第三章 地下牢のグリフォン

第21話 漫画スキルにおける2つの弱点

 前回のあらすじ。

 聖女として異世界に召喚されたわたくしですが、ただいまイケメン騎士の小脇に抱えられております。

 胴体が苦しいのでそろそろ離してほしいですぞ~!


 ☆ ☆ ☆ ☆


 廊下を進み、人気ひとけのないところまで来ると、ウェイ君は冷たい口調で告げました。


「おい聖女。食堂を見たならもう帰れ」

「帰りませぬ! わざわざそれを言いに来たのですか!? この暇人ッ!」

「あまり騒ぐな。モンスターの餌にするぞ」

「ひょわぁっ!?」


 安っぽい脅し文句に、つい情けない叫び声が出てしまいました。

 異世界に来てまで、わたくしはいったい何をやっているのでしょう。イケメンに荷物のように抱えられ、帰れと脅されているだなんて。


「そもそも帰りたくても帰れないのを知ってるでしょう? モンスターが祠を壊しちゃったから送還の儀式ができないって、ジオ司祭もおっしゃっていたじゃないですか」

「……ジオか。あいつの言うことを真に受けるな。そもそも、あいつが本当のことを言っているという確証はあるのか?」

「ではジオ司祭が嘘をついているって言うんですか!?」


 曲がりなりにもジオ司祭は国王代理。

 それを疑ったり呼び捨てにするだなんて、この男は何様のつもりなのでしょう!?


「お前、極度のお人よしって言われないか?」

「人を疑う方が失礼ですぞ!」


 埒がらち明かないと思ったのか、ウェイ君は話を戻しました。


「お前、まだこの世界を見たいと思っているのか」

「……ウェイ君はどうしてそんなにわたくしを帰らせたいんですか? 聖女アレルギーでもあるんですか?」

「足手まといだからだ」


 ド直球!!! うわーん!

 たしかにそうだろうなとは思ってましたけど! それにしたって、もう少し人の心とかないんですか!? 傷つきますぞッ!

 そうだ、この男にも獣耳とか生やしたらいいのでは? そうすれば多少はラブリーになるでしょうし。ヨシッ、名案ですぞッ!

 スマホを取り出そうとしたそのとき、ウェイ君がぽつりと呟きました。


「そもそもお前のスキルは戦闘に向いていない」

「それはわかっています。わたくしのスキルは攻撃系ではなく、いわば特殊系なのでしょう。でも、やり方を工夫すれば――」

「わかっていない。あのスキルには弱点がある。それもふたつだ」

「弱点?」


 わたくしは首を傾げました。

 たしかに【漫画】スキルは少しばかり癖があるかもしれませんが、わたくしにとってはこれ以上ないくらいぴったりのスキルです。

 絵に描いたことがそのまま現実になるスキルだなんて、チート級ではないでしょうか? しかもMPには底がありませんし。

 それなのに、ふたつも弱点があるとな?


 静かな通路に、わたくしたちの足音に交じってウェイ君の舌打ちが小さく響きます。そういえば彼はどこへ向かっているのでしょう?

 先ほどから、少しずつ廊下や通路が狭くなり、人の気配からも遠ざかっているような気がするのですが。


「自分で弱点に気付いてないのか。致命的だな」

「もったいぶらずに教えてください。知っておいたほうがいいと思いますぞ、この国のためにも、お互いのためにも」


 思い切って聞いてみましたが、きっと彼のことですから教えてくれないでしょう。

 どうやらわたくしのことを嫌っているようですし。

 期待しても無駄だと諦めたそのとき、ウェイ君がふたたび口を開きました。


「お前のスキルは絵を描いて発動させるんだよな」

「ええ、そうです」

「つまりあの短時間でサイクロプスの姿を描いたのか」

「まあそうですな。あとは、動きを止めたり体を縮ませる効果なども描き入れましたが」


 思い返しても、我ながらよくあの状況でそれだけのことをやったものです。

 日々絵を描き続けてきたヲタクだからこそできたのです。

 戦場での様子を思い返しているのか、ウェイ君はしばらく黙ったまま天井を見つめていました。わたくしも彼の小脇に担がれたまま、じっと彼を見つめます。

 やがて、彼はぽつりと呟きました。


「お前は絵を描くのが速いんだな」

「えっ、なんですかいきなり。褒めても何も出ませんぞ? ぐふふへへっ、照れますな~!」

「だが遅い」

「なんっですと!? 速いのか遅いのか、どっちなのですかッ!?」


 いきなり褒めたかと思えば、今度はディスってきましたぞ。

 なにが言いたいのでしょう、この男は?

 わたくし、これでも素描のスピードには自信があるのですが! 毎日鍛えているのですが!?


「どんなに速く描けても、戦場では一瞬が命取りになる」

「なるほど。つまり、戦場でのんびりお絵描きをしている場合ではないと?」

「そうだ。十を数える間にお前の命は尽きてるかもな」


 その言葉に、背中がぞくりとしました。

 この世界に来る前のわたくしだったら、彼の言葉はただの脅し文句だと思っていたでしょう。しかし、戦場で人間とモンスターが入り乱れて戦う光景を目の当たりにしたあとでは、現実に起こり得ることなのだという実感がありました。


「……あまり脅かさないでほしいのですが」

「召喚されたその場で頭からモンスターに食われた聖女もいた。お前はただ運よく生き延びただけだ」

「ひええぇ~」


 頭のてっぺんから爪先まで一気に震えが走り、思わず身をすくめました。

 わたくしだって、ウェイ君がいてくれなかったら戦場で死んでいたかもしれません。

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