第19話 Clock-15
メールを見て、楓は焦った。
まだ口座ができていない・・・
松下楓が少年から請け負ったバイトとは、株の取り引きの代行であった。
少年より50万円を預かっている。
その元手をもとに、少年から届くメールに従って株の売買をする。
「そういえば、バイト代っていくらだろう?せめて1500円は欲しいかな」
時給がいくらかを話していなかった。
週末にもう一度会うことになっている。その時に交渉しよう。
午前中に口座が開設された。
早速、指示された銘柄を15万全部で購入した。
そして、13時に指示された通りに売却し・・・別な銘柄を全額で購入した。
取引時間が終わった15時。その金額を見る。
楓の思考が止まった。
今朝、取引開始時比べて・3倍以上になっていた。
次の日。
朝早くにメールが届く。
また指示された通り昨日買った株式を売却した。
そして、指示通りに売却し、別な銘柄に投資。
その繰り返し。
2日目は前日の倍くらいであった。
3日目・・さらに3倍になっていた。
その日から、は何も考えないことにしました。
もう、少年も対談相手のそぞんでいないだろう。
これはただの数字・・・これはただの数字。
無よ・・・無になるのよ・・・
そして、金曜日の今夜は一週間の報告のためファミレスで待ち合わせしていた。
少年は、19時過ぎにやってきた。そういえば、まだ名前も知らなかった。
「楓さん、お待たせしました」
大きなボストンバッグを持った少年が向かいの席に座ります。
小柄な、中学生・・・もしくは高校生でも低学年くらいに見える少年。
なにか、急いでいるような・・・眉間にしわを寄せた思いつめた表情。
「それで、結果はどうなりました?」
無よ・・無になるのよ・・
「ひゃい・・・はい。結果はこうなりました・・」
スマホで証券会社の口座にログインして、金額を見せる。
「なるほど、予定通りです。ありがとうございます」
予定通りなんですね・・・そうなんですか・・・
そこに表示されている金額。
1億2百万円。
もう、桁が多すぎて実感すらわかない。
庶民の楓は見てはいけない数字。
こんなお金が自分の口座にあるなんて考えてはいけない。
だめ、これはただの数字・・・余計なことを考えちゃダメ。
つつましく生きていくしかない。あくまで、これは少年お金だ。
「では、来週もお願いしますね」
優しく微笑む少年。
「は・・・はい・・私などでよければ何なりとめいれ・・・お使いください・・・」
思わず、変なことを言いそうになる。
今はこの少年に頼るしかないんだ。
捨てられないようにしないといけない。
「ところで、バイト代を決めていませんでしたね」
「は・・はい!もう、いくらでも構いません」
「じゃあ半分でどうですか?」
「・・・・半分?」
言っている意味が分からなかった。
「出した利益の半分です。いかがですか?」
だんだんと少年の言っている意味が理解できて・・・いや、やっぱり理解できなかった。
ぷるぷる・・
ぷるぷる・・
涙目になって、無言で首を横に振る。
庶民の楓。心の中で、そんな大金を手にしてはいけないと思った。ぜったい、ろくなことにならない。
「ほとんど楓さんが働いてるから少なかったですか?じゃあ・・」
ぷるぷるぷるぷる!
さらに激しく、首を横に振る。
だめです。それは身分不相応です。
もっと出そうという少年に、なんとか時給五千円にしてもらいました。
それでも、これ程のお給料をもらうことになったことはないです。
呆然としている楓。
まだ、思考を停止したままである。
「それで、この証券会社の口座のお金はどうしますか?」
「そのまま、楓さんの口座に入れておいてください。必要なら使っちゃってもいいですよ」
「そんなことしないです・・」
「あはは・・ではまた」
声では笑っているが、表情は無表情である。
重そうなボストンバッグを抱えて少年は出て行きました。やっぱり急いでいるようです。
あ・・・また、名前を教えてもらえなかった・・・
ふと思い出す。
感情がないような・・・無表情。
あれは2週間前に初めて会ったときと同じ表情。
では、彼は今からどこに何しに行くんだろう・・・?
まさか、危険なことをしようとしてる?
だめ・・彼がいなかったらこの先どうすればいいかわからない。
楓は、あたふたとファミレスを出て少年の姿を探し始めた。
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