第2話:ピエロ男
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ
突如、壊れた目覚まし時計が立てるかのような、人を不快にさせる奇怪な音が流れてくる。
「……ここは、どこだ?」
あたりを見回すと、明と同じように、周囲を不思議そうに見渡している奴らがいる。
今いる部屋は、数十人を収容できる映画館の一室のようだ。どことなく薄暗い部屋に巨大なスクリーンと、フカフカな座り心地の椅子。明を含めこの場にいる全員は、その椅子の上に今の今まで眠らされていたらしい。
この場にいる誰もが状況を理解できず、戸惑い顔で自分の記憶を掘り起こそうとする。
すると、突然目の前のスクリーンが光り輝き、一人の人物がそこに映し出された。
そいつは、顔全体を赤と白の化粧で塗りたくった、ピエロのような男だった。
全員が呆然とスクリーンに映るピエロ男を見ていると、そいつは妙に響く甲高い声で話し始めた。
『やあ皆様、初めまして。私は今回のゲームの司会を務める
「おい、ふざけてんじゃねぇぞ! こんな意味不明な場所に連れてきやがって、最初からきちんとわかるように説明しやがれ!」
この場にいる男の一人がそう叫ぶ。
すると喜多嶋は話をやめ、面白そうに口をにやけさせた。
明はそんな喜多嶋の様子を見て、こちらの声が相手にも通じていることに気づいた。どうやらビデオを流しているのではなく、こちらの状況をリアルタイムで観察しているらしい。
どこかにカメラのようなものはないかと部屋中に素早く目を通していると、天井に監視カメラが取り付けられているのを発見した。明がカメラを発見するのと同時に、喜多嶋が再び口を開いた。
『それはそれは、まさにその通りでございますね。皆様におかれましては、今この状況をさっぱり理解できておらず、ずいぶんと戸惑っていることでしょう。それでは、ご要望通り最初から分かるように説明して差し上げましょう』
喜多嶋は、キキキと奇妙な笑い声をあげると、説明を始めた。
『皆様はある実験、もといゲームの栄誉ある被験者に選ばれたのです。おそらくなぜ自分が? とお思いになっていることでしょう。キキキ、その理由は非常に単純なものです。皆様が選ばれたのは、皆様全員が人殺しをしておきながら、警察に捕まることもなくのうのうと人生を謳歌していたからです』
「何を言ってるんですか! 私は人を殺したことなんてありません!」
明のすぐ横に座っている、白いワンピースを着た女が叫ぶ。かなり整った顔立ちの女性。まだ幼さも残っているが、シミ一つない透き通った白い肌。加えて優しさと知性の両方を兼ね備えたかのような美しい瞳を持っている。
不覚にも明は、今の状況を忘れてその横顔に見惚れてしまった。
『ほうほう、もちろん否定なさる気持ちは十分に分かりますよ。先程も言いましたが、皆様は警察の目を掻い潜り、所謂完全犯罪を成功させた方々なのですから。ご自身が人殺しであることを認めるのは許容しづらいものもあるのでしょう。しかし、確かにあなた――
キキキと、頭に響く嫌な笑い声をあげる喜多嶋。
白い服の女――神楽耶江美は泣きそうに顔ゆがめると、下唇を強くかんで俯いてしまった。
神楽耶以外には、喜多嶋の言葉に反論しようとする者はいない。おそらく全員何かしらの心当たりがあるのだろう。明自身も、余計な口は挟まずに、じっとピエロ男の話を待った。
喜多嶋は自分の頭をカリカリと掻きながら、あらら、と肩をすくめてみせた。
『う~ん、私はこう見えても紳士ですから、女性を泣かせるつもりはなかったのですがねぇ。とはいえ慰めの言葉も特には思いつきませんし……。私としては心苦しいことですが、このまま話を続けさせてもらいましょうか』
そう言うと、困ったような表情から一転。また薄気味の悪いにやけ顔になり話の続きを語りだした。
『さてさて、皆さまがどうして選ばれたかの理由は分かっていただけたと思います。では、本題。皆さまが今最も気になっている、これから行われる殺し合いゲームのルール説明といきましょうか! 皆さま、ご自身のズボンの左ポケットを調べてみてください。中に一枚の紙が入っているはずです」
喜多嶋の指示通り、各々自分のポケットへと手を突っ込み、中に入っていたものを取り出していく。
明もポケットの中から一枚の白い紙を取り出し、軽く書かれている文字を目で追っていった。話の流れからわかることではあったが、書かれているのはこのゲームのルールに関してのようだ。
てっきり喜多嶋がルール説明をするのかと思っていた明は、若干拍子抜けしながらも、スクリーンに映るピエロ男へと視線を戻した。
全員がその白い紙を取り出したのを見届けた喜多嶋は、満足げに頷きながら、そこに書かれてある文章を読むように促してくる。
『さっそく読み始めている方もおりますが、そちらに書かれている内容こそが、今回の殺し合いゲームにおけるルールとなります。キキキ、まずはじっくりゆっくりとその説明を読み込んでいただき、疑問があれば私に質問していただきたいと思います』
再度キキキ、と耳障りな声で笑うと、喜多嶋は自身の口を両手でふさいだ。
質問があるまで自分からは何も話さないぞという意思表示だろうか。
明は無感情に喜多嶋の動きを分析した後、手元にある用紙へと目を移した。
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