522 神殿から来た温泉客



 王都から持ち込まれた祖王の像を安置した神殿で儀式があるそうなので参加する。

 王国の宗教は祖王を主神としたものなので、形式としてはかつての母国と似たようなものなのかもしれない。

 うちが建てた神殿に派遣された神官は、祈りを捧げた後で祖王の逸話を語る。

 祖王がスキル【現人神】を手に入れた話だ。


 祖王の国を守る神となった。

 国を見守り、窮地には必ずなんらかの恩恵を与え守護するのだそうだ。

【鑑定】さんに見てもらったことはないから詳細は俺にもわからない。

 ただ、像を渡されたり、神殿を作ることを義務としているところとか見るにこうすることが『祖王の国』であることの証拠なのだろう。


 最後にみんなでお祈りをする。

 信者の方は黙祷をすればいいだけで、ちゃんとした祈りは神官がする。

 領主なので俺は信者の列の先頭にいるのだけど、俺も黙祷だけでいいのだそうだ。

 祈りの時間が終わり、儀式は終了となる。

 外では炊き出しとかお菓子の配布があるらしいので、儀式に来ていた人たちはそちらに移動している。

 俺は神官からの挨拶を受けて、遠目にそれらの様子を眺めてから帰るつもりだったんだけど……。


「ん?」

「よっ」


 神殿の奥にある祖王の像の後ろに、像に似ていない太っちょさんが隠れて俺に手を振っていた。

 気付いた俺に向かって人差し指を口に当てる「黙ってて」ジェスチャーをするので、とりあえず知らないふりをして予定通りの行動をする。

 その間中、当たり前のように俺の隣にいたのに、周りの人たちは誰も祖王に気づかなかった。


「で、なにしてるんです?」

「やっとここが王国の領地だって馴染んだからな、挨拶に来たんだよ」

「はぁ」


 温泉里の執務室に戻って、二人だけになったところでようやく話をした。


「温泉を楽しませてくれるだろ?」

「いいですけど、誰にも見えない状態のままなんですか?」

「ああ、見える見えないは操作できるんだよ」

「なら、見えるようにしといて下さい。クレハ呼ぶんで」

「お前が案内しろよ」

「どうせすぐにファウマーリ様が来るでしょうに」

「まぁ、それはそう」

「家族風呂でも楽しんでください」


 クレハを呼んで戻ってくると予想通りにファウマーリ様もいた。

 うちの家族用の特別風呂に招待し、楽しんでもらっている間にフェフたちに歓待の準備をしてもらう。

 いきなり祖王と大公が来たとか言われると、さすがのフェフたちもびっくり……ってそうか、フェフたちは会ったことがあったよね。


 まぁそんなわけで、とりあえず歓待。

 家族風呂でどんな会話があったのかは知らない。

 出てきた二人には浴衣を用意している。

 普段着るのは俺ぐらいだけど、祖王は喜んで着ていた。ファウマーリ様は付き合いで着ているけれど、少し恥ずかしそう。

 ……ファウマーリ様って、幽霊だよね?

 幽霊ってお風呂に入るのかな?

 いや、よく考えたら普段から祖王と一緒にご飯を食べてるんだし、考えるだけ無駄か。


 風呂から出たら宴会場にご案内。

 まずは温泉里の厨房で作る料理にダンジョン酒を提供する。

 ラコーン族の顔見せをして、みんなで楽しく飲んでさわいで、その後は三人で【ゲーム】の料理を食べながら日本酒を飲む。

 今夜は寿司にした。


「ツヴァイベル領の料理はうまいが、まだまだお前のそれはには叶わないな」

「進歩の余地があるってことですね」

「そう! まさしくそれだ! いい受け止め方をするな! 俺はその感覚でここまでやってきた。お前にもそれを期待する」


 祖王が機嫌よく笑う。

 今夜はひどく上機嫌だ。

 寿司の後は締めのラーメンまで注文してからその場で寝てしまった。


「こんなやり方ですまぬな。父上なりに新たな領地の誕生を言祝ぎに来たのだ」

「はぁ」


 座布団を枕に眠ってしまった祖王に、ファウマーリ様は自分の浴衣をかけた。

 もちろん、すでにいつもの格好に戻っている。


「それに姿を見せられる相手が増えていることも嬉しいのよ。ここしばらく、家族の前にしか出ていないからな」

「なにか制約でもあるのですか?」

「ない……が、いつまでも先祖が出張っていては子孫の立つ背がないだろうとな」

「ああ、なるほど」


 俺も子供の代になった頃のことを考えたりするしなぁ。


「それはそれとして、だ。アキオーンよ」

「はい」


 酔った様子のないファウマーリ様は真面目な顔で俺に向き直った。


「小国家群の方でなにやら大きな動きがあったようだな」

「ああ、はい、そうです」


 もうザルム武装国のことが知られているのか。

 俺は、そのことを報告する。


「そうか。ダンジョンマスターがな」


 ファウマーリ様の驚きは少なかった。

 ゼルバインの件があるから、ダンジョンに危険な動きがあることはなんとなく感じていたのかもしれない。

 それとも。


「もしかして、以前にもこのようなことがありました?」

「なかったわけではない。気をつけろ。あの頃と同じような雰囲気を感じるのだ」

「雰囲気ですか?」

「ああ」

「ええ……この後、奥さんたちをダンジョンに連れて行く約束をしたんですけど……」

「……」

「……どうしましょう?」


 ファウマーリ様、取りやめの説得をしてくれません?


「まぁ、がんばれ」


 やっぱりダメだった。

 どうしようかなぁ。

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