プロローグ 強制契約
第0話 デビルサモナーとの出会い!?
「これよりリアルハッピーセミナー開幕です! 皆さん拍手でイイヒト様をお迎え下さいませ!」
現代日本であまり見かけない街中にたたずむ洋館の中。
コンサートホールのようなところに多くの人々が集まり、女性のアナウンスを終える後にシーンと静まり返る。そして壇上に1人のきらびやかな身なりのおじさんが現れた。
「会員の皆さん! 本日もセミナーにお集まり頂きありがとうございます! 毎度おなじみ生活経済評論家件神聖歴史評論家、イイヒトナオキでございます! う〜ん」
突然、ダイヤモンドをちりばめた指輪を指の数だけはめた手でハートマークを作る。
「リアルハッピー!」
会場の席に座る人々へ金の差し歯をスポットライトで照らし、キラキラの背広とワニの鱗でできた首かけタオルを揺らし黄金の笑みを浮かべるイイヒナオキ。お笑いコンサートならダダ滑りのようなフレーズを会場にかますが……
「「「リアルハッピー!」」」
低い声で観客側に座る人々は微妙に揃っていない掛け合いが行われる。
「ありがとう。さて皆さんは今幸せですかー? 年金の上がらない生活、給料の上がらない生活、苦しくなるばかりの生活。今の日本は幸福とは程遠い生活をおくる人々で溢れかえっています」
見回すと高齢者や中年が、皆イイヒトナオキの言葉に合わせて大きく頷く。
「何故幸せになれないのか? それは簡単! 生活に笑顔が足りないからです! 笑うかどには
イイヒトナオキは運や神や笑顔を強調した中身の無い話を永遠と続ける。
そして徐々に話しは高額な壺の話しになっていき、
『この私が作った幸運の壺を手にすれば、神様が運をこの中に入れてくれるでしょう! 後程お布施と交換で皆様に差し上げます。さあ皆様ご起立ください!』
イイヒトナオキの指示で会員達は立ち上がる。しばらくの沈黙の後ナオキはキラキラ光る金の入れ歯を瞬かせながら手でハートマークを作り、下から当たるスポットライトで照らされながら不気味な笑みを浮かべる。
「うーん、リアル・ハッピー!!」
「「「リアル・ハッピー!」」」
彼の言葉に合わせて皆は合唱する。
突然会場内にディスコ風な音楽が流れる。
「可愛く元気良く! リアル・ハッピー!!」
「「「リアル・ハッピー!」」」
「もっとフラミンゴみたいに片足立ちしながらリアル・ハッピー!!」
「「「リアル・ハッピー!」」」
リズムに合わせて徐々に講演会がお遊戯会に変わっていくなか、片足立ちのまま大人達に押される少女が1人いた。
「きゃ!?」
横に倒れる黒髪で痩せた少女は隣にいた女性が踏まれそうになる。
「ひッ!?」
「何転んでるの! まったくどんくさい子ね! 早く立ちなさい! イイヒト様の真似をちゃんとやりな! リアル・ハッピー!!」
「……お母さん、私こんなこと……」
「黙りなさいこの異端児! リアル・ハッピー!!」
母親であろう女性は娘を罵倒し、取り憑かれたように掛け声に合わせて必死に踊り出す。娘はその場で縮こまってしまった。
「うう……」
幼い少女はどうしたら良いかわからず、涙を流しながら頭を抱えてしゃがみ込むことしか出来ないでいる。
その時だった。
「着いて来い」
「……え」
しゃがみ込む少女の腕掴み無理矢理立たせる。腕を掴んだ人物は彼女と同い年ぐらいの痩せた少年だった。片足を上げて踊る大人達の隙間を縫いながら少年少女は走り抜ける。その様子に誰も関心が無い様子で難なく彼等は会場の外へ出ていく。
「……」
いや1人、彼等の様子を見送る者がいた。
白装束を身に纏い会場の後ろ端で少年少女が出ていく様子眺める少年である。
~~
少年少女が洋館の外へ出て人気の無い物陰へ身を潜めた。二人は息を整えると先に少女が少年に訪ねる。
「はぁ……はぁ……あなたは誰?」
「……きみと同じ異端児だ。親の言う事を聞かない子供」
「……」
「俺の親はあの鼻毛オヤジに洗脳されて金を貢ぐようになった。食べ物を買う金も無いのに毎日ここへ通っている。俺も……家に食べ物が無いからここで出されるお菓子を食べに来ているんだ」
「わ……私と一緒だね……」
少年達は下を向きながら続ける。
「俺は毎日あの変な躍りをやらないから、帰った後は怒鳴られるんだよ。でも、もう馴れたけどな」
「……」
その言葉に少女も押し黙り沈黙するが、今度は少女が口を開く。
「助けてくれてありがとう。でも、このままだと私達怒られちゃうから帰ろう……」
