第38話 エルフちゃんと成人の日
一月の第二月曜日。成人の日だ。
埼台市では成人年齢が十八歳に引き下げになったけど成人式は従来通り二十歳にやるそうだ。
十八歳だとみんな地域の高校へ通っていて普段とあまり変わりがない。
市町村の位置にもよるけれど、二十歳だと大学二年生の歳なので地方大学や大阪、京都、福岡などへ進学した子が戻ってきて懐かしいね、ってできるのだ。
「だから俺たちは四年後だね」
「四年後」
「えっと結婚できるのは十八歳からだね」
「高校生って結婚してもいいのでしょうか?」
「ごめん、分かんない。あんまり前例はないかもしれん」
「そうですよねぇ」
現役高校生で結婚か。
子供を産むとなると高確率で退学を勧められるのは聞いたことがある。
一か月程度は学校を休むというのと、まあ世間体というクソみたいな理由だろうけど、分からないでもない。
でも結婚だけならどうだろうか。籍を入れるだけ。
名字が変わるのはちょっと困るかもしれない。というのも高校ではあまり前例がないのでそういう変更に対応した事務処理とかの仕方が分からないのだ。
でも親の離婚でも名字が変わることは普通にあるので、たぶん処理上はなんとかなると思う。
学校でもハルカとそういう話をした。
「山女ハルカか」
「ちょっと……やめてよぉ、恥ずかしいじゃない」
「夫婦別姓ってまだ法律通過してないんだっけ」
「うん」
「名字変わるの好き? 嫌い?」
「私は好きかな。旦那様と一つの家庭になるっていうのは憧れだわ」
「そうなんだ。別姓派かと思ってた」
「私だって女の子の結婚とか夢見ることもあるの、べーだ」
「あはは、悪い悪い」
「もう、私のことなんだと思ってんのよ」
「俺がハルカの家の名字を名乗ろうか?」
「ひぇぇ、それはナシかな私的には」
「そうなんだ」
「うん、なんとなくだけど」
まあ夫婦別姓やどちらの名字にするという話にも意見はいろいろある。
俺は別に山女姓にこだわりはない。
なんでもおじいちゃんのおじいちゃんくらいの明治のときの人が、川で山女がたくさん取れるのが縁起がいいとして名乗りだしたらしい。
もっと前から通称で山女さんと呼ばれていたみたいだけど。
明治の戸籍を作るときには名字は自由だったから。
それが今でも続いているという。
埼台市市民ホールにはたくさんの新成人でごった返している。
男性はスーツが多いけれどあおり袴の人もいる。
女性は和装の子が多い。赤や金の刺繍なども使われていて非常に豪華だ。
今年は運よく雪が降っていないが、この成人の日は旧センター試験の大学入学共通テストと並んで雪が降る日のような気がする。
イベント日なので多い印象なだけらしいけど、でもそこそこ降る。
そういえば今年はクリスマスには雪が降らず、ホワイトクリスマスは来年以降に持ち越しになった。
ホワイトクリスマスはあまりなくて、十年に一回あるかどうかくらいだと思う。
日本海側や東北以北よりは全然降らない。
それで共通テストは相変わらずピンポイントで狙ったみたいに雪が降って、試験が数時間後ろにずれこんだりする。
今年もまさにそれで首都圏の電車網は混乱をきたして受験生をさんざん悩ませた。
「私たちも再来年、あれやるんですかぁ」
「ああ、それまでに転移門が開いていないなら、共通テストで雪で混乱しながら試験を受ける可能性はある」
「イヤですぅ、なんとかしてくださいですぅ」
勉強ができるララちゃんですら泣きついてきた。
そう言われても天気を操作できるのは神様くらいなものだ。
いや雨を降らすのに空気中に何か撒くことで人工雨や人工雪ができるんだっけ。
どこかの大国ならまだしも日本ではさすがにそこまでやらないか。
「雪は怖いですぅ」
「そんなに雪ダメなの?」
「まだ見たこともないですぅ。あぁああ遠くの山の頂上に積もってるのしか見たことがないですぅ」
「ああ、そういうこと」
「はいですぅ」
エルフの森は比較的温暖で冬でもマイナスぎりぎりならないくらいらしい。
俺のイメージではアマゾンなんだけど、それよりは少し寒そうだ。
でも雪は降らないと。なるほどなぁ。
「なんだっけ山の名前」
「ベリドントン山脈とマダグダスカル山ですね」
「そうそれそれ。竜って寒さに強いのかな」
「山の上に住んでいるわりには、思ったより寒がりで冬は巣に藁とかを敷いて籠っているらしいですぅ」
「そうなんだ」
「はいですぅ。毛皮がないのでちょっと寒そうですぅ」
「ああ、トカゲとかヘビみたいだもんね。羽毛があればいいんだろうけど」
「それじゃあ、鳥さんですぅ」
「だよな」
「なんだっけでっかい鳥」
「ガルーダですね。世界で一番大きい神鳥ですぅ。ちなみに竜より大きいですよぅ」
「そんなにデカいのか」
「はいっ」
ちょっと見てみたい気もするが、ガルーダが飛んでいるところ。
そこまでデカければ竜みたいに話したりできて温和かもしれないしね。
今年も寒いので成人の日にはもこもこの白いファーをつけた着物姿の女性たちがたくさん歩いていた。
足にはあわせて下駄を履いている。
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