ダンジョンズ・デュアル・デストラクチャー!⇔デッド!×デデン!×デストラクション!~実は最強の世界ランカー、迷宮核を〝捕獲〟するスキルを付与された少女を弟子にする~

@mikutosi

<1>『迷宮破壊魔』の世界ランカーと『迷宮喰らい』の少女

000.フェイスレスという男

久世くぜ幹也みきや 2038年 12月14日 pm34:52 山梨県 富士大深度迷宮JPS001(極大崩壊穿孔・進行中)上空 】



「この〝迷宮〟ダンジョン制覇したらさ、俺ってば、世界で一番有名人になっちゃうんじゃない?」


『君は元よりすでに世界中がファンさ。でも、それが君のお望みかい?』


「ああいいさ。それも面白そうだよ。俺はさ、俺なりに面白おかしく生きていけりゃそれでいいんだ。なんだっていい――目的なんかないの。今日の今日、明日の明日をそうやって生きていきゃ……それだけ。分かる、アーサーさん?」


『ああ分かっているとも。わが友、クゼ。かわいそうにね。君はあまりにも強すぎるんだ。ぼくの兄たちと同じように……いや、それ以上にね。でも、〝これ〟はどうかな?』


 インカム越しの声に、俺は苦笑いして〝地上〟を見下ろした。


 そこでは今も無残に形を変えながら急速に地の底へと引きずり込まれようとしている富士山の姿が……大地に渦を巻いて開いた巨大な〝穴〟が見えていた。


 離れた場所では、独自に集結した日本中の〝踏深者シーカー〟たちが、あふれ出る魔物の波を蹴散らして沈みゆく迷宮に食らいつこうとしていた。


 しかし俺にはどうってことないが、地上は今でも震度6か7の大地震が続いてる。おまけに大時化おおしけの海のごとく大地が隆起しながら荒ぶって火砕流まで散発している地獄だ。

 マサキのチームがかなり踏ん張ってるようだが……まともに迷宮へたどり着ける者さえ少ないだろう。


「……で、だからって、俺にアレを攻略しろって? しかもタイム・リミットつきでさ。俺、すでに徹夜明けでもぉクタクタだよ」


『現在、そのフジ大深度迷宮JPS001は〝向極大〟かつ〝崩壊〟級にカテゴライズされる穿孔が進行中だ。本来の穿孔現象であれば異空間となっている内部の変化が直接地球に与える影響は少ない……だがだ』


「……」


『このまま進行がいくところまでいけば70時間後には極大穿孔はマントル層を食い破った上で崩壊し、外殻層さえ砕くそうだ。未踏破としての迷宮自体が蓄えたコア・パワーとともに破滅的なエネルギーがまき散らされることになる。かつてこの惑星が体験したことのないエネルギーだよ。月がもうひとつばかり増え、。これは<協会>の全研究セクションで合致した、確定事項だ』


 70時間だってさ。

 

「キツイぜ」


『分かっている。しかしぼくとしてもまたプライベートで君とディナーをともにできることを望みたいし、生き残ったすべての人類が、明日を望んでいるはずさ。君もそうであると信じている。だからこそ、君に託す。君にしかできない。我が<協会>が〝究極〟の名を与えた――君にしか』


 いいぜ。

 明日がなくなっちゃうんじゃ、人生楽しみようもないもんな。


 まさに、俺向きのお仕事だ。


 はそういうことで、いい。


「それじゃ、もういくよ。――あっ! ちょっと待っていく前にネットに書かなきゃ……さぁ~て、世界、救っちゃい、ますか……あ! 電波立ってねえ! くそが! この回線俺のジェネホに回せない!? ねえ急いで!」


 回線の向こうの相手は、笑ったようだった。


『世界を救ったあとにしたらどうかな?』


「それじゃ意味が……しょうがねえな。次の危機にお預けか」


『ないことを祈るよ』


 行き掛けの駄賃だ。俺は地上の特にデカい目ぼしいモンスターどもをそらに持ち上げ、振り上げた腕の動作で〝能力〟を炸裂させた。数百体の怪物たちが一斉に爆散する。


 地上にいる疲弊した戦士たちのいくらかが気づいて、歓声を上げ――羽を持ったモンスターどもがこちらへと向かってくる。


 俺も頭の向きをぐるりと変え、ヤツらへ急降下していた。


『君が稼いでくれた時間は決して無駄じゃない。すでにユニオン・ジャパンは黙らせ、<協会>からも送れるだけの精鋭を潜り込ませた。中深度までは彼らとコード〝ブラック・アウト〟が君をサポートする。封印が望ましいが、もはや高望みはしない。君はとにかく最短で最深部のコア撃破を目指してくれ』


 そりゃありがたいね。

 スキル『解凍』――で呼び出した〝装備〟を換装しながら、一体、二体、五体、六体。


『ただし妨害者の存在も覚悟しなければならない。確定しきれなかったがこの崩壊穿孔が某国の亡霊が我々と君への復讐のために引き起こしたものならば――未登録の遺物の使用なのかなんなのか――いずれにせよ、狂っている。待ち構えているなら深部だろう。その場合、待ち受けている彼ら自身も生命を捨てている。気をつけてくれたまえよ』


 十体、二十体――一撃ずつで爆散させて、〝大穴〟がぐんぐんと迫ってくる。


『幸運を祈る、我が友。<協会>最強の超能力者サイキッカー、コード〝ウルティメイト〟。そして世界が誇る踏深者シーカーの頂点、〝フェイスレス〟』


 俺が浮かべた笑みは、だがもはやだれにも見えることはない。

 この名が示すフルフェイス・マスクがこの顔を覆ったことで。


 地球をほろぼさんとする迷宮の闇に、俺は突撃した。






 これは俺、久世幹也くぜみきやの物語だ。

 俺はただ、楽しく生きていければそれでいい。世界に突如として現れた〝迷宮〟ダンジョンを冒険する。裏社会のあれとかこれとかと渡り合う。食レポや超能力動画を投稿する。ご当地で一番高い建物の上で踊る。裏路地の猫がどこへいき着くのか死ぬほど追跡して隠れ家を全部あばく。気が向けばなんだって。

 ほかに目的なんかない――なかった。


 俺の物語はどこからが始まりかって言えば、きっとそいつはいろいろあるんだと思う。この日かもしれない。明日かもしれない。昨日だったかもしれない。

 人生に特別な意味を見出したり、人生に特別な価値が生まれたと感じたり……そんな時から始まる〝なにか〟を人は常に探してる。人生だからな。そんなもんだろう?


 だから俺の場合、俺の物語はたくさんあったけれど、しいて言うなら……そう。


 あの子だ。

 あの子に出会った時から、俺のひとつの物語は始まったんだと思う。


 これは俺の物語だ。

 面白おかしく生きて、そして、やがて世界を救うことになる女の子の運命を隣から見届ける――そんな俺の。


 それは、2041年の春にまで待つことになる。



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(簡易あとがき→)お読みいただき、ありがとうございます。数ある作品の中から見ていただけるだけでも奇跡のように尊く、すごいことです。


もし本作のどこかに「おもしろい。好きかも」という要素や箇所がございましたら、★ボタンや♡等で教えていただけましたらとても励みになります。ほんの少し手間ですが、形で見える反響というのは、間違いなく作者のモチベーションになります! カクヨムに存在するすべての作品に対してももちろんですが、もしよければよろしくお願いいたします。


本あとがきをお読みいただき、ありがとうございました!(`・ω・´)


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