少女は弱々しく少年へ微笑み、握ったまま手を引き洋館へ戻ろうとする。
「お前は従うのか親とあの鼻毛に?」
「え?」
「それとも信じているのか? 誰かが救ってくれる。神様みたいな奴を?」
突然少年は問いかける。
「神……様?」
「ああ、祈って笑顔でいて金を払えば救ってくれる神様だ」
「そ、それは……」
少女は子供ながらにそんな者はいないと思っていた。無論イイヒトナオキのことも。
「信じて……ない」
「そうか」
「神様は……いない」
「ああ、そうだな」
「だって、誰も……救ってくれない。私みたいな子は……鈍臭いから……従うしかないんだよ」
少年の言葉に答えた少女は、今まで溜め込んでいた感情が目からこぼれ落ちてきた。
「ううっ……お母さんもおかしくなっちゃった……周りの人みんなおかしくなっちゃった……あの変なおじさんのせいで……私達のおウチが変になっちゃった……」
「……」
「ごめんなさい……私泣いてばっかりで……気持ち悪いよね……お母さんにも良く言われるんだ。私はもう戻るね」
「なあ!」
立ち上がる少女を少年を止めた。
「もし、まだ誰も何も信じていないなら、俺の言ったことを信じてみないか?」
「へ?」
大人しめの少女は間の抜けた返事を返すが少年は気にしない。
「もし、俺達の力で世界を変えられるなら、やってみたくないか?」
「そ、そんなの……」
少年は少女に提案する。予想していなかった台詞に彼女は困惑した。
「む、無理だよ! そ、そんなこと出来るわけ……」
「もしも俺達が世界を変れる力を手に入れたら?」
「何を言ってるの? そんなものあるわけが……」
「ある! 今から俺がお前にその力を与えよお!」
そう言うと下を向いていた少年は勢い良く少女の顔を覗き込む。
無理矢理彼女の腕を掴みセロテープを張り付けた。少年はポケットからマジックペンを取り出しテープの上から何か奇妙な記号を書き出した。
「へ……ええ!?」
「古より伝わりし邪悪なる炎よ落ちよ。エンシェント――」
「な、何!? や、止めてよ!」
少年は謎の詠唱を阻止し、少女は怖くなって腕を振り払う。嫌われた少年だが、彼の目には闘志のような力が籠っており口元はニヒルな笑みを浮かべ高らかに笑う。
「ふはーっはっはっは! 残念だったな人間の娘よ! これより、悪魔契約の制約が結ばれ貴様には何でも願いが叶う能力を手に入れたのだ! 喜べ!」
「……へぇ!?」
少年は足を使って砂利を蹴り飛ばし身体を回転させながら地面に模様を描いて行く。
「今! お前の魂に、俺が召喚した悪魔を憑依させた!」
「あ、悪魔!?」
「貴様の名を名乗ってもらおう」
「な、名前? 私の? えっと……」
理解が追い付かないまま素直に少女は自分の名を名乗る。
「う、
「ヨルカ……良い名前だ。だが今日からお前の名はヨルムンガンドに改名だ!!」
「……え!? ヨ、ヨヨ? どういう意味!?」
「意味など無い。今俺が決めたのだ! カッコいい名だと心に刻め」
少女改めヨルカ……いいや、ヨルムンガンドは口をポカンとあけ少年を見つめる。気にせず少年は続ける。
「ヨルムンガンドよ! 悪魔と合体したお前は今日から我が従属についてもらう! 悪魔を崇拝し、我が定めた野望と共に世界を混沌へ沈めにいくのだ!」
「え? え……え?」
「お前に選択肢を与えよう。決めるが良い。さっきの場所へ戻りしゃがんで神様を信じるか……それとも、この俺を! 悪魔の力を信じるのかを!」
少年は何かの特撮ヒーローのようなポーズを決める。
当然のように困惑する少女は尋ねた。
「あ、あなたは……いったい……」
「俺は前世にてベルゼブブと契約を結び共に戦い朽ち果て灰になったが、最後の契約によって灰の中より転生したデビルサモナー」
少年はポーズを変え、顔を半分隠すよう手で覆い三日月を思わせる不気味な笑みを浮かべ、
「マスタァァァァア・アクトだ!」
目の中に根拠もない炎が燃えたように見える気迫があった。
少女改めて、ヨルムンガンドは口を開けて目を点にすることしか出来なかった。
~~
マスターアクト、ヨルムンガンドの少年少女達を建物の陰から聞き耳を立てる白装束の少年がいた。
「悪魔崇拝か……面白そうだ」
彼は独り言を呟くとその場から離れ洋館の中へ入っていった。
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