10 異世界からの飛翔体
「なんじゃあれ、滅茶苦茶でかいのじゃ!」
「あんなもん突然街中に出てくんの反則だろ!」
アンノウンがダンジョン外に出現した事を告げるアラートが鳴り響いた後、マニュアル通りに鉄平たちは即時出撃準備を整え、管理局の車両に乗り現場へ急行する。
出現したアンノウンはマンタのような形態の全長30メートル近い飛行物体。
そんなものが唐突に市街地の上空に出現したのだ。
こういう事がいつ起きてもおかしくないという事は頭に入れていても、普通に動揺はする。
「また厄介そうなのが現れたわね……最近厄介なのが高頻度で出てき過ぎでしょ」
窓からアンノウンの姿を肉眼で捉える鉄平とユイの近くで、うんざりするようにそう呟いたのは赤坂だ。
「良かったんすか手伝ってもらって。そういう目的で来たんじゃないっすよね」
「こういう事になったら細かい事言ってられないでしょ。有事の時の人手なんて多いに越した事はないんだから。一時休戦よ」
「すまない、助かる」
そう言ったのは篠原だ。
「初めて見る個体だが……あれの相手を直接できる人員は限られているのは分かるからな」
ウィザードが最も不得意とする相手は、高い高度を飛ぶ飛翔体だ。
当然空中戦闘を自在に熟すウィザードもいるが、その数はある程度限られる。
その為ウィザードの多くは地上からの迎撃を狙う訳だが、それも有効的に地対空迎撃を行えるだけの射程と破壊力を持つ者でなければ実行できない。
ましてやグレードはSランク。生半可な攻撃は通じない可能性が高い。
故に戦える人員自体が限られてくる。
だからこそ戦える人員を総動員しての総力戦だ。
そう、総力戦。
「……自分から現場に足を運ぶのは久しぶりだね」
そう言ったのは杏だ。
現状一日に三秒間しか魔術を使えない彼女も、この場においては希少かつ最重要な戦力だ。
「悪いな、風間姉。今のお前をあまり前線には出したくなかったが」
「いいですよ。海の向こうや何もない更地の上ならただ倒すだけで良いですけど、市街地ならそうは言ってられないですから」
杏は普段の軽い空気を感じさせない真剣な声音で言う。
「上空で破壊したアンノウンが市街地に与える影響を最小限に食い止めないといけない」
「ああ。悪いがそれはお前に一任する」
「……ただ倒すだけじゃ駄目というのも大変じゃな」
「だな」
あの図体のアンノウンを跡形も無く消し飛ばす事ができるのであれば話は変わってくるが、おそらくそう簡単にはいかない。
仮に空中で絶命、もしくは機能停止に追い込んだとして、直径三十メートル近い図体がそのまま地上に落下する訳だ。
落下地点には甚大な被害が予想される。
セオリーで考えれば安全な地点にまで誘導するべきなのだろうが向こうがアンノウン、ましてやデータのない初めて見るタイプならば後手に回った分だけ致命的な事態を引き起こす可能性が高くなる。
故に早急に破壊し……落下物は全て人類最強の魔術師である風間杏が三秒という時間を賭けて作り出した強固な結界で受け止める。
それがこの作戦の大まかな概要だ。
「ちなみに最初から結界で囲ってしまって、その中であの化け物を倒すというやり方じゃいかんのかの?」
「お、ユイそれナイスアイデアじゃね?」
ユイがふと思いついたように言った言葉に鉄平が賛同すると、それに対し赤坂が言う。
「馬鹿ね。それだと向こうが通常運行してる時に結界を無効化できるようなタイプだったら、先輩の三秒を無駄に使う事になるじゃない」
「だからより効果が期待できる倒した後でやる必要があるんすよ。既に相手の情報がこちらにあれば大いにアリっすけどね」
「なるほどね」
「ちょっと簡単に考えすぎたのじゃ。ごめん」
「いや、いい。気付いた事があったらどんどん言ってくれ」
そう言った篠原は、運転席の神崎に言う。
「神崎、地上部隊の指揮はお前に任せた。あとは風間姉の護衛と補佐。そして万が一の場合は頼むぞ」
「分かりました。迎撃の方はよろしくお願いします」
「ああ」
そう言って篠原は一拍空けてから、力強い声音で言った。
「あのアンノウンは俺と風間妹、杉浦にユイそして赤坂。この五人で止める」
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