シン視点  1 ナツと出会って 失恋、失恋、失恋、失恋


 働き始めてから、一度パーマをかけてみたくなった。


 初めて行った散髪屋でかけたパーマは、予想以上にクルクルになり、全く気に入らなかった。


寮でパンチパーマの先輩に相談すると


「そのままでもいいと思うけどなぁ。 でも気に入らんのやったら美容院に行って取ってくれって言ったら取ってくれるよ」と教えてくれた。


散々迷った末、寮の近所の美容室に飛び込みで入った。


若いお姉さん(ユキさん)と、おばちゃん、二人でやっている店だった。


飛び込みで行ったにもかかわらず、すぐにパーマを取ってくれた。


その頃はまだ予約を入れてとかではなかったと思う。


それ以降も予約を入れて行ったことがないからだ。


それからもう一度パーマを当ててもらい、今度は納得のいく髪型になった。


お姉さんの名前はユキさん。


初対面ながら話が弾んだ。


「どこから来たの?」


「いくつなの?」


「どこの会社に勤めてるの?」と、彼女は僕のことに興味津々といった様子だった。


それからは、ずっとこの店で髪の面倒を見てもらうようになった。


 先輩のオサさんに、その美容室の話をしたら「一度連れて行け」と言われたので一緒に行ったこともある。


「シンさん、この間一緒に来た先輩、髪の毛ヤバいね」とユキさんに言われた。


「そうでしょう!プロのユキさんが言うなら間違いない。先輩には悪いけど、ハゲちゃうんでしょうね」


「どうしようもないのよ。育毛剤とか発毛剤で頑張っても多少延命できるかどうか」


「そうなんやね。ユキさんはハゲた人はどうなん?」


「まあそんなに抵抗は無いけど、無いよりはあったほうがいいわね」


「そうらそうやんね」


ある時ユキさんではなくおばちゃんが僕の髪をセットしてくれた。 


「今日は居てないんですね」


「そうなのよ。あの子、あなたが来るのを楽しみにしていたのに」


「そうなんですか」


「今度、誘ってみたら? あの子も喜ぶと思うよ」と、おばちゃんは後押ししてくれた。


次に行ったときによほど誘おうかと思ったが声をかけられなかった。


その日はなぜか混んでいたから。


その次に行ったときには少し間が空いてしまった。


次の来店時、おばちゃんは言った。


「山川君、ごめんね。あの子、辞めちゃったのよ」


「あなたのこと、やっぱり好きだったみたいだけど、家族の面倒を見るために実家に帰っちゃったの」


「そうなんですか…」


あなたの連絡先もわからなかったしね、と言われた。


またしても、タイミングが合わなかった。


僕は、転職するまでその美容室に通い続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る