロボロと涙を流して。
英治も泣いていた。
「怖かった・・・怖かったんです・・」
「こんな危険なこと、なんで・・・なんであなたがする必要あるんですか!?」
楓は涙を流しながら英治を抱きしめる。
「もう、僕には誰かが死ぬとわかっているのに何もしないなんてできないんです。せめて手の届く範囲の人は・・・それだけなんです」
涙を流しながらつぶやく少年。
ガタガタと震える少年を、楓は抱きしめた。
橋の下の暗がりの中。
二人、抱きしめあいながら震えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます