第2話
「あなたは? まさか、私のオリバー様に何か御用かしら?」
私は必死に考えを巡らせるが自信を持って正解だ、と言える回答が全く意識に登りはしなかった。
私のオリバー様。私の、オリバー様。
オリバー様はこちらのご令嬢のものなのだろうか?
私が知らなかっただけなのであろうか? 私の認識不足なだけなのであろうか?
オリバーの身体はオリバーのものだと私は考えていたが、違っているのであろうか?
もしくは身体ではなく、意識的な、精神的な話なのであろうか?
精神は彼女のもので、身体は……身体だけはオリバーのものという事なのであろうか?
であるならば、結婚式を三ヶ月後に控える間柄の私、アーリィ・アレストフはいったいオリバーの何を所有しているという事になるのだろう?
精神や身体 が違うとするのなら……この場合、心などが該当するのであろうか?
あるいは、未来とか。
結局、どれだけ考えても納得の出来る答えは思い浮かびはしなかった。
そもそも、オリバーが自分のものだという感覚がよく理解出来ない。
あくまでもオリバーはオリバーで、私は私だ。
他の人間の所有権など、他の人間にあるものなのだろうか?
私がそんな思考の迷宮に陥っていると、
「ーーーー何を勝手な! オリバー様は私のーーーー」
「ーーーー私は昔からオリバー様だけをお慕いしてーーーー」
と、他の御二方も騒ぎ出したので私はさらなる混乱に巻き込まれていく一方だった。
オリバーはいったい誰のものなの?
そんな事を考えているとやがてオリバーが私の存在に気付いて大きく肩を震わせた。
「ア、アーリィ! いや、これは、その……違うんだ!」
オリバーはひどく狼狽えた様子でそう口にする。
オリバーに寄り添う女性達はオリバーの左手、右手、胸を引っ張り合い離れようとはしない。
そしてなぜだか三人のご令嬢達は私のことをしきりに睨み続けている。
まるで不倶戴天の敵にでも出くわしたかのような必死の形相で。
私、何かした?
「オリバー。違う、と言われても私には何が違うのかさえ分からないのよ。この状況、これはいったいどういう事なの?」
「こ、これは、その……」
オリバーは私に目を向けず視線を地に落としている。
「オリバーさまぁ! 今日はガイアンと一緒に過ごす約束でしょう?」
「オルテンに似合う髪飾りを選んでくださるって言ったじゃないですか!」
「マシューを景色の良い湖畔に連れて行ってくれるんじゃないんですかー?」
三人の御令嬢達はオリバーの身体を引っ張り合いながら口々にそう言った。
「あ、いや、それは、だから、今日じゃなくて、困ったな……」
オリバーは照れ笑いを浮かべてそう口にした。
と、ここまでオリバーと御令嬢達のやり取りを見てようやく私はこの状況を理解し始めていた。
どうやらオリバーは三人の御令嬢達と会う約束をしていて、その約束が重なってしまったようだ。
そこに私まで現れて、どうにも収拾がつかない事態になってしまった、という事なのだろう。
で、あるならば私がとるべき行動は決まっている。
「オリバー。今日は出直します。また連絡をください」
「あっ、アーリィ、待って!」
オリバーが呼び止めるが、私は笑顔を彼へと向けて踵をかえした。
彼は今日、忙しいのだ。これくらいの気遣いが出来ない私ではない。
「帰るって言ってるんだから、良いじゃないですかぁ!」
「オリバー様、早く私とーーーー」
「マシューもう我慢できませんよー!」
背後から聞こえて来るそんな言葉を聞きながら、私はふと社交の場で聞いたある噂を思い出していた。
私はその噂の内容にあまり興味を持たなかったので適当に聞き流していた。
だからはっきりと思い出す事は出来ないが、確かこんな内容の噂だったと思う。
それはとある三人の御令嬢についての噂で、その御令嬢達は自分好みの異性を見つけるとその男性にしつこく求愛行動を繰り返す、という内容だったと思う。
そしてその求愛行動が原因で口論になる男女もいるとか、いないとか。
確か、そんな話。
その御令嬢達のそれぞれと名前と異名のようなものを聞いた気がするのだけれど、残念ながら思い出せない。
白いーーーー違う。
「ガイアンだけを見てくださいよぉ! ねぇ、オリバーさまぁ!」
「オリバー様はオルテンの方がタイプですよね」
「オリバー様はマシューの全てが好きなんですよねー!」
ああ、そうだ。
黒だ。
黒い三令嬢。ガイアン、オルテン、マシュー。
確か、そんな名前だった気がする。
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