第31話 エルフちゃんとハルカの誕生日
もうそろそろ十一月。五日はハルカの誕生日だ。
ララちゃんと二人プレゼントを探すためにおデートをしている。
女の子にプレゼントするために他の女の子とデートなんてと思うだろうが、俺も思う。
でもハルカとララちゃんは俺を共有しているようなものだ。
「えへへ、ハルカさん何がいいですかねぇ」
「全然思いつかない」
「指輪とか欲しがりそうです。きゃっきゃっ」
「婚約指輪か? 早くないか?」
「え、何いってるんですか、正気ですか?」
なぜか白い目で見られる俺。
「婚約指輪と誕生日祝い、一緒にされたら女の子に怒られちゃいますよ。別々のことなんだからしっかりしてください」
真面目に怒られた。俺解せぬ。
いやエルフの価値観かもしれないし。
「そっかじゃあ婚約じゃない普通の指輪贈るか」
「はいっ、それならいいと思いますぅ」
「指輪か。まともなのだと結構高いな」
かといってその辺の路上販売の指輪を買おうとは思わない。
ものによっては金属アレルギーとかもあるので、いい品を買ったほうがいい。
「シルバーかな」
「そうですね。さすがにゴールドだと大げさかなぁと、魔術的にも」
「魔術ね」
「はいですぅ」
エルフは魔術に詳しい。
それがどの程度この世界に通用するかは不明だが、少なくとも魔法は使えるので、関連性が皆無ではないのは確かだ。
「そういえば結婚指輪も元は魔術なんだっけ」
「らしいですね。この世界の歴史はあまり詳しくなくて」
「そっか、ララちゃんが知っててもそれは向こうの世界の話か」
「そうですねぇ」
妻が浮気をしないように指輪で精神を縛る契約の一種なんだったかな。知らんけど。
そうして装飾店に入ってみる。緊張してくる。
「ご婚約ですか?」
指輪をつけていない俺たちと年齢から見て婚約指輪だと思ったのだろうか。
「いや、ここにいない幼馴染に誕生日祝いを」
「分かりました。指輪のサイズは分かりますか?」
「いや」
「ハルカちゃんの指輪のサイズならだいたい」
「何で知ってるんだ」
「女の子同士の秘密だよぅ」
「お、おう」
なんだろう。女子特有の触りっことかすると分かるのだろうか。
たぶんそういうのだろうな、女の子のスキンシップはよく分からない。
「ダイヤモンドの指輪が婚約指輪なんだっけ」
「そうですね。それで結婚指輪はプラチナリングが多いです」
「なるほどね」
それでシルバーリングか。
「高校生の誕生日祝いなら、シンプルなシルバーリングでも十分かなと思います」
お店の人が教えてくれる。
まあそうだな。ルビーとかついてたらびっくりするもんな。
「それに……宝石がないほうが邪魔でなく、普段使いに便利というのもあるんですよ」
「なるほどですぅ」
「それで結婚指輪はプラチナなのか」
「そうみたいですぅ」
ララちゃんもうなずいた。
「じゃあシルバーのリングで」
「分かりました。デザインもございますが」
「そっか、見てみるか」
いろいろある。蛇みたいのとか近未来みたいなのとか、ただのリングももちろんある。
そうだなちょっとこの折れ線みたいな近未来のがいいかな。
「じゃあこれで」
「かしこまりました。刻印なしですと在庫がございますのでお持ち帰りできます」
そうして指輪を買った。
あの独特の指輪入れの四角いケースをパカッと開けてみると、なるほど、それっぽい。
なんだか感慨深いな。
あれだけ疎遠になっていたハルカと高校で同じクラスになり、ララちゃんと交流する中で前以上に親密な関係になった。
昔は婚約の約束までしたと言われて無効にしてもらったけど、やっぱり俺、ハルカのことも好きなんだよな。
十月五日、放課後。
「ハルカ、誕生日おめでとう」
「ハルカさん、誕生日おめでとうですぅ」
「ハルカお姉ちゃん、おめでとうございます」
「ありがとう、三人とも」
四人で俺んちの居間でテーブルを囲う。
ハルカの家でやってもよかったが、家族とは別で祝うことになった。
「あのこれ」
俺はぽいっと袋を渡す。
「この袋、駅前の宝石店じゃない」
「だな」
「あけて……いいの?」
「うん。そのために買ってきたから」
「わかった。ありがとう」
ハルカが中身を出す。パカッと蓋を開けると指輪が。
「指輪、なのね。私の初めての指輪」
「お、おう」
うれしそうになぜか左手の薬指につけるハルカ。
「えへへ、まさかヘタレの景都から指輪を貰う日がくるとは。生きててよかった」
「ああ、誕生日だからな」
「うん」
優しそうにハルカが微笑んだ。なんだか聖母様みたいに愛嬌があった。
「私からはエルフちゃん人形ですぅ」
「あ、これ」
「うん。ケート君のとお揃いですぅ」
「ありがとう、うれしい」
小さいエルフちゃん人形をぎゅっと抱きしめる。
これはとんだサプライズだな。
この前一緒に居なかった日があったんだけど、あの日に買ったのかな。
俺とハルカ、どちらもララちゃんにとって大事だという表明に他ならない。
これは俺と結婚するくらい好きならハルカも同じくらい好きと言ってるようなものだ。うれしくないわけがなかった。
あと妹のプレゼントもあったけど、ハンカチかな、うん。
なぜかハルカは目を真っ赤にしてよろこんでいたけど謎だった。
ただのハンカチではないのかもしれない。有名ブランドとか。
こうしてハルカの誕生日を無事に過ごすことができ、俺たちはまた一歩、大人になった。
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