ex 場外戦

 ジェノサイドボックスの反応は消滅したが、それで全部終わりという訳にはいかない。

 終わったのはあくまで直接的な戦闘だけ。

 此処から警察や消防と連携して被害者の安否確認などを含めた事後処理を行っていく事となる。


 そしてウィザード側でその指揮を担っていたのが異界管理局北陸第一支部の実働部隊隊長、篠原圭一郎だった。


 だが彼にやれた事は最低限の指示と、事前にこういうケースに備えて解除方法を把握している風間杏の自立型結界の安全な方法での解除位。

 それ以外は途中から優秀な部下達に一時的に任せる事にした。

 悪くも悪くも甘い自分の代わりに神崎が厳しく鍛えていたおかげで、隊長副隊長の現場指揮が機能しなくなった場合の動きも各々しっかり頭に入っているからその辺は安心できた。だから任せている。


 そう、今は機能していない。

 篠原はやや目の前の現場処理からズレた別件の業務を熟さざるを得なくなった。


「あの、今事後処理で本当に忙しいんで。少し待っていてくれませんか」


 通話先の相手がどういう用件で連絡をしてきたのかを、ある程度察しながらそう言った篠原に、電話先の男は答える。


『忙しいのは分かってる。こっちもお前の所に応援に行く為の準備をさっきまでしていたんだ。良く分かってるさ。だけど一つだけ教えろ……ジェノサイドボックスともう一つ、強いアンノウンの反応が検出された。あれは一体なんだ?』


「……」


『俺達の方の観測ミスじゃなければ、昨日のアンノウンじゃねえのかあれは』


 そう問いかけてくるのは異界管理局北陸第二支部支局長の福田だ。

 北陸第一とは違いダンジョンの管理はしていない為規模はやや小さいが、北陸第一がカバーできない地域にアンノウンが出現した際に動くなど、ダンジョンの管理以外の業務は変わらない。

 故にどちらが上だとか、そういう間柄ではない。


 対等。

 故にその問いに対し、今時間を割いてまで答える義務などは無い。


 だがそれはあくまで組織間の話であり、篠原個人としては二回り程歳が離れた福田は大先輩であり、実際若手の頃から色々と世話になっている。

 組織としても言わばお隣さんだ。

 ……他の支部からの連絡はごり押しで受け流せるかもしれないが、此処は難しい。


 それに、良くも悪くもデリケートな話題だ。

 余計な不信感を持たれるのも避けたい。

 仮に相手が福田で無かったとしても、避けてはならない戦いだ。

 

 だからもう少しだけ、目の前の仕事からは外れさせて貰う事にした。


「ええ、そうですよ。先日のアンノウンです」


『どういう事か説明しろ篠原』


 現状、ユイというアンノウンの現状を把握しているのは、北陸第一の人間と東京本部の一部の人間だけだ。

 そう、まだ大々的に情報は広がっていない。

 広げる事が出来る状況ではない。


 現在進行形で、ユイの扱いについて東京本部とモメている最中。

 篠原なりの戦いを始めたばかりなのだ。

 公式な決定として、各支部に連絡が行くような事は無い。


 ……故にいくらでも誤魔化しが効く支部の施設内以外での力の使用は現時点では控えて欲しかったのだが……こうなると誤魔化しも効かない。

 真摯に伝えられる事を伝えて、願わくばこちら側についてもらう。

 それが無理でも最悪な場合敵になってしまわないように。


 やれる事をやる。


 きっとそれが最善であり……部下に任せる事が出来ない自分の役目だと、そう思う。

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