3-2 アウロ・プラーラに入国だ!宿すっげー!
アウロ・プラーラに目前まで迫った一行は、何やら立ち往生する羽目に。
「あ゛ぁー、長ぁい……」
「まあ、普通はこんな感じで積荷の検品をされるからね。グレイス王国の時が特例だったんだよ」
アウロ・プラーラへ来るのは、何も冒険者だけでは無い。アランのように、品物を運んでくる商人もたくさん来るのだ。
そんなわけで、入国するための列に並んでから、もう既に五時間が経とうとしていた。
「僕らの番までまだかかりそうだし、ここでお昼にしようか」
時刻は、太陽が私たちの真上を少し通り過ぎた頃。
なかなか進まない列に耐えかねて、いざ昼食を摂ることに。
「なら、山で狩ったノーザンベア食べてみますか」
氷龍が住む山は寒すぎて、そこだけ北に住む魔物がいたのだ。
そしてノーザンベアという魔物は、パッと見はホッキョクグマなのだが、その毛皮は銀色で恐ろしく丈夫だ。これで防寒具など作れれば良いものが出来そうだ。
だが、食べるとなると少々問題が。
ホッキョクグマの肝臓が毒というのを、日本にいた頃本で読んだことがあったのだ。一応肝臓は抜いて調理する。
何がどう毒なのかまでは覚えていなかったので、後でダンジョンに出るゴブリンにでも食わせて実験してみよう。
そんな熊肉だが、グレイス王国の屋台で教わったレシピの中に、匂いがキツい肉用のものがあったのでそれを試してみる。まさにコレ用のレシピと言っても差し支えないかもしれない。
「ほーい。熊肉のハーブ包み焼き、完成ですよー」
旅の間では見慣れた光景のトワとベルテの共同料理で、巨大な熊肉が瞬く間に美味しそうな料理へと早変わり。
「うん、よかった。ちゃんと美味しい。臭みもほとんど消えたね」
熊肉の強烈な臭みを消すために使ったハーブ、ローズマリーと言われているが、これがでかい葉っぱなのだ。地球の物のように小さな葉っぱが沢山ついているやつでは無い。
なぜ、これがローズマリーと呼ばれているのか?
――実は大昔にも転生者がいて、知っているハーブがローズマリーしか無かった、みたいな理由だったりして……
と、くだらない事を考えていると、
「それ、余ってたら売ってくれないかね?」
匂いがかなり広がっていたようで、列に並んでいる人たちが大勢買いに来た。
――まあ、結構余ってるしいいか。
「銅貨一枚でどうでしょう?」
「銭貨六」
「じゃあ、銭貨八枚は?」
「よし買った!」
異世界で、というか、生まれてこの方したことが無かった値切り交渉だ。ちょっと興奮しちゃうよね。まぁ値切られる側だったんだけど……
そんなわけで、熊肉のハーブ包み焼きを一包み銭貨八枚で売り、全部で銀貨三枚程の稼ぎになった。
「やったね!お小遣いゲット!」
このお金で、アテル伯爵の件でお世話になったグレイス王国の衛兵たちに差し入れを買う事にする。
お兄さんからおじさんまで、そこそこな年齢層で、はっきり言って好みも知らない。手頃なお酒とかで喜んでくれるだろうか。
昼食も食べ終わり、後片付けも終わった頃、ようやくトワたち一行の入国審査である。
身分証と、馬車に積んだ荷が一つ一つ丁寧に確認されてゆき、20分近くかかってようやく門をくぐることが出来た。
「んー、やっと入れたー!」
列に並び始めてから、七時間以上かかってようやくアウロ・プラーラに入国である。今どきこんなに時間がかかる国なんて他にないのでは無いか?
「じゃあ、積荷を中央ギルドに納品しに行って、そこで冒険者証を発行してもらおう」
冒険者証の発行には特に審査などはなく、誰でも無料で発行してもらえるらしい。
犯罪歴も、殺人などの重犯罪でなければ問題ないとの事。自分のことは全て自己責任なダンジョン国家ならではの対応と言ったところか。
中央ギルドに無事全ての積荷を買い取ってもらい、懐がホクホクになった一行は、現在総合受付に来ている。
ここで冒険者証を発行してもらうのは、戦闘ができないベルテを除いた三人だ。
トワが
「冒険者証のランクについて、説明させていただきますね」
そう言いった受付のお姉さんは、棚から一枚の板を取り出す。
そこには、七つの色の違う小さめのプレートが並べられている。
「黒木級から始まり、青石級、緑翠級、黄銅級、橙銀級、赤金級、白月級までの七階級ございます。
橙銀級で他国の下位貴族。
赤金級で上級貴族。
白月級まで到達されますと、王族と同程度の扱いが受けられます」
誰でもなれる冒険者で名を上げることが出来れば、ほぼ誰もが望む貴族へとクラスアップ。ちょっとびっくりだよね。
では、何故たかが一都市国家にこのような権限が与えられているのかと言うと、この国に存在するダンジョンに秘密がある。
一行が旅をしているクルーラ大陸、その至る所に魔物はいるのだが、どういう訳かダンジョン産の魔物だけは心臓部に魔石があり、その魔石は様々な魔法具の核、電池的な役割を持っているのだ。
もちろん魔物の素材だって使われる。しかも、ダンジョンに潜れば定期的に湧いて出てくる資源だ。
各国も、こんなに経済の中心にある国を無視することは出来ない。
ちなみに、これは余談だが冒険者ランクの色の並びは魔力量の並びと同じ。
黒、青、緑、黄、橙、赤、白。
きっと、元からこの世界で生きている人々にとっては馴染み深い並びなのかもしれないが、トワには少々分かりづらい。
話を戻して、今度は魔石や魔物の素材の買取についての説明だ。
基本的にはギルドならどこでも良いのだそうだが、中央ギルド総合受付か、五つあるダンジョンに対応しているそれぞれのギルドの受付に持っていくのがベストらしい。第一ダンジョンの素材を第二ギルドに持っていったりすると、所属の鑑定士では困ってしまうのだと。
だが中央ギルドならお構い無し。どんな素材でもしっかり鑑定しますよと、強気に宣言していた。
それならと、氷龍の山で狩ったノーザンベアの毛皮をカバンから出す振りをして
「これはどのくらいの値段で売れますか?」
「これは……ノーザンベアの毛皮ですか!?
