四章 複雑な経歴を持つ異才の持ち主

第80話 山田市太郎 二十二歳①

 山田市太郎は昔の事を思い出す。特殊探索科の皆と出会う前。


 魔力量がゼロだった自分は早期に探索者は諦めたが、それに近い職に就こうと考え、父親が勤務しているダンジョン管理省に務める事を希望していた。

 進学率の高い高校に入学し、一流の大学に合格した彼はダンジョン管理省に就職する事が出来た。

 そしてダンジョン管理省に就職して数日後、街中に出現したダンジョン内を管理省の先輩達と調査をしていると、突如ダンジョンの入口が消えてしまいダンジョン内に閉じ込められた。

 運良くダンジョンには複数人の探索者が居た。若手の有名探索者である藤堂寺連夜と永森竜吾の二人組探索者と荷物持ちの三人だった。

 管理省の先輩達は現在の状況を説明して、連夜と竜吾に護衛を頼んだ。


「……ただでは護衛できないぜ! 金払えるのか?」

「一人一億円でどうだ? 管理省の人間だろう。その程度払えるよな!」


 二人の言い分に口を閉ざす先輩。管理省の人間は四人居るので『四億払え』と言った連夜と竜吾に怒りが込み上がる。


「払えないなら良いぜ。お前達は勝手にすれば良いさ。行こうぜ、竜吾」

「そうだな。おい! 優! 行くぞ! 早く荷物持って来い!」


 管理省の人間を置いてきぼりにして移動する連夜と竜吾。そして優と呼ばれた荷物持ち。


「……分かった。四億払う。だから我々の護衛をしてくれ!」


 今回の調査リーダーが探索者二人に護衛を頼んだ。

 連夜と竜吾はいやらしい笑顔で「それで良いんだよ」「絶対に金払えよ」と言って護衛する事にした。

 探索者の護衛でダンジョンを脱出する為に出口を捜す。

 先頭に探索者の連夜と竜也。真ん中に管理省の人間。後方に荷物持ちという順番でダンジョンを探索する。

 そして山田市太郎は後衛の荷物持ちの前という順番だったので自己紹介をした。


「私は山田市太郎と言います。お名前を聞いても?」

「すいません、名刺は作ってなくて。現道優です。二人の荷物持ちをしています。よろしくお願いします」


 山田は名刺を貰う現道優。そして会話していく内に同年代という事が分かった。


「僕は大学に行こうとしたけど、二人に誘われてダンジョン内の荷物持ちとして参加しているんだ。連夜と竜吾は幼馴染でね。二人には助けて貰っているよ」

「……その割には扱いが酷いようだけど? 一人で持つような荷物ではないし」

「大丈夫だよ。慣れたらこのくらい平気さ」


 優が持っている荷物は予備の武器から魔法薬。ダンジョン内で見つけたアイテムや発掘した鉱石等を持っている。山田だったら運ぶのは難しいだろう。

 そんなときに前方が騒がしくなった。前衛の二人がモンスターと戦っている。初めて見るモンスターとの戦闘で緊張する山田。しかし連夜と竜也はあっけなくモンスターを倒した。優秀な探索者だというのは本当らしいと山田達は知る。


「おい! 無能! 早く来い!」

「回復薬だ! 早く持って来い!」


 連夜と竜吾の命令で回復薬を渡す優。飲み終えた空の瓶を優に投げつけて「遅いんだよ! この無能が!」と言ってダンジョン探索に戻る。

 優秀な探索者だが、人格は最低レベルだと管理省の者達は知った。

 空の瓶が頭に当たり血が出ている優に山田が「大丈夫かい?」と心配する。


「大丈夫だよ。このくらい平気さ」

「これはパワハラだ。これは管理省の人間として正さないと!」

「ダンジョンでは何が起きるか分からないんだ。僕が回復薬を渡すのが遅いのがいけないんだ。二人は僕の事を想って注意してくれているんだから」


 連夜と竜也の行動が当たり前と言う荷物持ちの優に山田は「違う!」と言うが、


「ダンジョン内では探索者の言う事を聞かないと死ぬかもしれない。だから君達も二人の言う事を聞いて」


 優の言葉が正しい。管理省でも『ダンジョン内では探索者の言葉を信じろ』と言われている。この言葉は魔力至上主義者が昔に作った言葉と言われていて、今でも言われ続けている。


「早く連夜と竜也の後を追おう」


 優の言葉を聞いて連夜と竜也から距離が離れている事に気付いた管理省の人達。二人は我々の護衛なのに、護衛対象を無視して進んでいた事に怒りを感じる管理省の人達だった。

 二人の後を追う為に走り出す。多い荷物を持っている優も皆について行っている。


「……本当に凄いね、現道君は」

「慣れだよ、慣れ。そういえば山田さんは管理省務めなんて優秀なんだね」

「探索者に近い職場の管理省を選んだ。魔力がゼロだったから探索者にはなれないからね」

「そうなんだ。僕と同じだね。僕も魔力量がゼロなんだよ」


 優の言葉に山田は二重の意味で驚く。

 一つは魔力量がゼロという人が山田以外にも居たという事。二つ目は、


「ちょっと待ってくれ! ダンジョン内は魔力量が千以上の人間しか入る事が出来ないはずだ!」

「あ!」


 ダンジョン管理省に言ってはいけない事を話した優。自身の魔力ゼロだったので親近感を持ってしまったので、魔力量がゼロと言うとを暴露した。


「どういうことだ。説明してもらおうか?」

「……魔力量を調べる機械だけど、魔力量が一定以下だったら警音がなるよね。そしてダンジョンに入れる魔力量があるときは無音だよね」


 ダンジョン内に入る為に管理省担当者が魔力量を調べる。基本的に魔力量が千以上の者とダンジョン探索関係者しかダンジョンに入る事が出来ないと法で決まっている。

 優の場合は魔力量がゼロなのに警音がならない。ダンジョン内に入る事が出来た。


「恐らくだけど、魔力量を調べる機械が一以上千未満の魔力しか感知しないんだと思う。だから山田さんも感知されないと思うよ」

「……ダンジョン内から出たら調べてみよう。そして現道君、君は今後ダンジョン内に侵入を不許可とする!」

「……いま仕事を止めたら無職になるんだよ。何とかできない?」

「駄目だ。君の安全の為だ」


 優は自分の吐いた言葉に後悔した。そして「連夜と竜也に怒られる」と呟く。怒られるというのは説教ではなく暴行だという事を山田は知らなかった。

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