283 新たな依頼
【転移】した先は王都の森だった。
長距離転移の地として設定してあるので考える必要もなく移動できる。
おセッせの部屋に入れられた時に召喚物との繋がりが断たれているので、その立て直しをするためにも、一度落ち着いた場所に戻りたかった。
「はぁ……」
やらないといけないことが、次から次に浮かんで頭を叩く。
焦る気持ちを宥めるために深呼吸。
一つずつ片付けよう。うん。
まずは……【ゲーム】だ。
【ゲーム】を使う。
うん、ちゃんと使える。
使えなかったもんね。
俺の根幹みたいなこのスキルが使えないのは、さすがに焦った。
ちゃんと使えると確認できてほっとする。
次は……栄養補給だ。
謎の飛行船の中で戦闘したから【貯蔵】はある程度戻ったけど、ちゃんとした美味しいものが食べたい。
こういう時、心の平安を与えてくれるのは……米だね。
そしてストレスには肉。
つまり……ステーキ丼か。
美味い。
噛み応えのある赤身肉部分と、口の中で溶けるほどに柔らかい霜降り肉が良い感じに配置されていて、飽きさせない。
タレは甘めのタレと、わさび醤油の二種類が用意されていて、いろんな味が楽しめる。
「ハフハフ」
ひたすら食べていると、頭の中でざわつく感じがする。
あ、フェフたちだ。
うん、大丈夫大丈夫。
そっちは……怪我はしてなさそうだね。
ケンタウロスたちも無事に倒してるみたい……あれ? 問題あり?
とりあえず、いきなり呼び戻すのもあれだからそっちで頑張ってて。
うん、こっちは問題ないから。
あ、でも後でいろいろ補充したいから合流はしよう。
「ふう……」
なんかケンタウロス退治も普通では終わらなそう。
ステーキ丼の他にかつ丼天丼親子丼に牛丼と丼祭りも無事に終了し、その間にクレハや鋼血や葬銀、イルチェアなんかの召喚している連中との再接続の確認も終了し、ほっと息を吐く。
いや、吐いている場合でもないか。
ケイオスアイズからの情報で、リュウテインがデモニスオーグルに襲われているのを確認している。
これは助けに戻った方がいいのかな?
と、思っているとノックの音。
「アキオーン、おるだろう?」
わかっていたけどファウマーリ様だった。
「すまんな、お邪魔する」
祖王もいた。
どんぶりがまだ片付いていなかったんだけど、今日の祖王はなにも言わなかった。
表情も引き締まっている。
それだけまじめな話ということだ。
「まず、ポートピナ伯爵からの依頼だがな。完了したこととする。報酬はすでに冒険者ギルドに預けてある」
「え? いいの……ですか?」
「よい。実際、伯爵の求める情報は手に入れただろう?」
まぁ……リュウテインの屋敷にいた時には、依頼完了していたようなものだったからいいんだけど。
だけど……。
「どうしてそれをファウマーリ様が?」
依頼人の伯爵ではなく、ファウマーリ様がそれを言うのだろう?
リュウテインの街に関しては、まだ情報収集が完全ではない。
戦ってはいるようだから、陥落したわけではなさそうだけど。
「そなたに依頼したいことがあるからということと、もう一つ……」
ファウマーリ様の顔色が悪い。
というか、険しい。
祖王も同じような顔だ。
ああ、胃が痛くなる空気だ。
この後は、絶対に嫌な話を聞かされる。
「ポートピナ伯爵は死んだ。そなたが姿を消した時にそのまま襲撃を受けてな」
ファウマーリ様の話はこうだ。
俺をよくわからない空間に封じ込めたその時に、『英雄の剣』たちはリュウテインの領主の屋敷を襲撃し、伯爵とその家族を殺した。
皆殺し……とならないのは、イリアが奮闘してサマリナを守ったから。
そう、つまり、サマリナ以外は殺されてしまった。
「なんてことを……」
俺が、あの時もっと警戒していたら。
「そなたを責める気はない。奴らも対策していた。そなたは『英雄の剣』に脅威と見られていたのだ。それほどの者になれたのだと、誇っても良い」
「そんな気分になれるわけ……」
「そうだな。だが、そなたには働いてもらわなければならん。だから、立ち直れ」
無茶な言い方をする。
だけど、彼女の言い分ももっともなのだと思う。
いまは緊急事態だ。
落ち込んで動けないまま、さらに嫌な知らせを聞くなんてことになりたくない。
「わかりました。それで、俺になにを?」
「奴らの本拠地を見つけて欲しい」
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書籍版二巻が発売しました!
今回は新規書き下ろしが二編ありますので、ご購入よろしくお願いします。
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