16話「調査報告とカレー作り」
「うーむ。動物の生首か……なるほどなるほど」
「はい。俺が発見出来たのはそれぐらいで他にも探したんですが、痕跡らしいものは何処にもありませんでした」
周辺での探索を終えて幽香達が神社へと戻ると優司は自分が見た異様な出来事の件を報告して、京一はそれを耳にすると険しい表情を浮かべて何かを思案している様子であった。
「んー、もしかしたら悪霊の力が強まっているのかも知れないねぇ」
暫く考え込むような雰囲気は見せたあと京一が口を開くと、例の生首の件は悪霊の力が強まっている証拠だと言う。
「悪霊の力がですか? でも俺達が探索している時は微塵も霊力は感じませんでしたけど……」
彼の言葉に優司は首を傾げながら言葉を返すと、自身の脳内に意識を集中して探索中のことを振り返ったがやはり霊力を感じ取った場面は何処にもなかった。
「恐らく今は力を蓄えている段階であって、動物の生首は霊力を得るために悪霊が行った所業だろう。そしてそれを明るい時間に行ったという事は既に悪霊は、昼も夜も問わず活動出来るぐらいに霊力を持っているということだ」
京一は依然として険しい表情のままであったが、組んでたい両腕を解くと悪霊についての憶測を立てたようで色々と説明を始めていた。
「つ、つまりどういう事ですか? 悪霊は今現在で力を蓄えている状態なんですか? それとも既に完璧な状態なんですか?」
だがその説明を聞いても優司の頭はいまいち理解出来なくて、結局のところ悪霊は力を取り戻したのか蓄えているのかと言う二択を聞き返した。自分の理解力のなさに彼は普通に恥ずかしい思いであったが、それでもこの情報は除霊を行う前に確認しておきたかったのだ。
「ああ、ごめん。ちょっと伝え方が悪かったね。つまり大事な部分を要約してRPG風に例えるとだね、この悪霊はレベル十からレベル十一に進化しようとしている段々だということだ」
京一は彼の聞き返しに一瞬だけ真顔を見せたが、直ぐに表情を微笑みのものへと切り替えると某ゲーム風に例えながら悪霊についての情報を再び話し始めた。
「……と、ということは生首の件は悪霊にとって経験値みたいなものだと?」
すると優司の頭にはそれが適合したらしく彼の言っている事が先程と違って難なく理解できると生首の意味を自分なりに解釈して訪ねた。
「そうだね。まったく悪霊も酷いことをするものだ」
大きく頷きながら京一は返事をしてくると、どうやら彼の考え方は正しかったようである。
そして先輩との話し合いが一段落つくと優司の背後からはカレー特有のスパイスの芳醇な香りが風に乗って漂ってきた。
「おっと。そんな事を話している間に、もうすぐで夕御飯の準備が整いそうだね」
京一も匂いを感じ取ったらしく台所の方に視線を向けると腰を上げて立ち上がった。
「ごめんね幽香くん! 俺が料理出来ないばかりに夕食を全部一人で任せてしまって!」
そのまま彼は台所の方へと歩みを進めていくと急に両手を合わせて申し訳なさそうに謝りだす。
「いえ、お気になさらず。普段から家でやっていたことなので何の問題もありません」
幽香はそれに対して夕食作りは何時も自分がやっている事だからと余裕の返事をしていた。
「あははっ、そう言ってくれると俺としても助かるよ。……にしても普段から料理を自分で作るなんて偉いね。もしかして相手は優司くんかな?」
京一は頭を軽く掻きながら笑い声を出すと一体なにを想像したのか、幽香が普段から料理を作っている理由が優司の為だと言い出した。
だがその会話を後ろの方で流し聞いてた当の本人でもある優司は、唐突にも自分の名を呼ばれた事で飲んでいたお茶が変なところに入りそうになって噎せる寸前であった。
「なあっ!? ち、違いますよ! 普通に父さんとかにですよ!」
声が裏返りそうになるほどに幽香が反応を示す。
「はははっ冗談だよ。だけど、そんなに動揺すると逆に怪しくなってくるねぇ」
京一は相変わらず笑いながら彼を弄って楽しんでいるように伺えた。
