第44話 風呂場に金髪碧眼の美少女乱入者

 いくら守るためとはいえ、一つ年下の中学生の女の子を、男の家に来るように言うなんて、失言だったと和樹は思う。

 しかも、知り合ったばかりなのに。

 

 けれど、エミリアは和樹を上目遣いに、期待するように見た。


「あ、あの……それって、しばらく泊めていただけるってことですか?」


「う、うん。そのつもりだよ。もちろん観月たち女性も一緒だから、安心してよ」


「……ありがとうございます! ぜひそうさせてください」


「い、いいの?」


「はい。白川の家にいれば……その、ひどいことされちゃいますし。ご迷惑はおかけしませんし、恩返しもしますから」


「そんなこと気にしなくていいよ」


 和樹がそう言うと、エミリアは少しためらい、そしてぎゅっと和樹の右手を両手で握った。

 和樹が驚いて固まる。白い手の温かさにうろたえていると、エミリアは微笑んだ。


「祝園寺先輩なら信頼できそうだと思いましたし」


「知り合ったばかりなのに?」


「あの優しい観月さんのお兄さんですから。それに、危険なのに、さっき助けてくれました。か、かっこよかったです」


 エミリアはほんのりと顔を赤くして、そう言った。

 桜子に言われたとおり、和樹はエミリアの好意を得られるかもしれない。


(そうなれば……)


 エミリアを和樹のハーレム(?)に加え、そして、霊力を得るために子作りすることも現実のこととなる。

 和樹は心の中で首をぶんぶんと横に振ると、そんな考えを否定した。


 これではエミリアを利用するようなものだ。白川家と大きな違いがなくなってしまう。

 けれど、エミリアは柔らかい笑みを浮かべる。


「私、自分を守ってくれるかっこいい男の人と結婚するのが夢なんです」


「白川さんなら、そういう人がきっと現れるよ」


「そうですね。だって、その人は、今、目の前にいるかもしれませんから」


 エミリアは甘え、媚びるように和樹を青い瞳で見つめた。

 




 結局、エミリアは東三条の屋敷に来ることになった。東三条の前当主夫人、つまり結子を通して、白川家の当主には話を通した。


 そのまま白川家の屋敷にいれば、エミリアは異母姉のせいで男たちに傷物にされてしまう。

 だから、仕方のない緊急避難的な措置なのだ。

 

 エミリアの受け入れについて、東三条家でもそれほどの抵抗感はなかった。

 観月は自分が一番の正妻だから自信があるし、桜子はそもそもハーレムを主張した子だ。結子は和樹に絶対服従を誓わされているし、朱里は和樹の身体にしか興味はない。


 けれど、透子は不満そうだった。

 

「中学生の女の子が、一つ屋根の下で男子と一緒に暮らすなんて不健全よ」


「透子お姉ちゃん……同い年の男の子に妊娠させてって迫ったお姉ちゃんが言っても、まったく説得力ないよ?」


 桜子に言われ、透子はぐぬぬと黙ってしまった。

 和樹は苦笑した。


 東三条家のリビングで今後のことを会話していたのだ。豪華なシャンデリアの明かりに照らされながら、桜子が微笑む。


「でも、和樹お兄ちゃんは完璧だね。一日でエミリアさんを攻略しちゃうし♪」


「いや、そういうわけじゃなくて……たまたま避難場所の提案をして、受け入れてくれただけだよ」


「女の子は、好意のない男の子の家に泊まったりはしないよ?」


 それはそうかもしれない。しかも、和樹と結婚したい、というのと近いようなことを言われてしまった。


 ただ、エミリアがこの状況を見たらどう思うだろうか? 和樹は義妹の観月に手を出して抱いてしまっていて、しかも東三条の女性たちも和樹のハーレム入りを希望している。


 それでもエミリアは和樹に好意を持ってくれるかは、かなり疑問だった。


 玄関の呼び鈴が鳴る。エミリアが来たらしい。

 和樹が迎えに出ると、セーラー服の金髪碧眼の美少女が立っていた。白川エミリアだ。


 何度見ても印象的な女の子ですらりとしているし、日本人の女子中学生とは思えないほどスタイルも抜群だった。


「お、お邪魔します……祝園寺先輩」


「ようこそ、白川さん」


 ぎこちなく二人は挨拶して、互いに微笑む。考えてみると、観月は妹だし、透子も身内みたいな幼馴染だから、女の子を家に上げてドキドキというのは初めてのシチュエーションかもしれない。


 といっても、ここは東三条家なのだけれど。

 部屋へ案内するために廊下を二人は歩く。和樹の少し後ろをエミリアはついてきた。


 観月なら並んで歩くし、透子なら和樹の一歩先を行く。エミリアは少しタイプの違う女の子だと和樹は思った。


 和樹はその途中、東三条家が祝園寺の傘下になるまでの経緯を説明しようとした。

 けれど、エミリアは首を横に振った。


「状況は私も知っています」


「そうなの?」


「はい。お兄様が喋っていましたから」


 白川家の嫡男のことだ。やけに情報が早いなと和樹は思う。

 和樹はすぐにその理由を知ることになる。


 エミリアを客室に案内した後、その日の夜の途中までは平穏だった。


 エミリアも含めて、祝園寺・東三条一家は夕飯をとる。結子が母親らしく手料理を振る舞ってくれたのだ。

 

 結子は前回の一件の責任を取らされ、東三条の下働きの女性扱いを受けている。実質的には、「和樹お兄ちゃんの奴隷みたいなものだよ?」と桜子にまで言われてしまっている。

 そんなふうになってからのほうが、母親らしくなったのが不思議といえば不思議だ。


 結子は、自分の料理を嬉しそうに食べる娘たちを見て、嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 問題はそのあとに起きた。

 和樹の入浴中、風呂場には東三条の女性が入ってくることを禁止していた。東三条当主代行の権限があるから、透子たちは和樹の命令に逆らえない。


 昨日は透子、桜子、結子、朱里とフルメンバーで子作りを迫られて困ってしまっていた。

 ついでに、正妻(?)の観月にも、他の女性と同様に一緒に入浴は控えるように言ってある。


 観月は「兄さんの身体、洗いたいのに……」と残念そうにしていたけれど、裸の観月を見たら、和樹は襲ってしまう。風呂場でエッチなことをするのは、さすがに他の東三条の女性に示しがつかない。


(風呂場は声がよく響くし……)


 想像して、和樹は悶々としてしまう。

 早く上がってしまおうと和樹は考えた。けれど、和樹は一緒の入浴を禁止していない女の子が、一人だけいることを忘れていた。


「し、失礼します……」


 浴場の扉が開き、和樹が慌てて振り向くと、そこにいたのはバスタオル姿の白川エミリアだった。


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