第2話
「次は芋をすります!」
今度は僕の番だ、と言わんばかりに気合いの入った様子の中島はすり鉢につくね芋を入れ、すりこぎと呼ばれる棒で芋をする。
何度か手が滑り苦戦していたが、無事にすり終わると上白糖を入れた。
「これをまたするんだけど……これが一番大変な工程なんだよ」
中島は芋と上白糖の入ったすり鉢を見て苦笑いを浮かべる。
「ぐ、ぬぬぅ」
先程の言葉の通り、最初は順調そうにすっていた中島だったが粘り気の増した芋に次第に苦戦し始める。
腕に力を入れているので血管が浮かび上がり、顔も耳まで赤くなっている。
「ごめん、ちょっと休憩」
「じゃあ、私が続きをやりますね。えっと、こうやってすれば、って重っ!」
疲れ切って椅子に腰を下ろした中島と交代して芋をすろうとしたのだが、なかなかにきつい。粘り気が強すぎてするのにだいぶ力が必要だ。
「はぁ、はぁ。これ、完成したものはこちらですってなりませんか?」
「残念ながらなりません」
料理番組みたいに完成したものがほいっと出てくることに淡い期待を抱いたが、当然のように、無慈悲に中島に否定される。まぁ、用意されていた方がびっくりするが。
大変だが、ここはやはり地道に頑張るしかない。夕方の料理番組のように完成品は用意されていないのだから。
必死になってすり合わせていたが私の力も尽きてしまい、また中島と交代する。
少し休憩を挟んだ中島がすり始め、しばらくすると中島の手が止まる。
「これくらいでいいかな」
そう言って中島はすりこぎを机の上に置く。
椅子から腰を上げて中島のすっていたすり鉢の中を覗き込むと、すられ続けた芋たちは白っぽくなっていた。それを違う器に移動させて上用粉を入れる。
「手で練っていきます」
工程を説明しながら中島が生地を手で練っていく。
その様子を隣で観察しながら次の出番を待った。
しかし、饅頭とはこんなにも作るのが大変なものだとは知らなかった。私はお菓子作りは得意ではないのかもしれない。
「実緒ちゃんは作っておいたあん玉を持ってきてくれる?」
「あっ、はい」
生地を練っていた中島がこちらに視線を向けてそう言う。中島の言葉通り、邪魔にならない位置に移動させていたあん玉をテーブルの上に置いた。
「このくらいかな。よし、生地はこれで完成!」
生地作りを終え、清々しい顔の中島に拍手を送る。
「次は生地をちょうどいい大きさに分けてあん玉を入れていこうか」
「はい!」
出来上がった生地を均等な重さにちぎり、生地を丸く伸ばしてあん玉を入れて閉じる。
伸ばした生地にあんを入れるだけなので簡単かと思ったが、生地を伸ばしすぎてはいけないので意外と大変だ。
ちなみにこの工程のポイントは生地を手に取る前に、手に粉をつけることだ。こうすることで生地が手にくっつかずに済む。
「よし、これを蒸したら完成だ!」
すべてのあん玉を包み終わると今度はセイロを用意する。
あんを包んだ生地の下に小さな敷き紙をしき、くっつかないように気をつけながらセイロの中に並べて、蒸す。
蒸している間に使ったすり鉢などを洗っていく。
「おいしくできるといいね」
「頑張りましたもんね。これで失敗したら私は二度とお菓子作りはしない気がします」
もし成功したとしてももう二度と上用饅頭を作ることはないとは思うが。
「トヨさんと高橋さんにも完成した饅頭をあげようと思ってるんだ」
「たくさん作ったのでいいんじゃないですか。一応聞きますけど、私も食べていいんですよね?」
「もちろん!」
洗い物が終ると中島は嬉しそうに饅頭が蒸されているセイロを見ている。
その姿はおもちゃ屋でわくわくしている子供のようで少し微笑ましい。
「中島さんはお菓子作りは好きなんですか?」
「うん、結構好きだよ。甘いもの大好きだからね」
そろそろ蒸し終わるかというタイミングで、中島は嬉々として饅頭を乗せる皿を用意し始めた。ここ最近で見た中で一番楽しそうだ。
「もうちょっとで……できたよ!」
蒸すときに設定したタイマーがなるのを確認して中島がセイロのふたを開ける。
ぶわっと湯気が立ち上ったあと、おいしそうに膨らんだ饅頭が姿を表す。
「うん、見た目はばっちりだね」
中島は火傷しないように注意しながら饅頭を一つ取り出し、真ん中で割った。
「火も通ってるから完璧だね。取り分けよっか」
「はい!」
トヨと高橋の分を別に取り分け、私と中島の分を皿に乗せて居間に移動した。
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