20 戦いの後

 あれから警察や消防、そして異界管理局のウィザードと入れ替わるようにショッピングモールの外へと出た。

 元よりショッピングモールの端で戦っていた事もあり、杏の結界が解除されさえすればすぐに近くの出入り口から外に出る事が出来た訳だが。


「俺は結構元気なんですけど、やっぱあの人達手伝いに戻った方が良いですかね?」


「ワシもある程度元気じゃから、やれる事やるのじゃ!」


 近くの出入り口付近に居た人達は神崎が孤軍奮闘している間に比較的安全な反対側へと倒れる前に逃げだす事ができていたようで、人気が無かった。

 だが逆に言えば別の場所は勿論、おそらく探せばこの近辺にも倒れている人はいる筈で、その辺の救助活動に加わらなくても良いのだろうかと疑問に思うが、その問いに神崎が答える。


「さっきまでみたいに孤立している状況ならともかく、今のお前らはこういう時の動き方を知らない素人だ。プロが大勢いるなら下手な事はしない方が良いだろ。多分邪魔になるだけだ」


「それに一応書類上は明日からウィザードで今日はまだ内定しているだけの一般人なんすから尚の事っすよ。ていうか杉浦さんその状態でユイちゃん使って戦ってたけどこれ大丈夫なのお姉ちゃん」


「問題になってもなんとかするよ。緊急事態だったし、いくらでもどうにでもできる。ちゃんと非難の声を、此処に居てくれて良かったって声に変えるよ」


 そう言ってくれる杏からは、今までのような壁は感じられない。

 先程ユイから差し出された手を杏は取ってくれた。

 それでわだかまりが全て解消されているかは分からないが、それでもずっと良い関係には落ち着けていると思った。

 とにかく今は、信頼出来て心強い。


「助かるのじゃ」


「ほんとありがとうございます」


(……しっかしこの人、この一件中は全くポンコツ感無かったな)


 いわゆる昼行燈という奴なのだろうか?

 初めて会った時はこの人の事をここまで心強いと感じる日が来るとは思わなかった。


「まあとにかく杉浦さんは今日はもう帰ってゆっくり休んで良いっすよ」


「……まあそういう事なら今日は帰るけども。ユイに晩飯食わせないとだし。ユイ、お前もそれで良いか?」


「鉄平がそれで良いならそうしようかの。正直鉄平と同じように、何かできる事をした方が良いんじゃないかとは思うが、神崎さんの言う通り確かに素人じゃしのう…………あとお腹空いた」


「じゃあさっさと他のスーパーに行くっすよ。今からならまだ全然空いてるっすから」


「そういやお前はどうすんの?」


 柚子にそう問いかける。

 この場において鉄平とユイは素人な上に鉄平に関しては今日の所は一般人。杏はどちらかと言えば救助される側で、神崎に至っては結局普通に5人で行動しているが現在進行形で重症である。


 そんな中で柚子だけ目立った外傷も無く、エネルギーも吸収されておらず、そして素人でもない。

 だったら他のウィザードと合流したりしなくても良いのだろうかと、そんな問い。

 それに柚子は答える。


「私はアレっす。現場に居たウィザードの一人としてお姉ちゃんや神崎さんの代わりに色々と報告してこないと駄目なんで」


「なるほど。確かにそういうのも仕事の一つか」


「ついでに鉄平が凄い頑張ってたって伝えて欲しいのじゃ!」


「いやお前もだろ。助かったぞ、良い感じに適切な力を使わせてくれて」


「勿論二人の事も報告しとくっすよ。任せろっす! これで杉浦さんは勿論ユイちゃんの評価もうなぎのぼりっすよ!」


「あー……そう、じゃな」


 なんだか微妙な反応をするユイ。


「ん、どうしたんだユイ」


「今の喜ぶ場面っすよ。評価上がって悪い事無くないっすか?」


「杉浦はともかくお前は微妙な色々と立場だからな。悪い事はねえと思うけど……」


 鉄平達の問いにユイは複雑そうな表情を浮かべて答える。


「いや、嬉しいんじゃけど……ほら、人の不幸の上で成り立ってる事じゃしな……なんかあんまり喜んだら良くないかなって。そう思うのじゃ」


「いや、良いと思うぜ」


 鉄平は即答する。


「そりゃこういう活躍するような場が出来た事事態を喜んだら最悪だけどさ、起きた事を頑張って解決して、それが正当に評価されるんなら喜んだって良いって。そこに何も後ろめたい事なんかねえよ」


「そう……じゃろうか?」


「ああ。胸張ってきゃ良い」


 鉄平が諭すようにそう言うと、少し間を空けてから小さくガッツポーズする。


「じゃああの化物を無事倒して、結果良い感じになってる事を素直に喜んで良いんじゃな! っしゃあ!」


「おう、良い感じじゃん。折角だしハイタッチでもしとくか。ほら」


「ハイタッチとやらは良く分からんがワシら大勝利じゃ!」


 そしてユイの高さに合わせてハイタッチ。

 本当に色々と、大勝利だ。


 自分達にとって。

 そして。


「……きっと間違ってなかったんだ」


 噛みしめるようにそう呟いた杏を含めたこの場にいる関わった全員にとって。


 きっと、その筈だ。

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