しかも、恐ろしく状態が良いように……すみません。本職の鑑定士を呼んで参ります!」
どれくらいの値なのか、指標にしようとしただけなのに大事になってしまった。
ノーザンベアはトワが
ネジャロと、あれ超弱かったよねと雑談していると、奥からいかにもなモノクルをかけたお爺さんが現れる。
「これは……間違いなくノーザンベアだのう。しかも傷一つ無い。
おぬし、どうやって倒した!」
トワが空間魔法と時間魔法を使ったことなど、当たり前だが言えるわけが無い。なので、ネジャロが棍棒で頭を潰したとだけ伝える。嘘は言ってないからね。
だが驚いたのはそれからだ。なんとネジャロだけ青石級にランクアップしてしまったのである。
「クソぅ……私だって」
「まあ、こればっかりはしょうがねえなお嬢」
ちなみに、ノーザンベアの毛皮は金貨三枚にもなった。なかなか良い質感だとは思っていたが、それ以上のものだったようだ。
――さっさと橙銀級まで上がって、そしたら私の力は隠さなくてよくなるかな。
下位貴族程度の扱いが受けられるようになれば変な輩は寄ってこないだろうと、トワは早々のランクアップを決意する。
かくして、トワとアランが黒木級。ネジャロは青石級となった。
しばらく旅商人はお休みで、冒険者生活がスタートだ。
ダンジョンに潜る前に、宿を取りに来た一行。
ここでは宿の善し悪しはあるものの、全ての種族が差別なく宿に泊まることが出来る。
そして一行が選んだのは、中央ギルドでおすすめされた〈帰還の岬〉という巨大な宿泊施設。そう、最早宿と呼べるようなこじんまりとしたものでは無い。
中央ギルドが運営する施設で、マンモス校ならぬマンモスホテルのような外観をしている。
中の施設も、鍛冶屋に食堂、数々の商店に厩舎、さらには浴場と、全部詰め込みました!状態である。
いざ宿泊!となり、馬車を預けようと考えるが、とんでもなく豪華な上、サスペンションという、この世界ではまだまだ未知な技術が使われている。無いとは思うが盗まれでもしたら本当に困るので、
その際、馬を外すのを忘れてしまったのだが、特に問題なくしまうことが出来た。
アイテムボックスという名称を付けたため、固定観念に囚われて生き物はダメだと思っていたが、実際はただの異空間。時間は止まっているものの、入れられないものは無い。
生き物を入れておけば食費はかからないし、歳も取らない。劣化の早い食材なら痛まないという素敵空間なのだ。
まあ、入れすぎると浦島さん状態になってしまうのが玉に瑕か……
という訳で結局厩舎は利用せず、素敵な宿で二人部屋を二つ借り、いつも通り男女に別れようとしたのだが、
「ねぇ、トワ……一緒の部屋じゃダメかな?」
そろそろあるかなとは思っていたが遂に来たか。
アランから同室の誘いが。
――ちょっとそこのベルテさん。サムズアップしないでくださーい。
「そう、ですね。
でも私はまだ子供なので、その……期待されているようなことは出来ませんが、同室ぐらいなら」
どうもこの体は性欲が皆無なようで、二ヶ月以上経っているのに一度もそういう気分になっていない。
少々言いづらい話題なので、子供だからと言うことにして予防線を張った。
――まあ、我慢できなくなって襲われちゃったら、その時はその時でいいかな。
性欲はないが、絶対に嫌かと言われればそんなことは無い。
ちゃんとアランのことは好きだし、どうしてもとお願いされたらいいかなぐらいに考えていた。それに、やっぱり女の子の体というのは少し、ほんの少し気になることでもあるし……
ダンジョンに行くのは明日からとなり、今日は各々明日に向けて準備をすることで一日が終わった。
流石に、同室になって初日で襲われはしなかったよ。チラチラ視線は感じてたけどね。
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