3-1 快適?な馬車の旅!
第三章、ダンジョン国編開幕です!
正確には今回は移動パートなので、次話からですが。
あと、トイレの話が出てきます。お食事中の方は⚠注意⚠です!
――――――――――
グレイス王国を発った一行は一つの問題に直面していた。
それは、新しい馬車にネジャロが入らなかったのだ。
「ど、どうしましょうか?何か別に荷台をくっつけたりします?今からブルーノ工房に戻ればすぐに」
「いや!オレはそんな悪魔の乗り物に乗らないぞ!てか、そんなのに乗ってて平気でいられるのとか、ホント考えらんねぇ」
ネジャロはこんなに乗り心地の良い馬車を悪魔の乗り物と表現した。こんなに乗り心地いいのに。
何故そこまで毛嫌いするのか。
どうもそれは、奴隷商のところに連れてこられた際に苦しんだかららしい。
無理やり馬車に詰め込まれ、ガタガタと揺れるわ他人の臭いがキツいわと、まさに悪夢だったと話す。
さらにその後には丸一日キラキラ三昧。
もう吐きすぎて喉とかめっちゃ痛かったのだと……
流石にそれは可哀想すぎる。
「体力も自信があるからな!そんなのに乗るくらいなら一生走り続ける方が楽だぜ!」
この馬車は殆ど揺れないのだが、本人が乗りたくないと言っているならそれでいいだろう。
そんな訳で、ネジャロは食事が多く出る代わりに馬車の外を走ることになった。
そんな訳で馬車を走らせること数刻。
結構な距離を進んだのだが、ネジャロは息一つ上げずに爆走している。
体力にも自信があるとは豪語していたがこれ程とは。
そう感心していると、トワが十人程の盗賊っぽいのが屯する小屋を感じ取った。
「一組だけ身なりがいい男女。その近くの小屋に小汚い格好のおじさんが武器持ってニヤニヤしてますけど……なんでしょうね、これ?」
「んー、もしかしたら、その身なりがいい人に近づいたら盗賊に襲われるっていう罠、なのかもしれないね。たまにそういうのが出るって噂で聞くよ」
なるほど。盗賊も盗賊で無い頭を捻って考えてはいるようだ。
バレバレなのだがお芝居の一つでも見てやろうと、特に警戒するでもなく放置。
というかそもそも、どうせ通り道なのだから何もしなくても向こうから勝手に来るだろう。
――演技の採点でもしてやろうか。どんな顔するかな?
盗賊襲撃イベントだと言うのに、楽しんでしまっている。
カラカラカラと、一行はわざわざ速度を落とし呑気に馬車を進める。
十数分が経ち、盗賊側の斥候のような人物が一行に気づいたようだ。
恐らく芝居役の男女が出てきて、それを囲うように展開されるだろうなとワクワクしながら進む。
――まだ動かないか。
もうあと数分で件の小屋の前を通る。
――あれ?まだ動かないの?
もう小屋は目の前、というかバッチリ目視できる。
――えぇー、通り過ぎちゃったよ。
小屋を通り越しても、盗賊は動くどころか全員が小屋の中に引きこもっている。
下っ端みたいな風貌のやつなんか、口を抑えてテーブルの下でガタガタ震えているでは無いか。
「えっと……どゆこと?なんで襲ってこないんですか?」
「もしかしてネジャロがいるから、かな?」
「え?ネジャロさんが?」
馬車の外を歩くネジャロは、背にトワの背丈ほどある大槌を背負い、腰には二振りの棍棒。さらに本人も三メートルほどの巨漢で、虎人族であるため顔もなかなか厳つい。
戦隊モノの悪役なんか泣いて謝るレベルだ。
――あぁー確かに、これは襲う気失せるか……
どんなおバカさんでも、ただの盗賊十人程度で勝てる相手では無いことが分かるだろう。
まあトワはワクワクしながら襲われるのを待っていたのだが。
「どうせ放置したら次の馬車とか襲うだろうし、こっちから行きますか!」
演技が見れないのはちょっと残念に思いながらも、トワは馬車から飛び出す。
そしてネジャロにジャンプして引っ付き、そのまま二人で盗賊の小屋の前に
その先のことは詳しく語るまい。
ただ一つ言うのであれば、石の大槌でフルスイングされた人間は無事で済まない、ということぐらいだろうか。
――ま!盗賊なんてやって人様に迷惑かけてきたんだし自業自得ってことでー。
とりあえず盗賊どもが略奪してきたであろう財宝たちを
盗賊退治の人件費として有難く頂いた財宝は、ほとんどが出自不明のものだったのでトワたち一行の財源へと変わる。
しかし二つだけ、家紋らしき紋章が彫られた剣とロケットがあった。
落し物を拾ったら交番へ届けましょう。日本人なら誰でも知っているマナーだ。異世界であってもそれは変わらず。流石にこれを貰っちゃうほどワルでは無いよ!
