12/8 拡散希望【呼び声】

 Thomas @ martin-pêcheur1914 2時間前 

 #拡散希望 #フランス #日本


 このツイートを亡き祖父に捧ぐ。

 そして彼の永遠の友人達に届くことを願っている。

 

 『祖父の話』

 https://note.com/ty::*****/n/********


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       『祖父の話』


「ずっと忘れられずにいた古いの友人のことを、お前に話しておこう」

 祖父はそう前置きして、語りだした。


 あれは私が十歳で、一度目の戦争の時だった。母さんとベルギーの田舎に身を寄せてまもなく。兄弟のたくさんいる親類の家では肩身が狭く、私は毎日、彼らからのいじめから逃げ回って過ごしていた。「手伝いもしないで」と叱責を受けてからは、朝から川へ行き、魚を捕って大人の機嫌をとるようになった。

 あの日もそうだった。

 一欠片のパンを舌の上で転がしながら、川へ行った。そこで彼らに会った。

 黒い髪に黒い目。

 クリーム色の不思議な肌。

 まるで見たことのない風貌と精巧に作られた様々な道具を持つ少年達――当時は私より年上に見えた。

 初めて会った日は、自分と同じで戦争から逃げて来た子どもだろうと思った。分からない言葉で誘われるまま、一緒に魚を捕り遊びに興じた。楽しかった。

 あぁ、今でも目蓋に浮かぶ。はしゃいで散った水飛沫、魚の鱗が照り返す陽光。

 ずぶ濡れになって寝そべったときの、背に当たる温まった石の感触。

 差し出されて夢中になった、味わったことのない――大人になった今でもあれ以上の菓子は食べたことがないほど美味かった。


 けれど彼らは食べ物がなくなると態度が豹変した。

 魚が充分に捕れないと私の肩を押し、何か喚く。私は驚いた。彼らはおとぎ話の妖精のように、永遠に面白おかしく生きていくのだろうと思っていた。困りはしても、不思議な力で難なく乗り越える。そして用が済めば……そう、夏が終わればどこかの土地へと移っていく渡り鳥のような暮らしをしているのだと、勝手に思っていたからだ。

 そして魔法のような力を持った道具達も、しばらくするとただのガラクタになって打ち捨てられた。彼らは日に日に苛立ち、お互いに争い、荒んだ目で私を見るようになった。

 ――今思えば、彼らは遭難者だったのだ。


 なぜ、お前にこの話をしようと思ったって? そうだ、その話を忘れていたね。


 今日、私は初めて二人のルーツを知った。

 アジアだ。間違いない。

 戦争の映像を見たんだ。ユキとキャーイ――あぁ、少年たちの名前だよ。テレビに彼らが映っているのかと思った、それほど目鼻立ちが似ていた。


 そして思い出したのさ。私は彼らに別れを言えなかった。

 家から食べ物を盗んだことを兄弟達から見咎められ、酷い目に遭わされた。納戸に二日も閉じ込められてようやく出た時には、もう、いなくなっていた。


 ……やっぱり妖精だったと言いたげだね。

(当時の僕は驚きで不審な眼差しを祖父に投げかけたと思う)


 いいや、あれは確かに人間だったさ。

 満たされず、希望を失いかけた人間の目だった。恵まれた国に生まれた少年達だったのかもしれない。

 彼らは無事に故郷に戻れたのだろうか、それだけがずっと気がかりだ。



「お前が大きくなる頃には、戦争などなくなるといい」

 そう言って、祖父は話を締めくくった。

 僕は今、四十年前の自分にキスしたい。よくこんな長い話を書き留めたもんだ。

 もしかしたらこんなにも詳細なメモが残ったこと自体、運命なのかもしれないね。


 祖父は戦争で脚を怪我し、晩年はほとんど家から出ることもなかった。大好きだったらしい釣りをしているのを僕は見たことがない。

 ただの湿っぽい思い出話なら、わざわざ記事にすることもない。

 戦争に疲れ、傷つけられた祖父のような人間はたくさんいるし、もっと酷い目にあった人もいるだろう。


 本題に入るよ。

 

 ――祖父の少年時代の宝箱が見つかった。祖父母の住んだ家を取り壊すことになって、遺品の整理をしていたときだ。

 それは言ってみればただのガラクタが詰まってるだけの箱。中身は細工のきれいな金属釦やブリキのミニカー、ボロボロになったポストカード。

 開けた瞬間に砂っぽいような黴の匂いが立った。年代物で、とっておくのを躊躇するほど古い物ばかり。


 けれどその一番下に、ひっそりと仕舞いこまれていた菓子の包み紙を見つけて、僕はアッと叫んだ。


 その包み紙はアジア――いや、日本で作られた物だった。

 僕の時代ならすぐゴミ箱行きになるだろうフィルム素材! も、キャラクターの絵も、祖父が少年だった頃には存在していないはずだ。

(元になった漫画のことも調べた。その漫画が雑誌に載って、間もなく祖父は死んだ)


 もしかしたら、祖父が大人になってからそれを入れた、と考える人もいるかもしれない。それを僕に否定するすべはないけれど、僕は今、祖父の話を心から信じている。


 祖父の出会った少年達は、遭難者だった――未来からの。



 

 最後まで読んでくれたみんなに、最大の感謝を。

 トーマ


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 Thomas @martin-pêcheur1914 2時間前 


 この記事を読んで、心当たりのある人がいたら是非連絡を。

 ユキとキャーイ、君たちと祖父の話がしたい。

 

 僕がインターネットができる老人で良かった。

 祖父の友人達と僕が繋がる日を待っている。



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『カワセミの呼ぶ声』

 https://novelup.plus/story/845879074

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