【ー記憶ー】79

 渡りたいと思うのだが、車も沢山往来している大通りなのだから全くもって信号無視で渡るって事は不可能に近い状態だ。 でも今は一分いや一秒だっておしい。 こういう時に限って信号というのはなかなか変わってくれない。 これが普段だったら別に待っていられる位の時間ではあろうが、こういう時というのは本当に長く感じられる。


 やっと信号が青へと変わると雄介は信号で大勢待っていた人達を走り掻き分け望の元へと急ぐのだ。


 それとほぼ同時位だろうか。 遠くの方から救急車のサイレン音が聞こえて来ている。


 そして雄介はやっとの事で望がいるであろう現場へと、行く事が出来たようだ。


 今、雄介は走って来たせいで呼吸は乱れ呼吸を整えながらもその中心部へと人だかりを掻き分け向かう。


 その中心部が望じゃない事も願いながらなのかもしれない。 でも、もし、そうでなくても雄介の場合は消防士なのだから人を助けるとも思っているのであろう。


 そして、その人だかりの中心部へと雄介が辿り着くと、そこにいた人物に思わず言葉を詰まらせるてしまうのだ。


 しかも、その人物は心臓マッサージをされていたのだから。


「……へ? 望?」


 そうぼそりと想いの人の名前を呼ぶと、


「ちょ、コイツ、俺の連れやねん! 変わってくれへんか?」


 そう言うと雄介は心臓マッサージを開始する。


 普通の人ならば、こんな状況を見てしまったらパニックになるのかもしれないのだが、やはり雄介の場合には職業柄というべきなのか、直ぐに必死になって心臓マッサージを繰り返す。


 さっきまで聞こえていたサイレンの音は直ぐにそこで止み、もう、そこには救急隊員の姿があった。


 ここから先はプロに任せるしかないと思ったのか、軽く息を吐くとそっとその場を軽く離れるのだ。


 救急隊員が来たという事で少しは安堵するのだが、まだ終わった訳ではない。 ただ救急隊員が来てとりあえず一安心とだけでしかない。 救急隊員と共にストレッチャーで救急車へと乗り込む雄介と望。


 しかしまだ望の意識が戻ったっていうわけではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る