「先輩……あまり幽香を揶揄わないで下さいよ」
それ以上幽香で遊ぶと後で根に持たれる事を危惧して優司は辞めるよに後ろから声を掛けた。
「おっと、そうだね。ごめんごめん。……じゃあ俺は除霊具の確認と作戦を練るから、夕食が出来たら右奥の部屋に集まってくれ」
彼の言葉を素直に聞き入れた様子で幽香に軽く謝ると、京一はそのまま障子に手を掛けながら振り返って指定した部屋に後で集まるように言う。
「了解です」
「承知しました」
二人が同時に返事をすると京一は笑みを浮かべたまま小さく頷いて部屋を後にした。
実はまだ時間的には四時ぐらいであるのだが、幽香が早めに夕食を作っているのには理由があるのだ。それは事前に夕食を作っておく事で残りの時間を作戦に充てる事が出来るからだ。
何故なら京一の見立てでは悪霊は夜に現れるというだけで、その夜の範囲が九時以降のことなのか深夜帯なのかは誰にも分からないからだ。
ならばいつでも動けるように夕食は早めになったのだ。
そして肝心の食材達は事前に野村が冷蔵に入れておいてくれたのを使っていて、献立がカレーになったのは幽香曰く早めに作るなら少し寝かせた方が美味しくなるカレーが良いとのことらしい。
「にしても、もうすぐで女体化の時間になるが……大丈夫そうか?」
優司が腰を上げて立ち上がると台所へを近づいて声を掛ける。
「う、うん……たぶん大丈夫だと思う。あとでトイレに行く振りをして晒しを巻いてくるから」
幽香は右手でお玉を回しながら若干不安の篭った様子の声色で返してきた。
そう、あと数時間で彼は女体化の時間に突入となって、京一に感づかれないように立ち振る舞わなければいけないのだ。しかも悪霊を払う時でさえ気付かれないように繊細な注意力が要求されるわけで、優司が思うに十八時以降の幽香は相当な重りを身につけての行動となるだろうと。
「まあ、今深く考えてもしょうがないない。取り敢えずは先輩の作戦を聞きにいかないとね」
自分が抱えているであろう不安を押し殺すようにして、幽香は言ってくるとコンロの火を消して鍋に蓋を乗せた。
「あ、ああそうだな。というより夕食の準備はもう良いのか?」
その様子を見て優司はカレーは完成したのかと確認の声を掛ける。
「もちろん完璧さ。僕の好みに合わせて辛口のビーフカレーにしたよ。それにちゃんとサラダの用意もするから安心してくれ」
幽香は自信気にそう答えると表情も何処となく誇らしそうで、ちゃんと野菜もあるとの事で栄養面の方もしっかりと考えられていると優司は聞いていて思った。
「お、おう分かった。……んじゃ、まぁ先輩も待っているだろうか部屋に向かうか」
それだけ言うと優司は台所から離れようとしたが、彼の次の行動を見て自然と視線が惹かれた。
「うん、そうだね」
短く返事をしたあと幽香は自身が着ている無地のエプロンの紐を解き始めて、それを脱ぎ終えると綺麗に畳んで椅子の上に乗せた。
その一見なんの変哲もない光景が優司には凄く心に刺さって仕方ない。
何故なら彼は家庭的な女性が意外と好きなタイプの一つでもあるからだ。
「ん? どうしたの優司? 僕の顔に何か付いているのかい?」
彼が顔をじっと見ていたのが気になったのか、幽香が不思議そうな表情をして顔を覗かせてきた。
「い、いや何でもない! とと、取り敢えず先輩の所へと行こう! きっと完璧な作戦が練られているに違いないからな! ははっ!」
彼の顔が急に視界に寄ってきた事に少しだけ優司は動揺の色を見せると、まさか自分が幽香のエプロンを脱ぐ姿に見惚れていた何て言える訳もなく誤魔化す勢いで言葉を次々と口にした。
そして彼がそんな家庭的な一面に弱い理由は、村正ライフ先生が描いた同人誌の新婚イチャラブ系の影響が大きい結果で、話を纏めると優司は村正ライフ先生に”何かを”歪められたのだ。
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