「ぼっち」が結ばれるわけがない!

たかぴー

第1話~ちこくちこく~

プロローグ

 雪が積もり、気温は0度~-1度くらいの深夜。月もなく、星もなく、空は混沌を極める。手がかじかみ、痛覚が刺激される。そんな外界とは無縁のごとく、地上では大多数のライトが煌々と辺りを照らし、白く輝く雪上は、多くの人の足跡と土、そして人々の熱気にあふれていた。自衛隊や機動隊はすべて抑え、本丸に突撃するのみである。


「いやー長かったですな、この闘いもこれで終わる」


「ああ、本当に長かった。そもそも大将がいなけりゃこんな復讐もできなかった。あの時は、まさか俺たちがあいつらに勝てるとは思いもしなかった」


「何言ってんだ、あの大将が居れば俺らは無敵だ。大将の技術力に為す術なく降伏して、今や敵は丸裸。これからは我らの天下だ!」


「みなさん、ここで気を抜かないでください」


「『大将!』」


 僕はいつの間にか、彼らに担ぎ上げられ、この革命の大将になってしまった。大将と言っても深く考えることはなく、自分の好き勝手やってきただけなのだが、まさかここまで大がかりなものになるとは。まったくの予想外だった。


「でもあいつら、どうせ本丸でガタガタ震えているに違いないですぜ」


「そりゃ、頼みの綱の自衛隊や機動隊があっさりやられたからな。あのときの敵の焦り顔が見物だったな。はははっ」


 士気は非常に高い。しかし油断も見られる。おごる平家は久しからずというが、いつ背後から襲われるかわからない。あいつらはいつも僕らを虐げてきた。これで終わるはずはない。


「大将!伝令です!伝令です!」


「!?なんですか」


「敵は大将の・・・・・・例の装置を盗み、過去へ刺客を送り込んだとの連絡です!ちなみに、使用後大爆発を起こし、慌てふためいている様子です!」


 盗んだ、か。あれはそう易々と使える代物ではない。爆発したなら、相当無茶な扱い方でもしたのだろう。厳重にロックしておいたはずだが、裏切り者でもいるのだろうが。あの装置はもう二度とつくることはできない。


「なんて卑怯な!今の大将を殺せないからと、過去に・・・・・・」


「闘いに卑怯も正々堂々もないですよ。ですが、過去の僕もそうたやすく殺されるようなことにはならないでしょう。すでに手は打ってあります」


「いえ、それが刺客というのは暗殺者ではなく・・・・・・」


 諜報部からの耳打ちに、思わず吹き出してしまう。敵の上層部はずいぶん変なことをするものだ。


「どうしたんですか、大将。珍しく笑って」


「いや、この後の未来がどう変わるのか見物だな、と思っただけです」


「?」

 突撃の時刻になった。さぁ、ぼっち諸君、革命の時だ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2022年春。中学校を卒業し、高校入学までの間の春休み。メールが夜中、僕のパソコン宛に届いた。突拍子もない内容。ホワイトリスト以外からは着信拒否にしているセキュリティーがっちりのパソコンに、迷惑メールじみたものが届くとは意外だった。


「オカルトか宗教の広告か?まったく、削除っと」


 それからメールのことは何の気にもとめずに、いつものゲームのデイリークエストをこなし、布団に入った。


 これが、最後の穏やかな夜になるとは思いもしなかった。


1話~ちこくちこく~!~

 前田隆裕。僕は高校1年生だ。だが、誤解してもらっちゃ困る。友達なし、恋人なし、日々授業をこなし、さらに帰りはどこにも寄り道せず、まっすぐ家に帰る優秀な学生である。そして、一人暮らし。四六時中一人。まあ早い話、筋金入りのぼっちということだ。

 さらにある日を境に異能の力まで手に入れてしまった。どういう力かというと・・・・・・


「おい!ボールそっちへ飛んだぞ!」


 ボールが通学中の僕の後頭部目指して飛んできた。だが避ける必要はないのだ。軽く振り向きボールを視界に収め、エネルギーをため、くいっと手首をひねれば勝手にボールの方が逸れていく。ん、あいつは入学早々僕にちょっかいをかけてきたタロウじゃないか。ボールを僕に向けて飛ばしたのもわざとだろう。まったく、殺す気か。僕は90度角度をそらすつもりのところを180度そらし、さらに加速度をつけてお返しした。


