第27話 以心伝心!? 『心』を通じ合わせるためのメソッド
気付けば協会にいた。見慣れた天井。《黒
「よかったぁ……目が覚めたんだね。ミナト」
悲しげでどこかほっとしたようなアルナの顔が見える。
「……アルナ? 一体何が……」
頭の後ろがズキズキする。それにこの柔らかいものはいったい?
しかも彼女を見上げるようなこの体勢――はっ!! え!? うぇっ!?
「痛……っ!」
身体を起そうとした途端、後頭部からまるで雷に打たれたような鈍痛が走る!
「駄目だよミナト! まだ寝ていないと……ごめんね。力いっぱい殴っちゃったから、しばらく痛むと思う」
僕の頭はアルナの膝へと再び納まっていく。
やばい……血が上って、更に酷くなってきた。これじゃ折角の膝枕の感触が……。
でも段々分かってきたぞ。多分僕は《黒蠍獅》へ立ち向かった際に気絶させられたんだ。それから彼女は僕等を抱えて脱出して――。
「そうだ!! ハウアさんはっ!?」
「安心して、無事だよ。隣のソファで眠ってる」
痛みを引き摺りながら首を動かすと、包帯が巻かれたハウアさんがいた。騒しい
「ありがとう。アルナ、助けてくれて」
もし殴って止めてくれなかったら、今頃全員殺されていた。
落ち着いた今なら理解できる。《黒蠍獅》と対峙した瞬間、僕は相手との力量の差をまともに測れないくらい冷静さを欠いていた。
「ううん、結局私は……何も出来なかった」
「それを言うなら僕だって、怯えるばかりで結局……」
故郷が吸血種に襲われた頃と全く変わっていない自分が悔しくてたまらない。二度と後悔したくないから修行したというのに。
「ごめん。君を護るって言っていたくせに、逆に助けられるなんて……情けないな」
なんだか目頭が熱くなってきた。でも涙なんか見せる訳にはいかない。
貧弱だの意気地なしだの罵られる僕だけど、好きな子の前で格好つけたい気持ちはある。
「ううん。あの時必死に立ち向かおうとしてくれたでしょ? ちょっと格好良かった」
アルナが少し照れくさそうに笑って、胸が高鳴る。やば……また!
酷くなった頭痛に悶絶していると、ふとドアが開く。
「あら? ミナト気が付いたのね。良かったわ」
グディーラさんが、
「起き上がれる? 水を持ってきたんだけど?」
「は、はい。ありがとうございます」
アルナに介助されながら、グラスを受け取る。ん?
「……水ですか?」
「え? ええ、そうよ。どこかおかしいところでもあったかしら?」
おかしいところあるというより無いんだ。普通は濁っていたりするのに……?
でもグディーラさんから渡されたこれは全くの無色透明だ。蒸留でもしたのかな?
それにしては雪解け水のように冷たい。一口飲むと爽快感が鼻を突き抜けた。
「うまい……一体どうやってこんな綺麗で美味しいものをっ!?」
「大袈裟ね。大したことしていないわよ。そうね……それは――」
「そ、それは?」
「それはね……ヒミツ、よ」
悪戯っぽく微笑み、グディーラさんは勿体ぶって結局教えてくれなかった。
「そんなぁ~」
突然バチっと視界の端に
「えっと……アルナさん?」
「~~~~~……………ッ!!!」
恐る恐る振り返ると、何故か分からないけど、アルナお嬢様は僕の手を握ったまま、頬を膨らませいる。それはもう大層ご立腹であらせられて……。
そして白くて可愛い尻尾から雷の象気が漏れ――あっ……マズい。
「ミナトのぉ……ミナトのバカぁっ!!」
「ギャァァァァァーーーーーっ!!」
僕の身体を静霊気の何倍もの衝撃が貫いた。
そういえば師匠が言っていたっけ? 一人と決めたら他の女に目移りするな、さもないと痛い目見るぞって。
多分あれってこういうことだったのかも……。
雷撃を喰らってほどなくして、ハウアさんが目を覚まし、今後について話し合った。
正直あまり時間がない。ヴェンツェルが姿を消した当日から儀式を始めているとなると残り今日合わせて6日しかない。
それに加えて《黒蠍獅》の強さは圧倒的だ。
「アルナの嬢ちゃん。良い判断だった。お陰で助かったぜ」
「は、はい、ありがとうございます……」
起き上がって早々、突然ハウアさんがアルナをしっかりと褒めだした。
いったいどうしたんだ? 槍でも降るの? それとも天変地異の前触れ?
あの理不尽大王のハウアさんが、だ。ありえない。僕は開いた口が塞がらなかった。
「ミナトっ! 貴様っ! なんだその
なんて思っていたら、ハウアさんに胸倉を掴まれた。
「だ、だってハウアさんが急に人を褒めるからっ!」
「んだと!? じゃあお望み通りのことをいってやる!! この――」
スパンっとハウアさんの頭がいい音する。グディーラさんが丸めた紙でひっぱたいて止めてくれて助かった。
「やめなさい馬鹿。話が進まないでしょうがっ!」
気を取り直して再び話始める僕達。ハウアさんの予想だと《黒蠍獅》もヴェンツェルが作り出した吸血種で、儀式の間の守護が目的。
故に必要以上に追ってこなかったんじゃないかという結論だった。
それについては皆も同意見。恐らく接近しなければ攻撃はしてこない。
けどこのままだと儀式は止められないから、
問題はどうやって倒すかだ。
「とりあえず、そうなぁ……お前等二人〈
「「はぁっ!?」」
二人ほぼ同時に声を上げた。この人はなんの脈絡もなく何を言い出すんだ?
「な、なんなのさっ! いきなりっ!」
「楽しみなのは分かるけどよ、興奮すんなって、ちゃんと意味があんだよ」
興奮とか、楽しみとか、別にそんなこと思っているわけじゃ……。
それはきっとアルナも同じ筈。やば……目が合った。
そんな……俯き加減で顔を逸らして、恥ずかしそうにされたら、僕だってまともに見られないじゃないか。
「まず、お前等の象気はよく似た性質をしている」
それなら先週の〈大喧嘩〉のときに気付いている。考えてみれば【光】と【雷】なのだから当然だ。
「そんで、二人とも【
共震? 初耳だ。師匠からそんなこと聞いたことがない。
アルナも知らないみたい。二人して首をかしげる。
「その様子じゃ知らねぇようだな。あの
ハウアさんの話だと、【共震】とは両者の象気が自乗化される現象だという。
ただし【共震】が起こるのは二人の象気の性質が非常に近い時だけ。それが本当なら凄いことだ。
「共震には単に呼吸を合わせるだけじゃ駄目だ。互いの心が通わせねぇといけねぇ、そこでっ! 接吻ってわけだ」
うん、よく分かった。
【共震】と接吻になんも関係性も無いことに。
「その話だと全く関係ないよね? 互いの心が通じ合っていればいいわけだし、僕達なら心配ないんじゃないかな。ねぇアルナ?」
わざわざそんなことしなくたって。きっとアルナだって同じことを思っている筈。
「う……うん……」
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