21 面倒で物騒な事が終わったので、そろそろ晩御飯を作っていこうのコーナー

 あれから無事ショッピングモールの駐車場を出た鉄平は、ユイと共に別のスーパーへ。

 そこで今度こそ夕飯の鍋の具材や明日の朝用の食パンなどを買い込み、帰宅。


「……なんかすげえ疲れたぁ」


 ……ようやく帰宅だ。

 とても夕飯の買い出しに行った帰りとは思えない程の疲労感が溜まっている。

 まあ当然それだけで終わらなかったが故の疲労な訳だが。


「お疲れ様じゃ鉄平。今日はゆっくり休むのじゃ」


「ああ。でももうひと頑張り。ユイはゆっくりしててくれ」


 言いながらキッチンに買ってきた具材を置き、すぐに使わない物は冷蔵庫に入れていく。

 そしてそんな鉄平の後ろを付いてきたユイが問いかけてきた。


「ワシに何か手伝える事あるか? 流石に疲れている鉄平一人に全部任せてワシはお客様ってのはちょっと違う気がするんじゃが……」


「ん? あーそうだな。じゃあなんか頼もうかな」


 自然と全部自分でやるつもりで動いていたが、今のユイはお客様というよりは同居人だ。

 今後この世界に馴染んでいく為にも、こういう事は積極的にやって貰った方が良いのかもしれない。

 本人に意欲があるなら尚更だ。


「でも火使ったり刃物使ったりだから、慣れてねえとあぶねえ気がするんだよな」


 見た目通りの年齢の普通の子供なら、家の手伝いや学校の調理実習などで最低限その辺の扱いを学んでいるとは思うのだが、その点ユイは普通ではない訳で。

 そしてそういう事以外で考えようにも、鉄平としては料理について何かを手伝ってもらう側に立つのが初めてな事もあり、正直何を手伝って貰えば良いか思いつかない。


 が、そこで不敵な笑みを浮かべてユイが言う。


「ふふふ、何を言っているのじゃ鉄平。何を隠そうワシは刃物じゃ。すぺしゃりすとじゃ!」


「マジじゃん。お前スペシャリストじゃん」


「そうじゃろ?」


 そう言ってちょっとドヤ顔を浮かべるユイ。


 なんならこの世界の誰よりも刃物のスペシャリストな気がする。

 とはいえ。


「あーでもアレな? 確かお前指をナイフに変えられたと思うけど、そういうので切るのは無しな。なんとなく嫌だし」


「分かってる。ワシもそれはなんか嫌じゃ」


 そう言って包丁に手を伸ばす。


「これを使えば良いんじゃろ」


「そうそれそれ……分かってると思うけど、人に向けるなよ」


「大丈夫じゃ。昨日鉄平に刃物を向けるなって言われたばかりじゃからの」


「良く分かってんじゃん。じゃあ野菜切ってくか。軽く野菜洗ってからカット開始だな」


 そう言って鉄平は見守り耐性。


(……うん、仕事消滅したな)


 鍋のスープは温めるだけの奴を買ってきた訳で、つまり野菜を切って火にかける位しかやる事以外だと、米を炊く時間が無いので割高だが今日の分だけ買ってきたレンチンのご飯を電子レンジにぶち込む事位だ。


 そして野菜が洗い終わりいざカットタイム。


「一応確認しておくが、これどういう大きさで切れば良いんじゃ?」


「とりあえず長ネギは一口サイズにこう、斜めに頼むわ」


「了解じゃ。刮目するのじゃワシの無敵な剣捌き!」


「包丁捌きな。一体何切る気だお前」


「ネギじゃが?」


「そうだな」


 とまあそんな感じでユイがネギを切り始めるのを見守る。


(これ……一応絆創膏とか用意しておいた方が良いか?)


 なんとなく……なんとなく嫌な予感がある。

 だって別物だ……流れでなんとなくこうなったが、どう考えて別物だ。

 自分が剣になったり体を刃に変えて扱う事と、包丁の扱い……!


 故にありえる……とんでもない包丁捌き……ッ!


(というか安全な切り方とか本当に分かんのか!? これ一回止めた方が良いのか!?)


 そう焦りながらやっぱり止めようかと思っていた鉄平だったが……。


「えい」


 そんな掛け声と共に、ちゃんと指を切らないような適切な切り方で刃が入れられる。


「……」


 そこからはほぼ無言でネギを切っていく。

 ちゃんと切れていく。

 そしてしばらくして。


「どうじゃ鉄平!」


「完璧」


「よっしゃあ!」


 可もなく不可もなく、普通に良い感じになった。

 それなりに大勝利。

 congratulations。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る