 あり得ない動きに驚いているタロウの急所に、加速度をつけたボールが直撃。


「ぬぉおおお」


 悶えるタロウ。自業自得故、同情の余地なし。小太り男の滑稽な奇声、実に愉快。

 っとまあ、こんな感じで視界に収めたものは手を触れずとも物理的に操ることができるのだ。ぼっちには敵が多い。あらゆる人、社会が敵だ。


 だが、安心?してほしい。この力で無双しようなどはまったく、これっぽっちも考えていない。


 善人ならこの力を世のため、人のために使おう!と笑顔で声高に叫ぶだろうが、そんなものは糞食らえだ。ほかがどうなろうと知ったことではない。害でしかないものをどうして助けなければならないのか意味がわからない。


 この力を他人に利用されるのも屈辱だ。したがって、この力が他人にばれて、世間から注目されるようなことがあっては絶対ならない。だが不思議なことに、この能力をおおっぴらに使っても全く怪しまれることがなく、マスコミに追われるでもなく、この通り平穏に高校生活を送れている。別にこの力で世界征服したいわけでもなく、ただ平穏にぼっち生活を満喫して、寿命を全うできればそれで十分!な僕にとってはありがたいことだ。ご都合主義の力、万歳!


「ちこくちこく~~」


 ・・・・・・なんだ、この昭和の漫画のテンプレみたいなワードは。前から、女子高生らしき人が全速力で走ってくる。しかもお決まりのように食パンを加えている。

 遠目に見ていると、カチンと目が合ってしまった。うわ、しまった気まずいと思った瞬間、彼女はニヤッと笑った。そしてまた元の慌てた表情に戻り、そのまま走ってくる。おいおいおいおい、前が見えてないのか!?このままだと直撃じゃないか。僕は道路の端によった。こんなもの力を使うまでもない。しかし、なぜか彼女も同じように端により、そのまま進んでくる。また避けようとすると、向こうも同じように寄ってくる。らちがあかない。


 意味がわからないぞ。


 ・・・・・・ん、そうだ、聞いたことがある。これはわざと当たりにいって、高価なものが壊れた弁償しろといちゃもんつける。そして金を巻き上げるやつだ。そうに違いない。


 ふと後ろを見ると、まだ悶えているタロウがいた。さっきは悪かったな。よし、ラブコメのテンプレをプレゼントしてあげよう。後のことは知らんがな。ふふふ。

衝突する直前、悶えるタロウを視界に収め、即座にタロウを僕の前に配置し、肉壁とした。


「きゃあ、いたたたた・・・・・・ん、あれ?」


「でゅふふふふ。君、どうしたの。なんか運命的だね」


 見事に女子高生がタロウを押し倒した格好だ。あのタロウの位置に僕がいるかもしれなかった、と考えるとぞっとする。にしてもあのタロウの鼻の下を伸ばしきった顔、実に愉快。


「・・・・・・っ!あんたじゃない!気持ち悪い!」

「え?」


 思い切りビンタを食らうタロウを見て、僕は早々とその場を立ち去った。なんだったんだ、いったい。そもそもあの時間なら遅刻どころか余裕で間に合うはずなんだがな。


 学校に着くと、僕は校門で配られていた校内新聞にサクッと目を通し、授業の予習を始めるいつものルーティーンをこなす。学校は3階建てで、一年生はその最上階の3階の教室。移動教室はなく、席は教室の一番後ろの窓際で、隣の席はなぜか空席である。寂しい?いや最高の立地である。そして「また、あいつ勉強してる」「話しする友達いないのかよ」「何が楽しくて生きてんだろ」などなど、とまあ朝から雑音の絶えない環境(教室)だ。ぼっちのすばらしさがわからん奴らめが。せいぜい無駄な優越感にでも浸ってればいいさ。


 そんなこんなで、予鈴が鳴り、朝のホームルームが始まった。先生はやさしく、みんなから慕われている。僕にすらいろいろとお節介を焼いてくる。昨日など、「部活にでも入ったらぁ~?楽しいよ~」とひたすら勧めてきた。話が止まらないので、ちょっと用事が!といってすぐに抜け出してきた。


「おはよう、みんな~。さっそくだけど、今日は新しいクラスメイトを紹介するね」


「え、私たち入学したばかりなのに、もう転入生が?」


「うーんと、ご両親の都合で入学が遅れちゃっただけだから、転入とはちょっと違うかな。あ、入っておいで~」


 静かに戸が開き、入ってくるのは今朝タロウとぶつかっていた女子高生だった。言われてみればうちの制服を着ていた。うん、なんか、もうそんな気がしていた。


「わたし、花崎未来と申します。入学が少し遅れてしまいましたが、これから3年間よろしくお願いします」


 男子がざわついている。大きなぱっちりした目に、少し茶色がかったロングの髪、とてもかわいらしい印象だ。欲望まみれの男子高校生には無理もない。まあ、僕もその男子高校生とやらの一人だが、もうわかるだろう、他人に無関心どころか敵対心すら抱く僕は一ミリも心が動かない。動かざること山の如し。


「席、どうしましょうかしら。あっちょうど空いている席が」


 ・・・・・・山のごとき心が急に土砂崩れを起こしだした。やめろやめろやめろやめろ!たしかに僕の隣の席は空いているが、僕のパーソナルスペースとして重要な役割を果たしているんだ。得体の知れない、ましてや波乱の生活をもたらしそうなものを近くに置ける訳がない!


