第34話 エルフちゃんと師走とカレー

 もう年末の十二月になった。

 年月の過ぎるのはあっという間だ。


 それは師走。お坊さんが忙しそうに走り回るという意味らしい。

 なにはともあれ、どこのお店もそこもかしこも赤と緑の装飾が目に付く。

 それから今年は電飾がすごい。


「すごいですねぇ。ハロウィンもすごいと思いましたけど、クリスマスはもっとあちこち飾られてますぅ」

「ああ、これも去年まではそれほどではなかったんだけど」

「電気料金が今年はかなり安くなるみたいで、飾り付けする家が増えたらしいよ」

「なるほどなぁ」

「すごいですねぇ」


 なるほどハルカの言うように電気料金引き下げの影響か。

 すでに商用核融合炉の一号機が稼働を開始したとこの前ニュースでやっていた。先行して全国で電気料金の特別割引が行われている。

 メルトダウンなどの心配もなく安心安全の次世代クリーンエネルギーだという話になっている。本当かは知らないが。

 これからもっと電気は安くなるらしい。

 自然エネルギーの時は逆に電気料金の加算があったそうなので、あれと比べると市民からの風当たりも少ない。

 あまりに政府に都合がいいので、実は魔道炉という噂も笑ってしまうが微妙に真実味があって面白い所だった。


「魔道炉の噂があるんだけど」

「魔道炉ですかぁ、それはまた豪勢ですねぇ」

「魔道炉って実在するの?」

「ええ、ありましたよぉ。エルフの里には結界があってそれを稼働させるのに二十四時間、王宮の魔道炉が動いているそうですぅ」

「へぇ」

「全部で三つあるらしいですよぅ」

「なるほどなぁ」


 あるんかい。噂が本当だとは思わないが、こっちもこっちですごい。

 王宮に三つということからかなり大型なのかもしれない。


「この世界では魔石がないので、違うと思いますぅ」

「あぁそりゃそうか」

「はいですぅ」


 魔道炉といえば普通は魔石を燃料にぱくぱく食べる燃費の悪い物というのが常識だ。本物がそうとは限らないが、魔石が燃料なのはだいたいそうなのだろう。


「冒険者が持ってきた魔石は、魔道具にも魔道炉にも使われるんですぅ」

「へぇ」

「特に魔道炉にはクズ魔石をたくさん入れられるようになっていて、スライムの魔石などは冒険者ギルド経由でみんな王宮で引き取ってるんですよぉ」

「あぁ、なるほどね。魔道具には大きい粒のを使って長持ちさせると」

「そういうことですねぇ。無駄がないんですぅ」


 大きい炉のほうが小さい魔石をたくさん使って動かすというのはなるほど変わっている。

 魔道具にスライムの魔石やクズ魔石なんかを使うと寿命が極端に短いだけで不便なのだろう。うまくできているものだ。


「そういえば妹が戻ってきたから、うちのカレー食べたいか?」

「はいっ、そういえばそういう話でしたっ」


 ということでスーパーへ行きカレーの材料とカレールウを買う。


「どれがいい?」

「えっとどれがいいか分かりませんっ」

「あんま辛くないほうがいいよな」

「はい、そうですね。でも甘口以外にしてください」

「ああ、それは願ったり叶ったりだな」


 俺もお子様向けの甘いカレーよりはもう少しピリ辛くらいがいい。

 適当に見繕って、よさそうなものをインスピレーションで決めた。


 家に帰ってきて野菜をカットしてタマネギを炒めてお肉を炒めてと作っていく。

 今回はビーフカレーだ。

 関東では関西よりもわりあい肉といえばブタも多いので普通のカレーだとポークカレーが主流だと思う。

 でも今回はビーフだ。

 ちょっとコクとビーフ特有の肉の旨味が美味しいので。


「炒めますぅ、炒めますぅ」


 鍋の底をヘラでかき混ぜて焦げ付かないようにする。

 だいたい火が通ったところでスープのように水を入れる。


「あとはちょっと煮込もうか」

「はいですぅ」


 この煮込んでいる間にビーフの肉が柔らかくほろほろになるのでそれが美味いんだ。


「ただいま~」

「妹ちゃんお帰り」

「エリカちゃんおかえりなさぃ」


 妹が放課後も勉強して帰ってきた。

 最近は外が暗くなるのが早いので前よりは帰りが早い。

 前はもっとぎりぎりまで勉強してきていた。

 まったく元々学力が足りないのに俺と同じ高校に進学するの一点張りで、ひたすら勉強しているのだ。

 それはもう執念に近い。


「なんとしてもお兄ちゃんと同じ高校へ行きたいんだもん」

「そんなに俺のこと好きなのか……」

「うんっ。大好きだよ? もちろんララちゃんも大好きっ」

「だそうだ」

「かわいいですぅ、うりうり」


 ララちゃんがエリカの頭をなでなでしている。

 俺からすればどっちも妹みたいで仲良くしてくれる分にはかわいいので問題はない。


「くんくん。この匂い。ビーフの香り。ビーフカレーだ」

「あたり」

「やったっ。お兄ちゃんのカレー大好き」

「お、おう」


 今日は大好きの大盤振る舞いだな。

 妹もずっと俺のカレーは食べていなかったからな。

 親がいなくなった最初の頃は俺も料理を毎日のようにしていたが、妹が入院してからというもの現在までレトルトとか冷凍食品なんかが多い生活だった。

 どれもそこそこ美味しいので、自分たちで張り切って作らなくてもそれなりに満足できる食事ができていた。

 もちろん作ったほうが美味しい料理はある。


「「「いただきます」」」

「おいしぃ、お兄ちゃん最高」

「ああ」

「美味しいですぅ、これがケート君のおうちの味なんですね」

「そうだな。母さんのカレーを一応再現してる」

「本当、自分で言うのもなんだけど、美味しいな」


 カレーは大好評となった。

 また機会があれば作ろうと思う。

 十二月と言えばクリスマスだ。今度は何を作ろうか。

 俺は頭の中にレシピを並べて検討を始めた。

 今年は妹もララちゃんもいるから作り甲斐がある。ハルカも呼んだ方がいいだろう。

 カレーは思い付きだったのでハルカを忘れていた。

 のけ者はよくないからな、うん。


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