第22話 はじめてのデートプランの作成方法
大学の構内を二人で並んで帰っていると、なんだかやけに周囲の視線が気になってしょうがなかった。すれ違う誰もがこっちを見ている気がする。
よく考えてみれば、美空先輩は今までもずっと構内を歩いているだけで道を開けられるくらいには恐れられていて、俺はその美空先輩に唯一ついていっている思考実験サークルのメンバーってことで有名人だからこれまでと何も変わっていないはずなのに。
美空先輩は全然気にしていないようで、周囲の困惑の視線なんて無視して、俺の手をぎゅっと握ったまま肩を俺の腕に擦り寄せていた。
「もうちょっと一緒にいたいけど、輝ちゃんもいるからね」
「輝は関係ないんじゃ」
「
俺がずっと悩んでいたことを美空先輩は見透かしていたように言った。昨日まで顔も見せないくらいだったはずなのに、悩みがなくなった美空先輩に早くも手綱を握られている気分だった。
「だから、日曜日にデートしようか」
「て、展開が早いですって。ちょっと落ち着かせてください」
「どうして? こーくんから付き合いたいって告白したんじゃない」
「いや、それはそうなんですけど」
やっぱり美空先輩は美空先輩だ。自分がやると決めたらどんな状況でも決して止まらない。想像以上にぐいぐい来る。この勢いが付き合い始めたからとかじゃなくてずっと続くことが決まっているのが、怖いような嬉しいような不思議な気持ちだった。
「とにかく日曜日だから。私も考えておくけど、こーくんも行きたいところ考えておいてね」
美空先輩の足は駅の改札口の前で止まった。実家暮らしの美空先輩は毎日こうして電車通学をしている。大学から徒歩数分の所に住んでいる俺はあの改札の向こう側まではついてはいけない。
「あ、輝ちゃんに相談するのはなしだからね。最初くらいカッコつけないこーくんのデートプランが見てみたいから」
「プレッシャーかけないでくださいよ」
俺が自信なさげに答えると、その答えが聞きたかったらしい美空先輩は満足そうに笑って俺の頭を撫でた。
なんだかいつまでも美空先輩の手が頭に乗っているような気がして、俺は落ち着かないまま自分の部屋へと戻っていった。
「おかえり。その顔を見るとうまくいったみたいだね」
玄関を開けると、待ってました、とばかりに輝が顔を出す。いつからそこに待機していたのかというくらいのスピードだった。
「まぁな。予想通り美空先輩は部室に来たよ」
「新入部員は?」
「来ると思ってないんだったら聞くなよ」
俺が答えると、輝はへへ、っとイタズラっぽく笑った。
「そういえば次の日曜日」
「どうしたの?」
「いや、出かけるからお昼は適当に食べてくれていいよ」
「うん、わかったー」
美空先輩と付き合うことになったとは言えなかった。それを聞いたら輝は変な気を利かせて出ていってしまうような気がする。俺も美空先輩と同じ意見だった。
それ以上は今日部室であったことは話さなかった。輝も聞こうとはしなかった。お互いにどこか逃げ腰な会話をしながら夕食を終えると、俺は輝から逃げるように部屋に入った。
ベッドに体を預けて、スマホで検索をかける。
大学生、初デート、オススメ。
キーワードには山のように結果が引っかかったけど、どれもしっくりこなかった。美空先輩と出かける先をどこにするかなんて簡単には決められない。
今までそんな経験がなかったわけじゃない。父親の連れてきた女性と何度か出かけたことはあった。だけど、あのクソ野郎の知り合いは当然ギャンブル狂ばかりでカジノや競馬、競艇、パチンコに付き添いをさせられるばかりで少しも楽しくなかった。
「ダメだ、全然参考にならない」
本当なら輝の意見を聞いてみたい。その答えも輝の性別を見分ける参考になる。ほんの数日前ならそう考えていただろう。だけど、今はもうそんなことは考えられなかった。きっと輝が俺と美空先輩が付き合っていることに気付くまでそれほど時間はかからない。それでもほんの少しでもその時を遅らせたかった。
「でも誰かが選んだデートコースじゃ、結局カッコつけた俺にしかならないんじゃないかな」
最初くらいはカッコつけない俺が見てみたい。美空先輩はそう言ってくれていた。だったら美空先輩の知らない素のままの俺を素直に受け入れてもらえるだろうか。
「うーん。近くにいい場所があるといいんだけど」
スマホの検索ワードを変える。さすがに大学近くに目的地は見つからなかったけど、電車に乗れば1時間もかからず行けるみたいだ。
「デートだから、あとは近くにランチとカフェくらいは選んでおくか」
目的地が決まると、デートコースも決まってくる。美空先輩はアクティブだから歩き回るようなコースの方がいいかもしれない、なんて考えて考えるのをやめた。
「カッコつけなくていいんだったな」
少し顔がにやける。こうやっていいところを見せようと考えてしまうんだろう。それだけ自分が美空先輩のことが好きなんだと自覚する。飾らない自分を相手に見せるのは正直言って怖い。それでもそれ以上に素の美空先輩を見られることが楽しみだった。
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