第22話 ダンジョン見学会①

 探索者高等学校名物ダンジョン探索訓練、別名ダンジョン見学会。

 ダンジョン管理省によって難易度が決められ、今回探索するダンジョンンの難易度は一番低ランクのEランクダンジョン。

 一番高いランクはAランクダンジョンで、特殊ダンジョンはランク付け不可能ダンジョンとして認識されている。

 当日、楽しみにしていた一年全員がダンジョン見学会に参加している。欠席者は外せない用事があると言っていた山田市太郎のみ。


「班ごとに並べ。早くしろ!」


 全クラスは四つで一クラスが四十人前後。合計十六の班がダンジョン前の広場に整列する。

 担任の車田先生と副担任の新家先生が指示する。そしてダンジョン管理省の担当者がこのダンジョンの説明と注意点を一年生に伝え、班ごとにいる現役探索者の案内でダンジョン内に入って行く。

 案内の探索者はCランクダンジョン経験者の中堅探索者で老若男女様々な人達が一班に一人の探索者が付いている。


「もうすぐオレ達の番だな。楽しみだな」


 明るい声で楽しみに順番を待つ山本健斗(ヤマモト ケント)。クラスのムードメーカーで男女共に人気がある。


「そうだな。テレビや動画でしか見た事ないからな。本当に探索者になれて良かった」


 体育体系の中武修(ナカタケ オサム)が相槌を打つ。柔道部所属の体を動かすのが好きで勉強が苦手な青年で、優の幼馴染達に立ちふさがった正義感の持ち主。


「しかし山田もツイてないよな。ダンジョン見学に来れないなんて」


 いつも気の良さそうな相川誠二(アイカワセイジ)だが、欠席者に同情して表情が少し暗い。クラスでも気が利く同級生で困った人を助けている良い人。


「ホントよ。学校行事も休むなんて何考えているんだか!」


 山田市太郎の欠席で機嫌が悪い市川輝美(イチカワ テルミ)は成績発表で山田市太郎の次点だった事からライバル視している。読者モデル経験者で気の強そうだが偶に見る笑顔が可愛い美少女。


「輝美ちゃん、怒らない怒らない。初めてのダンジョン見学なんだから機嫌治してね、ね」


 市川輝美を宥める白川涼子(シラカワ リョウコ)は怒っている輝美の頭を撫ぜる。いつも明るく小柄だけど胸は平均女子よりも大きい可愛い系の美少女。輝美と同じ中学出身の幼馴染兼親友の一人。


「そうよ、輝美。飴ちゃんあげるから落ち着きなさい」


 笑いながら輝美に江戸川祭(エドガワ マツリ)は飴を差し出す。平均女子よりも身長が高い陸上部所属で女子から告白されそうな麗人。輝美と涼子と同じ中学出身の親友の一人。


 仲良し女子三人組を見ていた優。しかし心なしか表情がすぐれない。


「どうしたの? 現道君? お腹痛いの?」


 中園栞(ナカゾノ シオリ)は優の表情に気付いて話しかける。学校新聞部に所属し記事を探してカメラ片手に学校中を駆け回るポニーテールが似合う活発系美少女。


「お薬あげましょうか? イチゴ味とレモン味、どっちが良い?」


 気を利かせて輝ノ島アリサ(テルノシマ アリサ)は薬を優に渡そうとする。日本人とイギリス人のハーフで守ってあげたい系金髪美少女。頭脳良好、スポーツ良好、容姿群を抜いて良好の社長令嬢。


「大丈夫、体調は問題無いから心配しないで」


 優は二人に返事をする。優の表情がすぐれない訳は、ただの『嫌な予感』というモノであった。

 ダンジョンに近づくにつれて『嫌な予感』が強くなる。なにが嫌なのかがわからず、何かに対する恐怖とは違う漠然とした嫌な予感を感じるだけだった。

 前日の夜は楽しみだったが朝起きたら嫌な事が起こりそうな予感で目が覚めた。今まで初めて『嫌な予感』を現状進行でひしひしと感じている優の表情はすぐれない。

 朝食時に市太郎に説明したら「……なるほど、少し用事が出来た」と言って、先に寮を出た。そして市太郎は外せない用事で欠席となった。

 優は市太郎を心配しているが、自身に感じる『嫌な予感』にも心配する。そんな状況を無視してダンジョンに入る順番は回ってきた。

 優達は欠席者の市太郎を除いた九人と案内役の探索者一人の合計十人でダンジョンに入る。


「これがダンジョンか! 凄いな!」

「こら、静かに。モンスターは他の探索者が退治しているが、退治し損ねているモンスターが声を聞いて襲ってくる可能性があるから静かに」


 柔道部所属の中武修の声を注意する探索者。他の皆も初めてダンジョンに入れて感動している。優も感動して声を出そうなった。


「とりあえず、地図に書いてあるルートを進みましょう」


 班のリーダーである市川輝美が地図を持って行く方向を指さす。探索者が先頭で次に地図を持つ市川とその幼馴染達、次に男陣三人となって、その後ろに写真片手の中園と輝ノ島。最後に優という列になっていた。

 班の皆は危機感を感じておらず初めてのダンジョン見学を楽しんでいるが、優だけが危機感を何故か感じている。

優は自分が怖がりだからなのかと自問し、ダンジョンを怖がらずに楽しもうと後方で気合を入れる。

 しばらく歩き続けると大きな広場に着いた。広場には何組もの班が休憩していて、優達の班も休憩を取る事にした。

 そして優はこの休憩場所が嫌な予感がする場所だと知る事になる。

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