70 ルフヘムの現在
エルフの国ルフヘム。
万植の王とも呼ばれる世界樹を中心として栄える森林国家。
小国家群内においては食糧輸出量で頂点を保持し、都市国家集団の生命線ともいえる存在となっている。
そんな立場ゆえか小国家群の中では『態度がでかい』『偉そう』『生意気』というイメージが定着している。
エルフ……。
そんなルフヘムだが、現在はその地位が危ぶまれつつある。
権力闘争が勃発し、王族貴族間で激しい争いが生まれて内部は乱れ、それゆえに食糧の輸出が滞っているという。
地位の基礎である食糧輸出が滞っていることで周辺諸国からの恨みを買いつつあり、このままではどこかが、あるいは一斉に、世界樹確保のための侵略を開始するかもしれないという状況なのだそうだ。
世界樹こそがルフヘムの食糧生産の要の存在なのだそうだ。
……だとすると世界樹の若芽ってかなりの貴重品なんじゃなかろうか?
それを手に入れるとなると国を取り返すレベルのことをしないともらえないだろうなぁ。
で、そのエルフの内乱だけれど、現在では三つの勢力が存在するそうだ。
一つは現王。事の発端である子供たちの後継者争いから精神を病み、権力にからもうとする全員を排除しようと暴走状態にある。
一つは王子。自分以外の現王の子供たちを殺害、および追放を行い、現王を狂わせた元凶。
一つは民衆。現在の王政に問題があるとして王家そのものを排除しようと活動している。
貴族たちはそれらの勢力のどれかに加担しているという状況なのだそうだ。
「最終的にどこが勝つと思ってます?」
「現王じゃな」
商業ギルドの幹部でもあるドワーフたちはあっさりと言い切った。
「世界樹を持っておる。それにエルフは長命だからな。子供なんぞまた作ればいいと思っておるだけかもしれん。周りの言う狂うたというのは眉唾じゃな」
「あれはなかなかの曲者じゃからな」
「そうじゃそうじゃ」
その口ぶりからすると、現王はドワーフたちからは嫌われているみたいだ。
「あれ?」
現王は生きていて、フェフたちが逃げ出した原因らしい王子もいて……となると、フェフを求めているのはどこになる?
民衆?
なんとなくだけど、フェフが王位に就くことを目指せばいいんだって考えてた。
途中過程のことは何も考えてなかった。
もしかしなくてもすさまじく短絡的だ。
フェフたちがわかっているなら、俺が間抜けだったで済む話だけど、俺を排除したがっているナディの態度も気になるし……。
ルフヘムに入る前に、一回ちゃんと話し合っておいた方がいい気がする。
それからさらにいくつかの情報を追加の酒でもらい、俺は商業ギルドを出た。
「遅いぞ!」
ギルド前に馬車は止まっていた。
御者席に座ったナディの声は刺々しい。
俺は彼女を見てから箱馬車の扉を開ける。
「遅くなってごめん。今日はここで一泊しよう」
「はい。わかりました」
「ギルドの人に宿は紹介してもらってるから」
「何を勝手に決めている!」
フェフたちは素直に了承したけれど、ナディは反対のようだ。
だけど無視する。
彼女の機嫌をうかがっていても、俺の疑問は解決しないだろうし。
「ナディ。そんなに早く戻りたいならあなただけで向かっても構いませんよ」
「フェフ様!」
「私たちには情報が足りません。現地に入る前にまずは情報を集めるべきかと」
「そんな必要はありません!」
「ナディ。あなたは誰を主とするつもりですか?」
「フェフ様……」
「私を主とするつもりがないのなら、いますぐにそちらに向かいなさい。他人の犬は要りません」
「…………」
「ああ、そうですね。私の犬でありたいというのであれば、ルフヘムにいる協力者の現在を確認しておきなさい。あなたならば顔も利くでしょう」
「…………」
「いきなさい」
「フェフ様、お願いです」
「あなたはあちらでの窮地を助けてもらい、さらにこちらの都合に合わせていただいているアキオーンさんに対してあまりに無礼です。現状を理解していないのか、それとも無視しているのかわかりませんが、あなたの言葉だけでこのままルフヘムに入るのは危険だと判断しました」
「…………」
「いきなさい」
「くっ!」
フェフの視線に耐えかねたようにナディはこちらに背を向けて歩いて行った。
「さあ、アキオーンさん、行きましょう」
「…………」
「アキオーンさん?」
「犬って……」
「あ」
「意外に毒舌だね」
「ち、父の真似をしただけです!」
フェフが真っ赤になった顔を押さえる。
「フェフ様のお父様はとても怖い方なのです」
「はい」
ウルズとスリサズがそんなフォローを入れる。
いや、それってフォローなのかな? それ以前に父親って国王だよね? そんな言い方していいのかな?
「後のことは宿に入ってからにしましょう!」
フェフが真っ赤になった顔を見られまいとそっぽを向く。
なんとなく三人でそれをにやにやと眺めてから、馬車を宿に向かって動かした。
宿もやっぱりトンネルの壁にあるドアの向こうにあった。
厩舎も壁を掘って作られてあり、決して通りに建物が飛び出さないように配慮されている。
商業ギルドの紹介だけあって、箱馬車を預ける場所もちゃんとあり対応も丁寧だ。
料理よりも酒の種類が多いのもお約束かもしれない。
ニンニク味の強い、焼き肉チャーハンみたいなものを三人と食べる。味が濃いから水が要る。酒と合いそう。
というかビールが飲みたくなる。
そうだ、今度はビールを作ろう。
四人で寝られる大部屋を借りた。
分けようかと思っていたのだけど何かあったらいけないのでということで一つの部屋にした。
……変なことはしないよ。
ほんとだよ。
部屋に入ってから『ゲーム』でティーセットを出してお茶を淹れる。
ほっと一息入れてから、話を始めた。
「その前に……」
フェフがスキル『風精シルヴィス』を使う。
たぶん、音が外に漏れないようにしたのだろう。
俺の『夜魔デイウォーカー』ぐらい自由度の高そうなスキルだ。
「アキオーンさん」
「はい」
「まずは、ここまで何の説明もできずに申し訳ありませんでした」
「ありませんでした」
「でした」
と、三人が謝ってくる。
「いや、仕方ないよ」
王都から出るのが急だったし、途中も休みなしだった。
それに……考えてみると、ナディがゆっくりと話をする機会を邪魔していたようにも思える。
「とりあえず、フェフたちが知ってること、それからナディに言われたことがあるならそれを聞こうか。その後で商業ギルドで聞いたことを教えるよ」
「はい」
そんな感じで話を始めた。
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