俺の魔力は悠々自適 〜精霊達と気ままな旅路〜

かなちょろ

第1話 いきなり異世界


 その日はいつもと違う事ばかりだった。

 今日から大学生としての一日目。

  俺は学校に向かう途中でトラックに轢かれて死んだ……はず?

 気がつけば一人、今までいた場所とは違うモヤのかかった場所にいた。


 ここがあの世?

 突然目の前には五つの光が現れ、聞いたことのない言語なのか音なのかで語りかけて来る。

 その五つの光は俺の体の中に入り、俺は意識が無くなり眠りについた。


 「はっ!」

 トラックに轢かれる瞬間を夢に見てビクッとして目が覚める。

 どうやら道端で眠っていたのか……。

 体を起こし、辺りを見渡すと全く見たことの無い場所にいる。


 ………は?


 まだ日が明るいので、周りは良く見えるが、周りには木しか無い。

 どこだよ……ここは……。


 服はそのままだが、持っていた荷物は無い。

 とりあえず、歩いてみるか……。

 こんなわけわからない場所で野宿はごめんだ。


 少し歩いていると、草むらから突然緑色の肌をした小柄な化物がギラリと光るナイフを持って現れた。


「ひっ!」

 見た事も無い生物……化物……?


 俺は走って逃げた!

 道なんてわからないけど、少しでも化物から離れようと走った。

 でも逃げた場所が悪かったようだ。 目の前は崖。 結構な高さがあり、飛び降りるのは無理。


 キーッ!!

 さっきの緑の化物がナイフを舐めながら近づいてくる。

 なんとか横をすり抜けようと、距離を取る……が、林の中から更に4人出てきた。

 5人の緑の化物が扇状に広がり距離を詰めてくる。


「く、くるなー!」


 俺は崖ギリギリまで詰め寄り、その辺の石を投げる。

 当たらねー!

 すっかり囲まれてしまい、絶体絶命。


 ………っ……ぇ……。

 何か頭の中に声が聞こえたような……?


『あた……つか……え……』

 また聞こえる。


 なんだ? 誰なんだ?


『あたしを使えって言ってんだよ!!このおたんこナス!!』

 うわあっ!!


 急に頭の中ででかい声が響くと、突然目の前に綺麗な赤い魔法陣のようなものが浮かび輝く。


『良いか!これから私の言う通り叫べ!!』


 なんだか良くわからないが、わかった。


『赤き紅より真紅に燃えし心なる火種 盟約に基づきその姿を見せよ……だ!』

「赤き紅よ……り……」


 ……恥ずかしー!!

 なんだこの厨二病的な言葉は!!


『早く叫びな!死にたいのか!!』


 そうだった。

 緑の化物はすぐ目の前まで来て飛びかかってきた。


 ギャン!


 赤い魔法陣に弾かれて1人が吹っ飛ばされる。


 それを見た他の4人は少し距離を取って魔法陣が消えるのを待ち、構える。


「えーと、赤き紅より真紅に燃えし……」

『しんなるひだね』

「心なる火種」

『めいやくにもとづき』

「盟約に基づき」

『そのすがたをみせよ』

「その姿を見せよ」

 

 言い終わると魔法陣が輝き、そこから赤い髪の毛の女の人が出てきた!


「ふー……久しぶりに暴れられるぜ」


 そう言うと片手から火の玉が現れ、緑の人に向けて発射する。

 その内の1人に当たり、断末魔とともに焼け焦げた。


 残りの3人は赤髪の人に向かってくる。


「私とやろうってのか! いいねぇ! あーはっはっは!」


 赤髪の人は笑いながら向かってくる緑の化物に向かって火の玉を連射してる。

 緑の化物は避けながらも1人また1人と当たり、残りは最後の1人となった。


 キー!!

 緑の化物は叫びながら森の中へ逃げ出す。

 俺もあんなの見たら逃げ出すよ……。


「お、なんだよ……逃げちまうのかよ……」

 赤髪の人は片手を下ろすと……。

「逃すわけねーだろ!!」

 そう言ってもう一度片手を上げると逃げる化物に向かってでかい火の玉を放つ。


 おそらく緑の化物は一瞬で蒸発してしまったであろう……。

 森にでかいクレーターが出来てしまっているのを見れば一目瞭然だね……。


「ったく……不完全燃焼だぜ……」

 赤髪の人は頭をかきながらこちらに振り向く。


「え……と……」

 今の惨状を見てしまって、俺はかなりビビってるからね……。


「あー……あたしはエルザ。 火の精霊だ」

「お、俺は安龍 翔あんりゅう かける18歳だ」


「翔だな。 よろしく」

「よ、よろしく」


 手を差し出されて思わず握手してしまったが、この人は一体なんだ? 精霊とか言ってたけど……?


 握手をしながらジロジロと見てしまった。


 髪は赤髪のロングヘアー、少しボサボサしてる。

 胸は結構ある。 腰は……腹筋すげぇ!

 よく見ると全体的にがっしりしてる。


「お、なんだ、あたしの身体に興味あるのか?」

 ニヤニヤしながら顔を覗き込むのはやめて……。

 腹筋が凄いだけだから…そこを見てただけだから……。


「なかなか良い身体してるだろ?」

「そ、そだねー……」

「さてと、自己紹介も済んだし、近くの村まで行くとするか」


 ちょっと待って。 まだ何にもわからないんだけど?


「ちょ、ちょっと待って。 俺まだ何にも理解して無いんだけど?」

「……めんどくせぇな……。 説明なら村に着いてからしてやるからとっとと行くぞ!」

 更にちょっと待て!!

「その格好で行くのか?」

「なんか変か?」


 エルザの格好は全体的に水着の様。

 首、腕、胸、下腹部、足、まではカバーしてるけど、他は出てるからね。

 説明はしたけど……。


「これは服じゃなくて、体の一部みたいなもんだからな。 ほら」


 ふにゅ。


「あ、柔らか…。いっ!!」


 赤い布の様な部分に俺の手を持って触らせたのは胸の部分だった……。


「柔らかいだろぅ……?」

 ニヤニヤしながら話してくる。

 すかさず手を離したが、感触はまぁ、良かったです。

「なら、余計にそんな格好じゃ村なんかに行けないだろ?」

「あたしは気にしないけどな」


 俺が気にするつーの。

「まぁ、いいや、なら村着いたらまた召喚してくれよ」

 そう言って赤い魔法陣が出現し、その中へ消えていく。


『そうそう、言い忘れてたけど、あたし達精霊を召喚するには魔力が必要だからなー。 今の翔の魔力だと後一回が限界っぽいから気をつけろよー』


 頭の中で話が聞こえてくる。

 おい! 村まではどうやって行ったら良いんだよ!


『あたしが知るわけないだろ。 適当に歩ってればそのうち着くさ』


 おいーー!!

 なんて適当なんだ……。

 とは言え、ここにいてもまた化物が出てくるかも知れないからな。

 遭難の時はやってはいけない下山を始めるのだった。

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