「実は、朝このクラスの人と知り合いになりまして、」


「おい、だれだだれだ!?」


 花崎さんとやら、それはまずいって。うわ、また目が合った。なんだその笑みは!安定のぼっち生活に早くも危機を感じた僕は即座に能力を行使した。ガタッと一人の男が急に起立する。


「えっ?えっ?」


 タロウは実に不思議そうな顔をしている。そりゃそうだ。僕が力で無理矢理立たせたのだからな。


「おいどうしたんだよ、タロウ。急に立って。早く仲良くなりたいからっておまえ、ずるいぞ」


「いや、えっと」


 タロウが何か言いかけたとき、他の女子があー!という声を上げた。


「そういえばタロウ君と花崎さん、今朝通学路でぶつかってたよね!?」

「わたしも見てた。すっごいラブコメっぽい感じだった!」


 クラスがもうその話題で持ちきりになりざわついている。すべての注意をタロウという身代わりに持っていくことができた。


「えっと、ちょっとちがくて・・・・・・」


 何か言いかけた花崎さんの言葉はクラスの明るいヤジにかき消され、どんどん話が進んでいった。恋とか彼氏彼女とか、だれが付き合って誰が別れたとか、年頃の高校生には最高の話のネタだ。とどまることはない。僕はそんなものどうでもいい。他人のことなど知らん!


「ひゅーひゅー!王道ラブコメじゃんか」

「うるせぇ」


 そういいながらもタロウはまんざらでもなさそうだ。一方花崎さんとやらは悔しそうな、恨めしそうな表情を一瞬だけ覗かせて、すぐ清楚系美人の笑顔に戻った。


「それなら、ちょうどいいわねぇ~。花崎さん、タロウ君の隣に席にいってね。あっでも席が空いてないから、ちょっと移動してくれる子いないかな?」


 あっこれは気まずい雰囲気だ。だれも僕の隣など来たくないだろうに。そもそも花崎さんよりはましとはいえ、やはり僕の隣だけ空席とかいうイレギュラーはなくなってしまうのか。ん、花崎さん、なんかニヤリとしたな。ちこくちこく~の騒ぎの時同様、なにか考えているのだろう。そうはさせるか。シャラップ。


「あっ、じゃあわた・・・・・・もごもごもご!」


 なにか言おうとした花崎さんの口を力でチャックし、直立不動の姿勢にぴしっと固定。緊急避難だ。致し方ない。

 クラス中がシーンとする。なんでこんな朝から疲れるんだ。先生も困っている。


「えっと・・・・・・じゃあ私が移動しますね」

「あっ雪本さん?いいんですか?」


 手を上げたのは女子の雪本さんとやら。花崎さんとは対照的に、とても大人しそうな印象である。そもそもクラスメイトの名前を覚えていないので名前も今知った。クラス中が雪本さんに貧乏くじを引かせたみたいな雰囲気、かわいそうという哀れみに満ちる。


「わかりました。雪本さんありがとうね~。それと花崎さんは学校のこと、タロウ君にいろいろ教えてもらってね」


「もごー!」


「どうしたの?」


 しまった。気をとられてて、力をかけたままだった。すぐに解除した。


「とりあえず、今日の連絡事項はこんなもんだから、みんな今日も一日頑張りましょう!花崎さんも、緊張しているのかもしれないけど、みんなもつい最近入学したばかりだから、心配しなくても大丈夫だからね。早速知り合いもできたみたいだし」


「は・・・・・・い」


 そういうと先生は笑顔で職員室に戻った。対する花崎さんとやらは浮かない顔。しかし、転入生・転校生?あるあるで、すぐにクラス中の社交的な面々が花崎さんを取り囲みわいわいと盛り上がっていた。


 一悶着あったが、花崎さんとやらもこの流れには逆らえなかったようだ。僕の心の平穏は保たれ、これまでもこれからもずっと続くぼっちライフを満喫する、至高の高校生活が幕を開ける。・・・・・・はずだったのに、青春という荒波は僕を否応なく飲み込み、平穏とはほど遠い嵐の高校生活の幕開けになるとは、このときは知るよしもなかった。

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