第25話始業式前日までの苦悩
翌朝は温泉街を少し散策し、おみやげを買ってから昼頃に旅館をチェックアウト。帰りのバスに揺られながら、清水さんはもう“次にどこへ行きたい”とか“冬にはスノボーしたいな”とか、楽しそうに話している。
一方、俺の胸にはなんとも言えない鉛のような重さがあった。旅行自体は決して悪いものじゃなかった。むしろ楽しかったし、清水さんの喜ぶ顔を見ると嬉しさもある。
でも、これ以上深入りすれば、俺がもっと“嘘をつく”ことになるのでは――そんな危惧が拭えない。
駅に着いて解散するとき、清水さんがふと唇を噛んで言った。
「あの……今回の旅行、やっぱり私たち“付き合ってる”って思っていいのかな?」
核心的な問い。ついに来た。
俺は一瞬返事に詰まる。周囲には人通りがあり、ガタンガタンと電車の音が響いてくる。
清水さんの瞳が不安げに揺れているのを見て、これ以上は曖昧にできないと悟る。
「……俺も、清水さんのこと大事に思ってる。正直、付き合ってるって言われてもおかしくないくらい一緒に過ごしてきたし……だけど、まだちょっとだけ時間が欲しいんだ」
「時間……?」
「うん。ちゃんと“告白”したいから、もう少し待っててもらっていい?」
本当は“ちゃんと決心したい”という裏には“大崎への気持ちを整理したい”が潜んでいる。
だが、それを口にするわけにはいかない。清水さんは少し戸惑いながらも、やがてほっとしたように微笑んだ。
「わかった……待つね。私も、急かすつもりはなかったから……でも、ちゃんと“告白”してくれるの、楽しみにしてる」
そう言い残して彼女は改札のほうへ走っていく。振り返ることなく、だが背中から喜びが伝わってくるようだった。
俺は一人取り残されて、改札を通る人波をぼんやりと眺める。
“覚悟”か。いつか咲さんや奏音さんにも言われた言葉が、改めて重くのしかかる。
始業式前日、突然の連絡
旅行から数日が過ぎ、いよいよ夏休みも最終日。明日には始業式を迎える。
俺はバイトや宿題に追われ、なんとなく気持ちの整理もつかないまま、一日を過ごしていた。
そんな夜、スマホが鳴る。見ると“大崎”の名前がディスプレイに表示されていた。
(大崎……!?)
電話で話すのは久しぶりだ。というか、彼女から直接電話が来るのはかなり珍しい。
慌てて通話ボタンを押すと、かすかに雑踏の音が聞こえる。彼女は外にいるのだろうか。
「もしもし、大崎?」
『あ、出た……よかった。今ちょっと大丈夫?』
「うん、大丈夫だけど……何かあったのか?」
『うん、あの、悪いんだけど、少し話がしたいの。もうすぐ家に着くところなんだけど……どうしても今日中に聞きたくて。』
大崎の声は普段より落ち着かない響きがある。何か切羽詰まっているのだろうか。
「わかった。電話でいいなら、ここで聞くよ?」
『……できれば直接会って話したいんだけど、もう夜だし無理かな?』
時刻を確認すると、22時を過ぎている。外で会うのは難しいかもしれない。俺も明日は始業式だ。
「じゃあ、電話で話せない? それとも、明日の放課後とか……」
『……明日はダメなの。学校が終わったら、ちょっと用事があって。どうしても今日中に話したいの』
焦りが伝わってくる大崎の言葉。何があった? 迷った末、俺は決断した。
「……わかった。じゃあ5分後に家を出る。コンビニの駐車場とかで待ち合わせできる?」
『うん。駅前のコンビニならわかる』
夜の外出は家族に咎められると思ったが、あいにく家には誰もいない。これ幸いと急いで着替え、家を飛び出した。
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