第21話 ドラゴンに年齢を聞いてみたら怒られました

「これは……」

「ほらやっぱり、私の言った通りになったでしょう?」


 フラウは得意げな表情で言うと、嬉しそうに俺の背中に飛びついた。


「はいはい、フラウのおかげだ。ありがとうな」

「ふふん♪ もっと褒めてくれても構いませんよ?」

「調子に乗るんじゃないの。まったく……」


 俺は苦笑しながら、フラウの頭を撫でた。彼女は気持ち良さそうに目を細めてされるがままになっている。


「……で、この本の中には何が書かれてるんだろうな」

「守護龍の成り立ちについてでしょうか」

「そういえば、フラウが持ってる守護龍についての知識ってどの程度のものなんだ?」

「えっと……人間と契約して人間を守護する特別なドラゴンで、契約相手のドラゴンライダーとの間に作った子どもが、次の守護龍になるとか……」

「へぇ……。じゃあ守護龍は代を追うごとにだんだん人間の血が濃くなっていくわけだな」

「……守護龍と完全契約して力を譲渡した人間はほとんどドラゴンといっても差し支えないですから」

「なら俺もドラゴンってわけか」


 俺は苦笑いを浮かべると、守護龍の書をパラパラとめくっていった。

 しばらく読み進めていくうちに、守護龍とドラゴンライダーの関係についての詳しい記述を発見した。

 守護龍とドラゴンライダーの間には深い絆があり、それは人間同士が築けるような関係ではないということ。


 守護龍はドラゴンライダーと共に戦うことで、本来の力を発揮することができ、ドラゴンライダーは守護龍の力を行使することができるという。


「ドラゴンライダーと守護龍の関係は、他の魔物と人間の契約関係とはだいぶ異なっているようですね」


 フラウは俺の隣に座って一緒に書物を読んでいた。


「そうだな。どちらか一方が力を持つような関係じゃなくて、お互いがお互いを必要とする関係なんだな」

「はい。私とロイは図らずもそんな関係を維持できていますね」

「そうだな」


 俺はフラウの言葉に微笑み返した。

 さらに守護龍の書を読み進めると、守護龍とドラゴンライダーの成り立ちに関する詳しい記述を見つけた。


「最初に人間と契約したのは『始祖龍』って言われるドラゴンらしいぞ」

「聞いたことあります。歴代の守護龍の中で一番強い存在だとか」

「フラウと比べてどのくらい強いんだ?」

「私はほんとにまだひよっこで、始祖龍と比べられるような大層なものじゃないですよ……」


 フラウは困ったように笑う。でも、さっきの話を考えると、こいつは始祖龍の血を引いているんだよな? 俺はフラウの顔をじっくりと見つめた。


「な、なんですか……?」

「いや、なんでもない」


 俺は首を振った。


「で、始祖龍の目的は、人間の国に外界から魔物が攻め込んでくるのを防ぐことだったらしい」

「なるほど。歴代守護龍の目的と一致してますね」

「そういうことだな。で、その使命を全うするために、自分の子孫を次々に守護龍にしていったみたいだ」

「でも、どうしてわざわざ守護龍とドラゴンライダーなんていう仕組みを作ったんでしょう? そんなことをしなくてもよかったんじゃ……」


 フラウは不思議そうな顔で言った。


「確かになぁ。まあ、守護龍は人間との契約がなければ力が発揮できないっていう縛りがあるせいかもしれないけど」

「それにしても、魔物の侵略を食い止めるだけなら、守護龍一体だけで十分だと思うんですが……」

「例えば、ドラゴンにとって人間の血が混ざった者は特に強い力を得ることができたから……とか?」


 俺がそう言うと、フラウはハッとした表情でこちらを見た。


「つまり、私が純血のドラゴンじゃなくて、ドラゴンと人間のハーフだから、こんなに強い力を使えるってことですか!?」

「あくまで可能性だけどな」


 俺は肩をすくめた。


「確かに、守護龍以外のドラゴンは私のように人間の姿をとることはないと聞きますし……」

「守護龍だけが特別なのか……」


 俺は腕組みをして考え込んだ。すると、フラウがおずおずと口を開いた。


「あの、ロイ……」

「ん? どうした?」

「もし、この守護龍の書に書かれていることが真実だったら、次の守護龍を生み出すためには私たちはその、しなきゃいけないってことですよね? ……交尾」

「ぶっ!」


 思わず吹き出してしまった。


「い、いやまあ、多分そうだろうけど、別に焦らなくたっていいんじゃないか?」

「そうかもしれませんけど、いつまで経っても子供ができないと、ロイに迷惑がかかると思って……」


 フラウは今にも泣き出してしまいそうな声で言った。


「いや、俺は全然気にしないから! な?」


 俺は慌ててフォローした。

 しかし、フラウは不安げに瞳を揺らしている。


「で、でも、ロイは優しいから、無理してるんじゃ……」

「そんなわけないだろ! 俺はお前のこと──」


 そこまで言って、俺は口をつぐんだ。そして、ゆっくりと深呼吸して、改めてフラウの顔を見据える。


「…………っ!」


 フラウは恥ずかしそうに俯くと、俺の腕に抱きついてきた。


「おい、急に甘えん坊モードになってどうした?」

「べ、べつに甘えてなんかないです……」

「ふーん、じゃあこれはなんだ?」


 俺はニヤリと笑って、フラウの頭を撫で回した。またしても彼女は気持ち良さそうに目を細めると、されるがままになっている。つくづく、こいつは俺よりもだいぶ長く生きているのに、妙に子どもっぽい所があると思う。きっと、ドラゴンの年齢に換算すれば、彼女が自分で言っていたとおりまだひよっこなのかもしれない。


「なあフラウ……お前、何歳なんだ?」

「なぁっ!?」


 唐突な質問を受けて、フラウは目を丸くして驚いた。


「い、いきなり何を訊くんですか……? 女の子に気安く年齢を訊くもんじゃありませんよ?」

「いや、だってお前、見た目は俺より年下に見えるのに、実年齢は結構上だろ? なら、ちゃんと知っておいた方がいいかなって思って」

「そ、それは……そうかも知れませんが……」


 フラウはもじもじしながら視線を泳がせた。


「で、実際いくつなんだ? 正直に答えてくれ」

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