え?他の財宝?いや、それは名前書いてなかったからもうアウトよアウト。
さて、そんな剣とロケットだが、二つとも同じ紋章が彫られていて、質もいいしロケットの中には写真もある。
写っている人物から推察するに、どこかのお貴族様のものだろうと満場一致。
「しかし、これ随分いい剣だね。紋章の方は、あまり詳しくないから分からないけど」
「そうですね。私は貴族に買われることはないだろうと思っていたので、紋章学は修めておりません。申し訳ございません」
「オレがそんなチマチマしたやつ、わかると思うか?」
ダメだこりゃ、全滅……
誰一人として貴族社会に通ずるものがいない。
「じゃあ、ひとまず預かっておいて、アウロ・プラーラに着いたら冒険者ギルドに届けましょうか」
――ていうか変な感じ。水道とかもっと必要なものは無いくせに、なんで写真はあるんだか。しかも、白黒じゃなくてしっかりカラーの。おかしいでしょ、文明の発達が歪すぎるって。
いや、魔法みたいな便利なものがあると、技術の進歩がおかしくなるってことかね?
水という生活に最も必要なものは、水魔法で生み出すか魔道具で生み出すかされていた。
そのためか、上下水道という日本人なら慣れ親しんだものは存在せず、トイレは最悪とまでは行かずとも、かなり嫌な思いをしたのである。
そのトイレは中世ヨーロッパのように街中至る所が糞尿まみれではなく、公衆便所があるのだ。一応。
一応と言ったのは、水洗ではなくいわゆるボットンだったから。
だけど、そのボットンされた先が酷い。
大量のスライムがウゴウゴとひしめき蠢いていて、処理される様が見えるのだ。
初めて見た時はそれはもう、とんでもなく鳥肌が立つほど気持ち悪かったので、それ以降は絶対に下を見ないようにして用を足していた。
脱線した話を戻してカラー写真だが、これも魔法具化しているのかと聞くと、そんなことは無いようだ。
どうも、写真屋というのはかなりの高給取りなようで、光魔法が使える人でないとなれないのだそうだ。
そのため、たとえ貧乏人でも光魔法が使える子供が生まれたらラッキー!
写真屋に働きに出すとあら不思議、極貧生活だったとしてもいつの間にかお金持ちになっているという。
そして、そんな写真屋を利用できるなら立派な貴族だとなる訳だが、このロケットの女性はどうしているのだろうか。
そして、これを盗賊が持っていたということは、きっと大切な誰かが喪われたという事だろう。
トワ自身、
この女性のことを考えるだけで胸が締め付けられるようだ。
暗い気分から切り替えて旅の話をしよう。
馬車の旅はとっても快適だ。
ネジャロのおかけで盗賊はあまり寄ってこないし、サスペンションのおかけでおしりも痛くない。
魔法シャワーと
そんな快適すぎる旅はもうすぐ二ヶ月。
トワはなんのトラブルもなく終わるだろうと舐め腐っていた。
「――クシュン!はぁー、寒すぎ……」
さっきまでの快適さは何処へやら、辺りには薄く雪が積もり、いきなり真冬になりましたと言われても信じてしまうほど寒い。
そんなここは、アウロ・プラーラ前の山の中。
グレイス王国からアウロ・プラーラへと行くには、この山を通るしかない。
富士山ほどの標高があるわけでも、ここら一帯が雪国である訳でもない。
では、なぜ辺り一面雪化粧なのかと言うと、
「あいつのせいか……」
氷龍ヴァイズエイデス。
穏やかな気性で、攻撃さえしなければ何をしても興味を示さないという、龍種には珍しく大人しい性格の持ち主。
だが、辺りの気温を下げまくる特性をもつため、いるだけでこんなことになっているのだ。
「近くまで行けば
山の頂上に陣取っている氷龍のところまで、
「やめておいた方がいいよ。龍の鱗は魔法を弾くと言われているし、以前、近くまで行った冒険者が一瞬で氷漬けにされたという噂まであるからね」
――んー……
それより、近くに行ってだけで氷漬けっていうのは気になるな。
ブレスとかの攻撃で氷漬けなら、
勝てない勝負には挑まない。不安要素があるなら一旦ヤメ。
安全マージンは十分に取っておこうと、氷龍討伐は諦めて服を着込んで丸くなった。
――あー、ネジャロさんとベルテさんが可哀想な姿に……
ネジャロのたくましかった姿は寒さに震える子猫のようになり、ベルテの凛々しい御者姿は服の着込みすぎと積もった雪で、雪だるまのようになっている。
「アラン、アウロ・プラーラに着いたら、二人にめいっぱい贅沢させてあげましょう」
「そうだね。さすがにこれは可哀想だ」
氷龍許すまじと、トワは怨嗟の視線を送る。
勝手に近くを通って勝手に恨まれるのだから、氷龍もなかなかの苦労者だ。
そんな訳で、寒さに震えながら山越えをする一行であった。
そしてついに、街を囲う立派な壁が姿を現す。
「おー、やっと着いたかー!」
氷龍の住まう山からは離れたが、それでもまだ涼しいと感じる空気の中に、ダンジョン都市国家アウロ・プラーラはある。
アテル伯爵のようなことがないように、予め国全体を把握しようと、視界の左端に映るマップに意識を向ける。
「うお、でっか……」
アウロ・プラーラは五つのダンジョンと、それに対応する冒険者ギルド。
そして、それらを束ねる中央ギルドを内包する巨大な都市国家だ。
グレイス王国のようなThe街民といったような風貌の人は少なく、ほとんどの人が鎧を着込み剣や弓、杖などで武装していた。
肝心のアテル伯爵のようなクズは居ないかと探し観るも、どうでもいいチンピラクラスがちょいちょい見つかる程度。
――うんうん、平和そう。よかったよかった。
トワがブチ切れるようなクズも居ないと分かったところでダンジョン国編、開幕である。
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