第4-24話 アクター
左腕がジンジンと痛む。
二の腕から肘がびっくりするくらい熱い。
まるで、勢いよく走ってる時にこけて擦りむいたみたいな痛さだ。
「い、イツキ! け、怪我してる!」
ニーナちゃんがそう叫んでも、やっぱりなという感想しか出てこない。
さっき
机の上でバレリーナみたいにくるくると回る
『うん。うん。持ってるね、良い眼を持ってるね。『真眼』だ。不意打ちが不意打ちにならないなんてズルだね!』
そう叫ぶ
俺はその瞬間に『
片方は左腕に、もう片方は
「――『
その瞬間、応接室の中にあった火災報知機が反応して甲高い警報音を鳴り響かせた。
『熱っ! 熱ッ! アハハ!!』
炎に
「ニーナちゃん。逃げて! 大人の祓魔師を呼んできて!」
そして、更にニーナちゃんを逃がそうとした瞬間に
『んー? イヤイヤ。それはやめた方が良いんじゃないかな。こっからでてもさ! 無駄無駄。もうボクの友達が学校の中にたくさんいるんだから! ねー?』
それがモンスターを指していると分からないほど、馬鹿じゃない。
馬鹿じゃないが、だからと言って眼の前にいる
元凶を叩かないと、いつまで経ってもモンスターの発生は食い止められないからだ。
次の瞬間、俺が魔法で生み出した炎を振り払って
『アハハ!』
叩いた瞬間、応接室の机とソファーが
『こうやれば簡単に友達が増えるの! 友達100人できるかなー?』
ソファーの中から細く白い腕が伸びる。
机からは黄ばんだ乱ぐい歯が、ぐいと伸びると巨大な舌が床を舐めながら俺とニーナちゃんのところに向かって走ってくる。
『おっと、大人気だね。イツキくん』
だが、それよりも俺の手が打ち鳴らされる方が速い。
『
「連れ去ってッ!」
そして、俺の『お願い』を叶えるために妖精たちは姿をくらませて、
その瞬間、モンスターが死んだことによって生まれた黒い霧が部屋の中を
そんな極悪な視界の中で、俺の耳元に悲鳴が届いた。
……最悪だ。
学校の中で、誰かがモンスターに襲われている声だ。
この学校にいる祓魔師は俺だけ。
非常勤の先生もいるらしいが、会ったことがない。
だったら、俺がこの状況をどうにしかしないといけないのだ。
『酷いや。せっかく友達を作ったのに……。悲しくて悲しくて涙が止まりません……。ボクの心は悲しみの青信号……』
その間に数十の核を作って、周りを魔力でコーティングしていく。
妖精魔法によってピクシーたちが核の数だけ生み出されると、俺はそれを学校に放った。
「……学校の中にいるモンスターを探して、祓って」
ピクシーたちは俺の『お願い』の通りに学校内に散らばった。
イレーナさんほど妖精を同時には生み出せないが、それでも学校1つをくまなく見張れるくらいの妖精は今の俺にだって呼び出せる。
1年間、ニーナちゃんと一緒に妖精魔法の練習を積み重ねていた成果だ。
俺は妖精たちが応接室から出ていくのを見ながら、地面に転がっている健康食品会社その社長の皮を見た。
「……この社長は
『ン? いやいや。この社長を知ったのはつい昨日のことだよ? 遊園地でさ。イツキくんを殺すって約束したからさ。どうやって近づこうかなって思ってさ』
『ほんとは家まで行ってさ。イツキくんの家族をみーんな殺して。みんな幸せなワンダーランドで遊ぼうと思ってたんだけどさ。結界で家が分かんなかったから、こいつなら近づけるかなって!』
俺は歯を噛みしめると、次の魔法を放つ。
『だから殺して皮だけ貰っちゃった!』
「『
それは俺の持っている拘束魔法。
『属性変化:木』によって生み出された木の幹は拘束相手の魔力を吸い取って成長する。それにより、絶対に逃さない拘束魔法になるのだ。
『うわーッ! 絡まってます! 絡まってます!!』
応接室のど真ん中で生み出した俺の魔法は
「……僕は狭い場所で祓う魔法を持ってなくてさ」
心がざわつく。
あの社長はほとんど知らない人だった。
だから、殺されたとか、死んだとか。そんなことを言われても涙が出るような関係じゃない。
でも、顔見知りだった。
だから、心がざわついてしまう。
「どうしても、外に追い出す必要があるんだ」
『魔力が持っていかれる! 魔力泥棒だ!』
「僕を殺しにきたんだったらさ」
『
合計で5本。
ただ、目の前にいるモンスターを祓うためだけに。
「最初から僕だけを狙えよ……!」
『え? ウン。だから最初からイツキくんしか狙ってないけど……』
「…………?」
『こっそり隠れてるところからさ学校まで来たのもさ。学校に僕の友達を放ったのもさ。全部全部イツキくんだけを狙うためだけど?』
「じゃあ、なんで皮に……」
『そりゃイツキくんを殺すために必要だからだよー! 笑顔笑顔! にぱーっ!』
俺はもはや何も言わなかった。
言えなかった。
『目的最優先! やるべきことはまっすぐやるのがモットーです! アハハ!』
だから、俺はもう
変わりに5つの『
それだけで、全てが終わるから。
『あ、ちょっと! 本当にここでボクを祓っちゃうの? 良いの? 良いの?? このまま祓ったら、タダじゃおかないよ』
そのままもがき続ける
「『朧月』」
次の瞬間、俺の魔法が発動する。
どんなモンスターであろうとも逃さない絶対の魔法。
それが
俺が生み出した『複合属性:夜』の小さな球体に向かって、
『あ、これ凄い! 凄い!! 死んじゃう! これ死んじゃう!』
だが、その声すらも遠く、小さくなっていく。
『こうなったら最終魔法!
笑い声が途中で途切れるとともに、
そして、その変わりと言わんばかりに黒い霧がグラウンドに残った。
だが、それも風に乗って消えていく。
何も残さないまま、
死んだのだ。
「……イツキ。大丈夫?」
「うん」
割れたガラスをシューズで踏んで、ニーナちゃんが顔を出す。
「……大丈夫だよ」
俺はそう返して、校舎に戻ろうと思った。
妖精たちがまだ校舎に残ってモンスターを祓っている。
その後を追って、早くモンスターたちを祓わないといけない。
それに、細井さんの皮もある。応接室も壊してしまった。
後処理の人たちを呼ぶ必要だってあるのだ。
だから、やるべきことは沢山あって。
心のざわつきなんかを噛み締めている暇は無いわけで。
「大丈夫だよ、ニーナちゃん」
俺はもう一度、自分に言い聞かせるように言ってから応接室に戻った。
頭の中はやらなきゃいけないことでいっぱいだった。
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