第23話 姉ドラゴンとの対面
「フラウ! 避けろ!」
俺は咄嵯に叫んで回避行動を取る。
「はいっ」
フラウもすぐに反応して飛び退いた。俺は地面に伏せた姿勢のまま、ファイアブレスを避け続ける。
「フラウ、こいつは一体なんだ?」
俺はドラゴンの隙をついてフラウの手を引いて物陰に隠れながら尋ねると、彼女は少し驚いた表情で答える。
「……そういえば忘れてました。実は私には姉がいるんです」
「なんだって!?」
俺は驚きの声を上げた。しかし、よく考えてみればフラウだって元々は普通のドラゴンだったわけだし、姉がいたとしてもおかしくはないのか……。
「はい。といっても、私が生まれた直後に彼女は守護龍になることを放棄してどこかへ消えてしまったんです。それで、私が代わりに母の跡を継いで守護龍になりました」
フラウは悲しげに目を細めた。
「そうか……」
なんとも言えない気持ちになる。
「ちなみに、名前はなんていうんだ?」
「アイシアです」
「アイシアって名前なのか……あのドラゴンは」
「ええ。彼女はとても強いんですよ。ただ、気まぐれで飽きっぽい性格なので、あまり戦闘はしたがらないのですが……」
フラウは心配そうな面持ちで言う。
「なあ、なんとかしてアイシアを説得できないか?」
「ドラゴンは巣の中に勝手に入ってくる者を嫌います。今はものすごく気が立ってるみたいなので説得は多分無理じゃないかなと……一応やってみますけど」
フラウは自信なさげに言う。
「俺はドラゴンの家族関係のことはよく分からないけれど、さすがに、実の妹相手に問答無用で襲いかかってくるようなことはないんじゃないか?」
俺は思ったことをそのまま口にする。すると、フラウは苦笑した。
「それは……確かにそうかもしれませんけど」
「だろ? 俺もフラウの姉ちゃんとやり合いたくはないんだよ。だから頼む」
「分かりました」
フラウは力強くうなずくと、アイシアの前に進み出た。
「お久しぶりですね姉様。元気にしてましたか?」
フラウは優しく語りかけるように話しかける。
「…………」
だが、アイシアは無言でこちらを睨みつけてくるだけだ。
「フラウですよ。覚えてますか?」
フラウは微笑を浮かべながら続けた。すると、アイシアの身体が光に包まれて、人間の姿をとる。フラウと同じ銀髪の、美しい女性だった。しかも、フラウよりも歳上で圧倒的にスタイルが良い。そして、どこかチャラチャラした雰囲気を感じる。
「……本当にフラウなの?」
アイシアは困惑した様子でフラウを見つめながら尋ねた。
「はい、そうです。フラウです」
フラウは優しい口調で答えた。
「……どうしてウチに人間の言葉で語りかけてくるの?」
アイシアは不思議そうに首を傾げる。
「ここにはロイが……人間がいるからそっちの方がいいと思って……だめですか?」
フラウがそう言うと、アイシアはふるふるとかぶりを振る。ダメではないけれど面倒くさいということだろうか。
「じゃあ、私の話を聞いてくれますか?」
フラウは提案するが、それに対して
「嫌。てかウチ、あんたたち嫌いだから」
アイシアはつれなく返した。
「そんな……」
フラウはショックの表情を見せる。
「勝手にウチの巣に入ってきて、何してるのか知らないけど、とっとと出て行ってくれないかしら」
アイシアは迷惑そうに言った。
「ちょっと待ってくれ。俺たちは君と争いに来たんじゃないんだ」
俺は慌てて間に入るが、アイシアは冷たい視線を向けるだけだった。
「ていうかあんた誰?フラウの彼氏? フラウ、人間の彼氏ができたの?」
アイシアは小馬鹿にしたように尋ねてきた。
「ちっ、違います! 彼はただの旅の仲間で……」
フラウは顔を真っ赤にして否定する。
「へぇー。でも、その割にはずいぶん仲良さそうだよね。もしかして、もうヤっちゃったとか?」
「ま、まだやってません! そういうこと言わないでください!」
フラウはさらに赤くなって反論した。
「え、あんた守護龍になって契約もしてたくせにもしかしてまだ処女なの? ウソぉ、マジで?」
アイシアは信じられないという顔で驚く。
フラウの顔はますます紅潮していった。
「こら、いい加減にしろ」
俺は二人の会話を遮るように口を挟む。
「人間風情が、ウチに話しかけんな。守護龍でもないウチはフラウみたいに人間に好意的なわけじゃないから」
アイシアは不快そうに吐き捨てた。
「まあまあ、そう怒らないでくれ。君はフラウのお姉さんなんだろ? だったら俺とも仲良くしてくれよ。勝手に巣に入ったことは謝るからさ……ここにドラゴンが住んでるなんて知らなかったんだ」
俺は必死に取り繕う。しかし、アイシアは依然として冷淡な態度を崩さない。
「……別にウチはフラウに怒ってるわけじゃないけど、フラウがいなくなってからこの巣に戻って100年くらい寝てたら昨日、大剣を持った人間が現れていきなり襲われて、マジで意味わからなかっただけだし」
身体の傷はその時についたものだろうか。大剣の男は多分あの王都の酒場で出会ったドラゴンスレイヤーだろう。もしアイシアがフラウと間違えられて襲われたのだとしたら申し訳ないことをしたと思う。
「ごめんなさい……私のせいで姉様に怖い思いをさせちゃって……きっとその人は私を狙ってる人ですよ」
フラウは悲しげに謝罪した。
「ウチは人間が嫌いだし、あんたがウチのことを嫌ってることも知ってたけど、だからといってこんな仕打ちはひどいわ。いくらなんでもウチを殺す気だったとしか思えないし。人間には逃げられるし……」
アイシアは恨めしそうに言う。
「でも、私は姉様を傷つけるつもりはなかったんです。ただ、人間を守るために女神と戦おうとしてただけなのに……」
フラウは辛そうな面持ちで言った。
「ふーん、人間を守るために? 人間の味方をしてる女神と戦う? ちょっと何言ってるか分からないんだけど」
アイシアは困惑した様子で言う。
「私を暴走させて封印したのは全部女神が仕組んだことだったんですよ……」
フラウは悔しそうに唇を噛む。
「どういうこと?」
アイシアは怪しげな表情を浮かべた。
「詳しくはわかりませんけれど、守護龍とドラゴンライダーとして活躍する私たちが目障りだったのかもしれないです……」
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